#84 鮮血の洗礼
痛くたって。
まだ、ヤレる!
◆
入江の動かなくなった身体。
「ふぁ? お、俺…??」
そんな入江の目に、映っているのは。
紛れなく。
間違いようもなく。
「んん? この容姿は嫌? 可愛くない出口ちゃん、は」
そう絵里が言うと、長い髪がボタボタと地面へと落ちていく。
短く、ボブへと変わる。
「短くされますか、元の貴女は、今の出口ちゃん以上に長かったのに」
落ちた髪を拾い、絵里に江頭が伝えた。
「りっちゃんと居て分かったんだけど、短いと色々楽なのよ」
ぐしゃ。
落ちた髪の束を、江頭はこっそりとズボンのポケットへと仕舞う。
「ま。確かに短いのって楽だよな。風呂とか戦いにゃあ、特に」
ガクガクー…!
「っく、そ、が‼」
悔しさに、視界が歪む。
涙が止まらない。
「ぅ…っくそ! ぅあ゛」
「そんなに泣いたら、目が溶けちまうぞ」
素っ気なく江頭が笑う。
「あ、ンたが、なか、せ、ってんだ、ょ!」
ゲシ!
「オラ! もう用済みだ、返してやる」
ゴロンゴロンーー…!
江頭に蹴られ、そのまま回転し、小林と五十嵐の席へと行く。
「出口ちゃん!」
「入江君‼」
二人は駆け寄る。
触ると。
そこから激痛が奔り、痛みに入江の顔が歪む。
「お?! いい、痛いのか?? ど、どこが痛い??」
五十嵐がどうしていいか分からず、慌てる。
「っぜ、んし、ん…! っぐぅ!」
小林が絵里を睨む。
「絵里、ちゃん‼」
絵里は小林を見下ろし、口許を吊り上げる。
「なぁ~~に? 可愛いりっちゃん」
威圧。
パンパン!
「はい! 止め、ヤメ!」
江頭が手を叩き、間に割り込む。
「何、…たもっちゃん」
絵里は唇を突き出す。
「絵里様、あいつらを、今ーー相手にしても仕方ないじゃないんじゃねぇの?」
敬語とため口が交じり合う。
「んーだけどさ~~」
「この空間、場所での諍いは禁じられてっから」
指先を、くるくると回す。
「…その規律を護るところ、結構、真面目だよね。たもっちゃんってば」
「ま。これでも番人の端くれなんでね」
絵里は身体を翻し、妾と元へと行く。
「うむ。よく戻られたな」
「ははは! ああ、久しぶりだな。こう、身体で会うのは」
ギシ。
妾は立ち上がり、勢いよく絵里を抱きしめた。
「ああ!」
「ははは! 痛い、痛いぞ」
ポンポン!
「《心臓破裂》‼」
そう小林は立ち上がり、絵里の背中目がけて唱えていた。
「《心臓破裂》‼」
何度も、何度も。
「っちょ! 主任‼ ご乱心すんのはやめるっスよ!」
後ろから五十嵐が羽交い絞めにした。
「止めるなよ。離せよ‼」
「んな真似したって、出口は治んないっスよ!」
「五月蠅いんだよ。離せってんだろ?!」
ボタボターー…。
大量の血が、小林の口から溢れ出る。
その血は、入江の身体にもかかる。
沁み込んでいく。
すると。
「あ、ん…??」
痛みが柔らいだ。
下半身には感覚はないが。
「小林、さん…」
顔を持ち上げる。
と。
また、血がかかる。
ベットリーー…と。
「いい加減にしろ! 血、止めるか抑えやがれ‼」
小林は口を手で抑え、垂れる血を止める。
ゆっくりと、腰が下がり、椅子へと腰を下ろした。
「…う、うん」
小林もしおらしくなる。
「絵里ィ~~手前ェ~~!」
そして、入江は目の前の凶悪な女を睨んだ。




