#79 崩壊の序曲
いつだって想ってた。
いつだって、愛してた。
◆
フワフワーー身体が浮いているように、入江は思えた。
だが、実際は。
「煙草、臭い」
「うっせ~~なぁ」
江頭にお姫様抱っこされていると知り、思わず悪態をついてしまった。
「魔女は怒りや絶望を、媒体とする」
そう江頭が続けた。
「《憤怒の五十嵐》も悪い素材でもなかった」
素材扱いに、五十嵐が入江を睨みつけた。
ギリ!
「出口を離せ!」
「嫌なこった」
「…チーフ‼」
抱っこしたまま、妾側の席へと腰を下ろした。
「俺は人間の形をした、人形なんだよ」
「「どうでもいい」」
「冷めてぇ~~なぁ」
江頭が苦笑いする。
「な~~出口ィ~~」
ちゅ!
額に口づけをする。
「アイツが来たら怒られちまうから、今だけな」
ちゅう。
今度はーー唇に軽い口づけをする。
五十嵐と、小林が勢いよく立ち上がる。
「っこ、のォォォォーー!」
短剣を振りかざし向かうも、
「おとなしくしろと、僕は言う」
クラリスがそれを妨害する。
五十嵐の身体が硬直し、動かなくなってしまう。
「っぐ! っこのォーー~~っっ‼」
五十嵐の唇がわなわなと震えた。
「止めるのじゃ、クラリス」
妾が指を動かすと、五十嵐の身体が、座席へと座らせられた。
「っと! っととと!」
ボッスン!
その様子を横目で見ていた小林が吐く。
「本当に、君は血の気が多い、抜いてもらうといいよ。全部」
五十嵐ははにかむ。
「…主任、それ、俺に死ねって言ってないっスかね」
小林は目を逸らす。
「そうとらえることしか出来ないなんて。…そのままの意味だけど」
口許は笑っている。
「死ね言ってるじゃないっスか! ふは!」
つられて、五十嵐も笑った。
「こいつはいい媒体だった」
江頭が続けた。
「怒りは持続性がいい。その分、負のエネルギーも溜まりやすいかんな」
「ぃ、か、り??」
「そう、怒りだ」
ちゅう。
「「いちいち、キスすんな‼」」
江頭は頬を膨らませる。
「ケチケチすんなよな、感動的な出会いなのによ~」
入江も言う。
「か、んど、して、ねェ…しーー」
「何だよー~~俺のこと愛してねぇ~~っての??」
うぐ。
「キ、もィ」
ドキドキー…。
「いいけどよぉ~~……で、だから、出会ったとき、こいつでいいやって思ったんだ」
(こいつで、いいや?)
入江の目が大きく、見開かれた。
そして、勢いよく身体を持ち上げ、
「こ、のォ‼」
江頭の頬に手のひらを走らせた。
だが。
その勢いは遅く、江頭のてによって抑えられてしまう。
涙が、ボロボロとみっともなく、情けないぐらいに零れ落ちてしまう。
「おおお、俺は、俺は! あんたの道具じゃねェ!」
大きく声を張り上げた。
江頭がへらつく。
「…道具にすぎねぇよ、出口ちゃんは俺の…可愛いおもちゃ」
その言葉に、妾がほくそくんだ。
腹が立つぐらいの。
ドヤ顔で。
入江にはどうだってよかった。
江頭に裏切られたことが頭を占め、何も、聞こえない。
涙で全てが歪んでいた。




