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#80 虎視眈々、と

 ここに居るよ。


 ここに居てよ。


 ◆


 入江は、自分を見降ろす男の顔を見ていた。

 その男は、あろうことか、


「可愛い、おもちゃ」


 などと、自分のことを言った。

 にこやかに。


「っふ、ふざけんじゃあねぇよ‼ おっさん‼」


 涙が、勢いよく起き上がった入江の目から溢れ散った。

「俺ぁ~~おもちゃなんかじゃねェや!」

「うん。おもちゃじゃねぇなぁ~~ぶっちゃけて言っちまうと」

「そうじゃな。玩具ではない、な」

 江頭の言葉に、妾がかぶさるように言う。

「寧ろ、贄であろうな」


(贄??)


 入江は耳を疑った。


 ◆


「《疾風の江頭》って恥かしい二つ名のおっさん」


 小林がそう言ったのは、いつだったのか。

 言われた江頭は、足を止めて屋上で煙草を吹かしていたところだった。

「あ゛ん、ひょっこの分際で、俺に嫌味かよ」

「いや、仕事しろよ」

「あのよー」


 プシュ!


「…飲み物持参って、お前さんもサボる気満々じゃねぇかよってんだ!」

 プルを開けて、飲んでいく。

「お前さんは破滅型だよな」

「?? 急になんなの、嫌な感じ」

「ははは! だって、お前さん、俺様が入江に喋る度に…」

「度に、何だよ」


 小林の眉間にしわが寄る。


「…《殺戮の小林》って感じがするわ。いい、二つ名だよ、本当に」

「嬉しくも、なんともないな」

「ははは! てか、お前さんは知ってんの?」


 ぷっはー~~!


「?? 何がだよ。分かるように言いなよ」

「なぁに。あいつの二つ名だよ」


 すぅー~~…。


 ◆


「俺たちは絵里様の復活を待ち望んでいたのさ」

 その言葉に、今度は小林が、耳を疑った。

「絵里、ちゃん、を。だって??」


 絵里は、もともと小林の中にあったに過ぎない。

 なのに。


 どういうことなのか。


「どうして、絵里って名前をつけた?」

 江頭が小林に問う。

「教える義理はない」

 そう小林が応える。


 どうしても、何も。

 あれは咄嗟に出てしまったものに過ぎない。


(そう、咄嗟に…いや、そ、んな、ことが…??)

 小林の目が見開く。


 にやり。


「25歳、それは人間の時間が、成長が止まり、進む年齢なのじゃ」

 妾がそう吐き捨て、

「魂の形が決まってしまうのじゃよ、大嫌いな小林よ」

 続けていく。

「それでは、遅いのじゃ。エリを出すには」


 そして、入江の方を見た。


「だから贄は必要なのじゃよ、お主に、分かるかや?」

 小林は顎をしゃくり上げる。

「分かんないね! 何一つとして‼」


 ◆


「あの禿の…二つ名、あんのかよ」

 小林がジュースを噴きこぼした。

「あ~~汚ねぇやっちゃな~~」

 その様子に江頭が噴き出す。

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