#76 シンデレラ タイム
日常から非日常へ。
行っちまった勝ち。
◆
着替えは整った。
「はぁ」
ため息しか出せない。
そこに。
「ん゛…んんんン??」
ポケットの振動に、五十嵐が声を上げた。
「ひょっとして、仕事中も、持ってたとか言わないよな??」
「!? ない、ナイヨ~~ナイナイ‼」
ピシー…。
「その話しは、明日しましょうか? 今日は、もういいです」
「っは、ははは…ふぁい~~…」
携帯をタップする。
「あ!」
その画面に五十嵐が声を上げた。
「五月蠅い」
「出口、ちゃんからだ…」
ぎゅるん!
小林の身体の向きが変わり、五十嵐が持っている携帯を奪おうと、手が伸びた。
しかし、それは寸でで五十嵐も、交わした。
「怖い! きゅ、急に何をするんっスか! 主任っっ」
「見せろ」
「はい! コレ‼」
携帯を小林の目の前に向けた。
【--従業員入口に居るぞ】
居る。
帰って、いなかった。
「行こう」
「は、はい!」
「家まで送らなきゃ」
っぷ! 五十嵐が噴き出した。
「そうっスねぇ~~!」
◆
失望から一転した希望に、足取りも軽い。
エレベーターもちょうどよくあった。
そして、乗り込む。
ポチ。
鈍い衝撃音と、同時に動き出した。
身体も少しぐらついた。
「小林のサン~~このまま行っちゃったら嫌っスね~~」
「有り得なくもなけどね」
ヴィーーーーーン‼
「でも、それはないでしょ」
った。
開いたエレベーターの扉の隙間から、勢いよく小林が出た。
すると、そこには。
「キモ」
怪訝な表情をする入江の姿があった。
「何だ、あんたも居たんだ。帰ったもんだと、思ってたわ」
素っ気なく入江が言う。
「仕事してたしね。誰かさんたちとは違ってね、誰かさんたちが誰とは言わないけどね」
撫で。
小林が入江の頭に手を置く。
「子供扱いすんなっ!」
「十分、子供じゃないか」
「うっせ!」
「あ」
二人のじゃれ合い。
それに絡まない五十嵐が声を上げた。
「「何?!」」
巡回中で誰も居ない、警備室。
その前に置かれているデジタル時計の時間を指した。
「シンデレラタイムになったっスよ!」
午前0時。
そう、てっぺんになった。
「魔法が解ける、か」
「かかってなかったら?」
「そりゃあ…」
入江の問いかけに小林の言葉がしりつぼむ。
「魔法にかかるに決まってるだろう? 出口っ!」
にこやかに五十嵐が笑う。
「少女漫画の読み過ぎでしょ! その展開はッ!」
つられて入江も笑ってしまう。
二人が笑い合う中。
「戯れも、そこまでだ」
「「ーーはい」」
「この扉か、もう一個の扉。その先が、最終舞台だ」
「「ええ」」
「準備は?」
小林は確認する。
答えは分かってはいるが。
「「ばっちこい‼」」
小林の口許が緩む。
「じゃ、行こう!」
勇ましい小林の後ろを二人も続く。
そして、手のひらを弾き合った。
「「魔法にかけれられましょう!」」




