#63 記憶の欠片
限りなくグレーに近い未来。
限りなく、ブラックの世界。
◆
「うりゃ!」
入江は手を大きく振った。
「うりゃ!」
また大きく振りかぶった。
ひょっとしたら、また出るのかなと思ったからだ。
あの弓が。
しかし、出ない。
ほっとした。
「何やってんだよ。お前は」
「‼ のああああァ!」
背後からの声に、入江が大声を出した。
「ちょ! 声、声!?」
入江がいたのはバックヤードではあったが。
その扉の前はカウンターであり、他のスタッフが通るのだ。
「落ち着け?? なッ??」
その声の主は。
「…チーフ」
五十嵐 冬生だ。
「で。何やってたの? 出口ちゃん」
「いや。その…アレ、出るかなって」
「あれって、弓のこと?」
コクリ。
ジュワワワ!
(恥かしい~~)
入江の顔が赤くなった。
「ま。可愛らしくなられて」
五十嵐が、意地悪く微笑んだ。
「ぅっせー~~よ!」
ゲシ!
「そんなにホイホイ出されたら、困るじゃんか」
五十嵐は蹴られた太ももをさする。
「こっちじゃあ銃刀法違反か何かにはなるんじゃないの?」
「武器所持とかか?」
「ん。多分、そっち」
防音でもあるバックヤード。
「で。何、考えてたんだよ」
「な、何が?? はァ??」
たじろぐ入江を追い詰める。
「危険でも来るとか?」
淡々とした、いつもの表情で。
「そォいや。アンタにも武器あったよな?」
「あ。あの短剣?? うんうん。あるよ、あるよ」
手のひらを出すと、
「ほら、な?」
その中から、あの短剣が姿を現した。
「なななななッッ!」
入江は驚きのあまり声を失くす。
「えー~~驚くとこ~~wwwww??」
「っあ! 当ったり前だろォ~~が!?」
「でも、俺、これまだ使ったことないからなー~~」
唯一、武器を所持していなかった小林にも簪が、ようやく当たった。
着実に、何かに向かっている。
何かが、何なのか。
それは分からない。
「てか。どっから頂上決戦なのかね?」
にか。
そう五十嵐が微笑んだ。
入江は思わず、その場に腰を下ろした。
「こっちが、知りてェー~~っつゥー~~の!」
おでこに手をつけて苦笑交じりに吐き捨てた。
「絵里さんに聞いてよ」
「え」
「ほら。小林さんの、ほれ、あの、ほら、姉? みたいな」
「…面倒くせェー~~なァ~~」
「『面倒くせェ、とは何なのよ』」
聞いていた絵里の声が強張っている。
怒らせなのか。
それとも、呆れられたのか。
「『冬生ちゃんの鋭さには関心しちゃうよ』」
含みのある言い方をする。
「『さすがは、りっちゃんが認めたことのだけはあるよね』」
関心している。
「そいつぁ、どうもデス」
五十嵐も片言で言い返した。
「『もう。ラスボス戦が始まるよ』」
いきなりだった。
入江も、五十嵐も、目をひん剥く。
「「何、ソレ‼」」
「『だから、次の舞台がラストなんだってば』」
何故、そう言い切れるのか。
入江が胸を掴む。
「他に、何か言うことはないのかよ!?」
「『…何を言って欲しいのかな?可愛くない出口ちゃん』」
「別に、何にも言って欲しいわけでもねェよ‼」
「『小細工も、ご都合な武器も、道具も無し』」
五十嵐は天を仰いだ。
「何にも、無しって…ウケる!」
バク。
「何、も」
バクバク。
「ナシ」
バクバクバクバクー…。
「『安心して、可愛くない出口ちゃん』」
「な、何が? 安心なんだョ」
「『ピースは、不揃いながらに手駒になっている』」
「手駒…」
ふと。
「浦飯さんは? 彼女は??」
「『それはあの兎に聞いて頂戴。可愛くない出口ちゃん』」
「ぁ」
その言葉を最後に、入江の中絵里が消える。
当然、入江も五十嵐も納得いってはいない。
そこへ。
ガチャリー…。
「…五十嵐君。何してんの、入江君と」
絵里と同じ顔の小林が入って来た。
バッコーーーーーン!
それに思わず、入江は、
「あ゛!?」
蛙飛びで、小林の顎にアッパーを打ち出してしまった。
無意識にも、強烈に。




