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#72 気になる男女

 それに価値があるのか。


 しかし、その価値はーー時価である。


 ◆


 浴場のほかに完備されているものが、もう一つある。

 それは、仮眠室だ。


 遅くなるまで勤務する社員や、急病の生徒が寝込む場所。

 ただ。

 もっぱら、ここに居着く社員もいることも、問題視されていた。


 その、最初の筆頭、問題児はー江頭保だった。

 帰りもせずに、ここに寝泊まりする。


 ただ、ご飯は出ない場所。


「んー~~ねっかなァ~~ふぁ゛あ゛あ゛~~!」

 

 風呂から上がり、コーヒーを飲み終えた入江が大きく腕を伸ばした。

 胸も、振るえる。


「一緒に寝てあげようか? 出口ちゃん」

「はァ?! キモイ!」


 軽蔑の眼差しを送る。


「てかさ、出口は何で帰らないんだよ」

「はァ?! 帰っちまったら、助けられねぇ~~じゃあ、ねぇ~~かよ!」

「別に、そんなにお前が背負うことでもいいんだぞ?」

 

 そんな、五十嵐の言葉に。


「ァ…うん。そ、なんだけど、さ」


 また、あんな馬鹿に、会いたい。

 どうしょうもなく、あの馬鹿な男に。


「そんなに、会いたいんだ。江頭主任に」

 見透かされたことに、

「‼ ぅ゛…」

 入江の頬が朱に染まった。


 メジロの目が細くなる。

 そんなメジロの肩に、伍朗が手を添えた。

 強い力で。


 襲いそうになるメジロを抑えた。


「落ち着くべ、メジロぉ」

「んだでさ、兄さ」


 取られたくない。

 誰にもーーこの女もどきの、男でもあった馬鹿を


 バクバク!


 じゅじゅるるるる…。


「待つべ。じっとーー機会を伺って、待つべさ」

 伍朗が微笑む。

 つられて、メジロも。


 ◆


 すぅーー~~う。


 仮眠室の三段ベッドの一番下。

 そこで入江が寝息を立てていた。


「ったく! いい寝顔しやがってよー~~」

 柵に肘づけ、膝立ちする。

 そして、ため息を漏らす。


 そんな、五十嵐の様子に。

 メジロは。


「チーフ、仕事するべさ」

 冷徹に言い放つ。

「いや。終わりだべ、早番なら」

 伍朗も、続ける。

「てか。兄さ、遅番でねぇだが??」

「え。休憩時間だべ」


 間が空く。


「休憩中に入りに来るんじゃあねぇべさ!」


 一際、大きくメジロが吠える。

「ん゛ン゛ー~~ん゛…」

 寝ている入江の眉間にしわが寄る。

「!?」

 思わず、メジロ自身も、口を塞いだ。

 一応、他に寝ている社員や、具合の悪い生徒が居る場所だからだ。


「さて、と」


 真剣な五十嵐の表情。

 身体が、ズル…ズル…とベッドから滑り落ち、腰を下ろしてしまう。


「な。チーフさ」

「んー~~何だぁ~~月代ちゃん?」


 体育座りになり、柵に首を置く。

 そして、目だけメジロに向けた。


「なして、皆。入江に夢中になんだべ?」

 疑問だった。

「入江は、どうしょうもない馬鹿だべさ。んで、おまけに人脈もねぇべ」


 ただ、メジロを見ていた。


「馬鹿だから、気になるってよくあることじゃね?」


 五十嵐が苦笑交じりに応えた。


「皆、だべか?」

「うん。皆」

「気づかねぇのは、こん馬鹿だけ、だべか」


「ま。惹かれることに理由はないけど。以外と短絡的なことなのかもね」


 例えば。


 優しくされたり。

 手を差し伸べてくれたり。


 欲しい言葉を言ってくれたり。


 厳しい言葉を吐いてくれたり、と。


 案外、理由は単純なことなのかもしれない。


 三人は、寝息を立てるーー入江を見つめた。

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