#62 GAMEの世界
覚悟して進め!
◆
ハッ!
「お、ぅ??」
気がつくと雑巾を持っていた。
「んンン??」
レフトコーナーの机を拭いていたようだった。
「夢落ちじゃない…!」
思わず、入江はガッツポーズをした。
「やっと! やっと‼」
嬉しかった。
ただ、それだけだった。
「入江君?」
そこへ小林が小走りにやって来た。
「…何だよ」
思わず素っ気ない態度をとってしまう。
内心は嬉しいのに。
いまさら、どうにも出来ない。
したくもない。
「妾君が来ているって聞いたんだけど」
キョロキョロー…。
辺りを伺う。
「もう居ねェよ」
続けて、横にある麻雀のゲームの液晶パネルを拭く。
これは意外と煙草のヤニで汚い。
定期的に外して拭き、パネルの動作確認もしなければならない。
揉める原因は、どのゲームも大体、同じだ。
「何か話したの?」
「ああ。少しね」
「絵里ちゃん、は? まだ居るの?」
「知んねェよ」
ぐいー…。
「! っおい! 主任‼」
突然、腕を引っ張られた。
力強く。
「……来い」
堪らなくーー痛い。
◆
連行先は事務所。
(ここは、元の世界ってのは嘘なんじゃね??)
(『まさか。ふふふ。可愛くない出口ちゃん』)
(このシュチュ、あれじゃん。さっきの!)
(あっちも、ある意味。同じだもん。そりゃあ、あるでしょ)
クスクスーー…。
(性悪女ー~~~ッッ‼)
ドン!
「聞いているのか!?」
ビクー…。
「いや。何にも」
「お前はっっ!」
「何?」
入江には小林の苛立ちの理由が分からない。
言わないからだ。
分かっているだろう、という態度だ。
分かるか、馬鹿!
という心境だ。
「絵里ちゃん、絵里ちゃんって。俺が居んだからいいだろうが」
「!?」
「一緒に居てやっから」
「…入江君」
「心配すんなって。俺は居なくなんねェからよォ」
ガバ!
「ぐえ!」
ぎゅうううう。
ハタ。
「あ゛…」
「? どうしたの?」
「は、離れろー…ぐるじい゛ー~~」
小林は渋々と従った。
「あんたに渡すもんが在ったわ!」
ポケットを弄る。
「入江君が僕に?」
「うんにゃ。絵里ちゃんからだよ」
「‼ 絵里ちゃんが?? 僕に?!」
キラキラ。
「光ってんじゃねェよ。キメェなァ~~」
ポイ。
「!? ぉ、おい‼」
入江も絵里のように放り投げた。
「簪だ」
「…男の、僕にこれを?? え????」
「だよなー~~」
入江の表情が、苦笑に歪む。
にへら。
「でも、これーー」
と、小林は続けた。
「なんだか。知ってる…ようなー」
「ふぅん。あっそ」
じゃあ! と入江が逃げるように、事務所から出て行く。
◆
ぜェ、ぜェ。
「ったく」
そこへ。
「あ! 入江ちゃん。」
軽部に会った。
「あ。軽部さん、お疲れ様。もう帰る時間だっけ?」
「うん、そーだよ。もう4時だしね」
「そうだよね。お疲れさんでした」
「うん。お疲れ様ー~~」
軽く手を振って、軽部は帰って行く。
ふぅ。
「俺は、帰れねェし、な」
もう始まったゲームからは辞退は出来ないのだ。
勝つか。
敗けるか。
敗かすか。
「絶対に勝てないっつー~~のは…うん、分かってんだよ」
入江が下唇を噛み締めた。
死ぬか。
殺すか。
「でも。生き残る、みんな、生かす!」
入江は拳を握った。
そして、がに股でフロアーへと戻って行った。




