#73 しばし、お別れを
夢のせいにしよう。
君のせいにしよう。
◆
「小林さん!」
目の前は惨状だった。
小林が倒れる前に、とうに五十嵐は攻撃に合い倒れてしまっている。
叫んでいる入江も、地面に臥せている状態だ。
壮大な高原が黒煙で溢れ、地面もえぐれてしまっている。
「何でなんだよ! どうして、こんなことしやがんだよォ!?」
悲痛の叫ぶが轟。
「どうしてなんだよ! ----……‼」
「『可愛くない出口ちゃん? さ。も、起きなさい』」
誰かの名前を呼んだとき。
そう、耳の中の絵里が、入江を起こした。
「んァ゛??」
誰の名前を呼んだのか。
知っている奴の前なのか。
起きた今では、何も思い出せない。
◆
「…ん゛あ、ゆ、め??」
どれぐらい寝ていたのか。
もう、メジロも伍朗、五十嵐も居ない。
寝息だけが支配する部屋。
もともとが、そのための部屋なのだが。
「めっちゃくちゃ、静かでやんのwwwww」
布団の中も、入江の気温が溜まっている。
とても、心地がいいーー眠気を誘う。
「…どんだけ、寝てたんだろ」
ギシ!
「よ……っと!」
起き上がると、ベッドが軋んだ。
「さ。行かなきゃな」
ぐぅー…。
「あ~~腹が減った」
◆
仮眠室から出ると。
「ん? んん??」
何かの違和感に襲われた。
「何だ? この…いや、分かんねェんだけど」
「『可愛くない出口ちゃん? どうかしたの?』」
「…うんにゃ、何でもねェわ」
大きく背伸びをして、微笑む。
「『そ。可愛くない出口ちゃん』」
絵里も、何も聞き返すこともなかった。
「あいらって、もう帰ったんだべか」
頭で手を組み、大きく足を広げて歩く。
「あ゛! 入江‼」
すると、目の前からメジロと鉢合わせになった。
怒りの形相で。
「!? うおっっ!」
思わず、入江も一歩下がってしまう。
「何して、勝手に起きてるべさ!」
「あァ?! 俺の勝手だろうが。んなことァ~~」
「で。帰んの??」
メジロの私服姿に、そう言う。
「当たり前だべさ」
「そっか。うん、お疲れ様」
少し、入江は眉間にしわをよせた。
「そっか…」
ほんの少しだけ、がっかりもした。
ポン!
メジロの肩に手を置く。
「ありがとな」
通り過ぎようとする入江の腕を掴む。
「あんだよ。帰んだろ? お前」
「一緒にいてって言えば、残るべさ」
バチ!
見つめ合う。
横に顔を振る。
「んなこたァ、言ねェよ。俺あ」
「そうだべか」
「気にすんなよ」
「…んだら、帰るべ」
っパ。
メジロが手を離した。
「じゃな」
「おう!」
そして、二人が別々の道を行った。
「馬鹿だべ! おらに一緒に居れ言えばいいんべさ!」
仮眠室から伍朗が顔を出した。
歩くメジロの横につく。
後ろを見て、入江の小さな背中を見る。
「喰えるときに喰えばいいべさ」
「…分かってるべさ!」
「本当に分かっているべ?」
伍朗の問いかけに、もう、メジロからの返事はない。
ただ、ただ。
後ろ髪が引かれている。




