#65 進む、秒針
事務所の中の出来事。
社畜の檻。
◆
「そォいやさ、あの簪なんだったんだよ」
事務所に居る小林に聞いた。
聞いたのは入江だ。
聞きに来た本来の目的は違うが。
「また、サボる気なんだ」
カタカター…カタカタタ…。
PCに打ち込みをしている小林が言う。
素っ気なく。
「サボってねェ~~よ。次の景品のこと聞きに来てんだろぅが!」
「サボっているようにしか、僕には見えないけどね」
「…ざけんな」
本当に、UFOキャッチャーの入れ替え用に景品を聞きに来ているだけなのだが。
あれから、何も音沙汰がない。
どこにも飛ばされない。
(ったく。何だってんだよ)
しかし、時間は進む。
勤務時間も終わりを迎える。
そしたら、どうなる?
ドク。
(今日は。いや、いつものサービス残業してりゃあいいんかな)
ギシー…。
「気になるの?」
ゆっくりと小林が椅子から立ち上がる。
「! …べっつにー~~、そんなんじゃあねェけどよ!」
商談用の机に腰かけ、近くにあった景品カタログを見ている。
だから、小林の動きに気づくことに遅れた。
「知りたいってんなら、君には教えてもいいよ?」
カタログを奪われる。
「!? おい、見てんだろうがッッ」
「どうせ、君が見てもマニアックなもんしか言わないじゃない」
入江の趣味はマニアックで、マイナー好きという欠点だ。
しかしながら。
「何言ってんだよ。こないだ、俺が推した景品当たってー」
「あんなんはたまたまでしょ。数撃ちゃあ当たるみたいなもん」
たまに当たって、ヒットすることもある。
「稼働率だって順調だし、うなぎ登りじゃあねェかよ! ふふんっ」
とす。
「もう一丁、当たったらー感謝の言葉を言ってやってもいいよ」
肩を手で押す。
入江の身体も机の上に乗る。
「あんたさー~~本当にさー~~」
入江も抵抗はもうしない。
面倒にもなってきたからだ。
「何? 面倒な入江君」
「面倒だって? っは! どっちがだよ」
少し、見つめ合う。
「俺、男だし。こんなん不毛だろ」
「…女でしょ」
バタバター…!
「おい。誰か来んだろうが。退け」
「…キスしてくれたら、退けるよ」
「キメェこと言ってんじゃあねェよ! ったく」
ゲシ!
「っつ! ったー…」
入江は小林の胸元を蹴り上げ、退かせた。
「本当に変態」
小林も胸元を抑えて、一つ、咳をする。
「君にだけですよ」
「それが、キメェっつ~~の! ったく」
ダダダ!
「「誰か、来た」」
入江と小林が、事務所に扉を見た。
バッターン‼
「ぁ」
「…浦飯君」
入って来たのは浦飯トヲルだった。
「出口ちゃ~~~ん!」
「トヲル!」
浦飯が入江に抱きついた。
「よかった。よかったッッ」
そして、入って来た扉を見ると、
「あの、稻葉クンが送ってくれたの」
あの兎の被り物をした、少年が立っていた。
『それでは。また』
会釈をして立ち去ろうとする。
そんな彼を、入江も許さない。
「待てよ! おい~~」
大きく手を伸ばす。
途中でバランスを崩し、前のめりに倒れそうになった。
それは、小林が引き留めた。
そんな小林を手を振りきり、また伸ばすも。
『もうじきです。それまでは心安らかに』
届かずに、その少年ー稻葉が扉を閉めてしまう。
「…稻葉?」
「うん。真白って名前なんだって」
「稻葉真白」
時間は刻、一刻として刻んでいる。




