#78 会いたかった男
もう、少し。
あと、少し。
◆
「我が君! アタシがこの下賤な者を払いましてよ!」
声高らかに、クラレントが声を発した。
そして、椅子から立ち上がる、も。
「止せ、クラレント」
クラリスが静止する。
「!? 何ですの?? クラリスがアタシに物言うなんて、百万年早くてよ!」
「主様の声がかかるまでは静観しろと、ボクは言う」
「アンタって奴は~~ッ‼」
妾を挟み、睨み合う。
「お止しなさい、クラレント」
ようやく妾が声を発した。
「そんな! 我が君よ‼」
クラレントが狼狽する。
「仕方ない。一回、死になさい。クラレント」
「え゛?!」
バシューーーーーーーーーッッ‼
そう妾が言うとクラレントの身体は青い炎が燈り、一瞬で黒炭となってしまった。
席には、確かにクラレントが座っていた後が残っている。
「主様。少しヤリ過ぎだと、ボクは申し上げます」
「…すぐに、生き返るわ。気にする必要もない」
「っは!」
そのやり取りに、小林が怪訝な顔をする。
「仲間を何だと思っているんだ」
声が荒くなる。
「死んだら、お終いなんだぞ!」
五十嵐もだ。
「ち、がう。魔女は、死なない…」
息絶え絶えに入江が言う。
「「!?」」
「…魔女に、死は訪れない…ってよ」
入江は、自身の中の絵里から聞いた言葉を伝えた。
「でも、身体は…ちが、ぅ」
ダラダラーー。
入江の額から、おびただしい汗が浮かび、垂れていく。
「身体は、灰になって…散るーー」
ズクズク。
「…絵里ちゃん。何が言いたいのか分からないよ」
「ははは! そんな馬鹿な!」
「?! その胸糞が悪く、声はー…??」
列車の奥から、っととと、とあの男。
入江が愛する男ーー江頭保がやって来た。
「にひひ! やっと、解放してもらえるぜ! 長かったなぁ~~」
ん~~と江頭が腕を伸ばし、関節を鳴らす。
ボキ、ボキ!
「この舞台の意味が分かったか? 馬鹿な小林君には」
からかう口調で江頭が聞いた。
「知るかよ! 禿主任!」
「誰が禿だ! 誰が‼」
「「お前だ」」
小林と五十嵐が、声を同調させた。
思わず、お互いを見つめ合う。
「たまには合うこともあるんだな」
「そっスね~~」
まず、第一 舞台。
「あの砂漠は記憶だ、なくなった記憶の砂」
江頭が両腕を横に伸ばした。
そして、第二舞台。
「次が、記憶の森。一つ、一つの木に記憶が刻まれている」
そして、最後の舞台。
「そして、ここ。《御霊特急》は切り替えの場所なんだぜ」
淡々と説明すると、いつの間にか。
「なぁ、絵里様」
江頭は入江の前にしゃがみ込み、顔を伺っていた。
「!? 何を??」
そして、入江を抱きかかえた。
「こいつの身体が必要だから、呪いをかけたんだぜ?」
そして、額にこびりついた前髪を払った。
「は、ははは。ぁ、んた、ら、しぃ、な」
痛みに顔が歪んだ入江が吐き捨てた。
「でも。何となく、分かってたろ? お前」
入江の額に、江頭も額をひっつける。
「馬鹿、ら、し-…」
そう言いながらも、入江はしっかりと、江頭の身体にひっついていた。




