#75 あの子はどこだ
いつもの出来事。
これからの出来事。
◆
てっぺんまでもうすぐ。
朝早くから、夜遅くまでかかる主任という役職。
社畜は悲しいことほどにサービス残業を、嫌とも思わずにやってしまう。
会社には、もちろんーー内緒だ。
「さて、と。一周して来よう」
「! おおお、俺も付き合うっスよ! 小林サン!」
「いや、帰れよ」
「一緒に!」
もう何も言う気にもなれずに、小林も言わなかった。
(あの馬鹿は、まだ、仮眠室なのかな?)
「あー出口ちゃんは、もう仮眠室には居なかったっスよ~~?」
「!?」
小林の心を呼んだかのように五十嵐が言う。
「他のスタッフに聞いたら、いや、仮眠室に行く予定のあったスタッフにですよ?」
「当たり前だ」
サボらせて行かせたと言うなら、1時間正座の刑だ、と小林も思った。
「そう。帰ったんだ」
ボソリーー…。
(護るって言っといて、何だよ。薄情な奴だな)
掻き。
「イラついてるっスね。まぁ、小林サンの大概の原因はあいつっスけど」
「‼ とっとと、帰れよっ」
「はいはい! 一周! 一周っス‼」
「!? お、おいっ」
五十嵐は小林の背中を両手で押した。
ズルズルー…と小林の身体も前へと進んで行く。
「っじゃ、じゃあ、お疲れ。関本君」
「はい! お疲れ様でした、主任」
バタン!
「…っはァ、やっと、静かになった…たっくも~~集中がで…」
チカチカ。
「?! ぇ、電気が、点滅し、るのか?」
同時に。
事務所内に声が、ボソボソ響く。
耳をすまさなければ、聞こえない声が。
「?? 何だって????」
『関本七緒、貴方には選択肢があります』
低いどっちとも分からない声。
誰も居ないよな? と辺りを見渡した。
そして、もう一度。
『関本七緒、貴方には選択肢があります』
ゴキュリーー…。
「…主任~~??」
思わず、居なくなってしまった小林の名前を呼んだ。
◆
今日に至っては、全くフロアーには居なかった。
その分、入念に小林も一周をする。
「あ。ここ現品で一個になったんだ」
寂しくなっているUFOキャッチャーの前に止まった。
「! 小林主任っっ、…と、う、っわァ…」
露骨に嫌な顔をするのは。
「星さん、過去のことなんだからさー」
星みなと、だ。
過去に五十嵐とは男女の関係でもあった。
「いっぺん、死ね! クズ‼」
「で。星さん、この次の指示って出してなかったっけ??」
「! あああ、あのたった今、馬鹿取りされてしまって!」
「…乱獲されちゃったか。パワー上げてたもんね」
話し半分に聞く。
お金さえきちんと入っていればいいことだ。
小林も指示を出し、その場を後にした。
◆
「ふぁ~~」
大きな欠伸をする。
「大きい欠伸っスねぇ~~」
ギロリ!
ここは第四休憩室。
朝とは違い、少し、肌寒い。
「今日は、これでお終いっスかね?」
ポツリと五十嵐が漏らす。
「…いや。ないな、それは」
きっと、それはない。
「うん、ないっスよね」
五十嵐だって、分かっている。
だが、しかし。
「…出口も、薄情っスね」
「別に、どうだっていいし、どうだって…」
余計に、休憩室の中が肌寒くなる。




