#66 社畜の退勤時刻
終わらせなきゃって思うほどにね。
おかしな話でさ。
続けばいいなって思ってしまうもんなんだ。
◆
無常にもタイムアップとなってしまう。
そう。
入江出口の勤務終了の6時半過ぎ。
「あ、おはよう! 入江さん」
遅番の関本七緒がカウンターに居た入江に手を上げる。
それに。
「あ! …おはよう、関本君」
入江も、焦り始めている。
それから、早番であったことを引き継ぐのだが。
(さすがに、RPG物語はいいよな? 引き継ぎとは言え)
「あ。今日、なんか予約景品とか、早々。銀河のオリジナル商品も、確か、今日来るはずなんだけど来てるかな??」
「! ゃ、来てるとは聞いてねェよ。軽部さんからは」
「おっかしぃー~~なぁ?! 本当なら昨日来るはずの景品なのに!」
関本が発狂する。
「よし! ごめん、ちょっと本社の景品担当に確認して来てもいいかな? その間、フロアーもお願い出来る??」
「‼ あ、ああ! それぐれェ~~構わねェ~~っての!」
「さすが! 入江さんっ、じゃあ行って来るわ!」
「はいはい!」
ひらひら。
稼げる時間も限られている。
「来るなら、とっとと来いようなァーー~~~~ッッ‼」
カウンターで低い声で叫んでしまう。
そして間合いも悪く。
「あああ、あの、その…けけけ、景ひひひ、んのいいいい位置ななな‼」
一般のお客が来てしまい、泣かせてしまう。
あ゛~~と天を仰ぐ。
「大変申し訳ありません、お客様!」
すぐに営業スマイルをした。
なかったことにしょうとした。
◆
「じゃあ、上がっていいよ」
そう小林に素っ気なく言われた。
タイムカードを切りに事務所に行ったときに。
「はァ?!」
思わず入江も聞き返してしまう。
「何でだよ‼」
「何でも何も、君ーー勤務上がりでしょ」
ぐぅの音も出ない。
出させて貰えない。
「お、俺が帰ったら、アンタら死ぬよ?! 絶対に」
「そりゃあ、死ぬときは死ぬでしょ。はいはい、お疲れ様」
立ちすくんでいた入江の背中を小林が押す。
事務所の扉まで。
「お、おい! こ、っこ、主任‼」
ビク!
小林の背中を押す手が止まった。
「アンタ、俺が邪魔なの?! あんなに助けてやってんのに??」
入江は勢いよく、振り向く。
長い髪がキラキラと光る。
「?!」
小林の顔が歪む。
「何なんだよ! そんな顔しやがって、意味分かんねェんだよ!?」
「だって…僕はー」
小林は俯いてしまう。
「ー…君を、失いたくなんかないッッ‼」
ポツリと本音を漏らす。
「っはァ?? お前は馬鹿なのか!?」
入江は膝で軽く、小林の腹に当てた。
「なら。俺を護ってやるみたいな気持ちないの? アンタ」
「自信がないことなんか言えないし、出来ないことも出来るとも言い難い」
「お堅いこって」
小林の両手が伸びる。
そして、抱きしめられる。
とてもキツく。
「僕の気持ち知ってて、そうからかうの? 君は」
肩口に小林の顔が乗せられる。
「俺の気持ち知ってて、そんなこと告白すんの? あんたは」
入江も苦笑交じりに言い返す。
自分が好きなのは、あの 男。
それは確かな気持ちだ。
「そんなこと言うから、平子さんに睨まれるんじゃないの?」
「…あれ、どうにかしてくんねェかな?」
「他人の旦那に手を出すからでしょ。当然の報いだわ」
「手ー~~出されてんのー~~俺なんですけどォー~~??」
ちゅ。
「額はいいでしょ。キスぐらい」
「…よかねェべ」
バン!
「入江は居ねがぁー~~ッッ!?」
大きく事務所の扉を、ノックせずに入って来た。
月代メジロ、が。




