#60 セーブ 0
ご主人様は居ません。
なんで、帰りますわ。
◆
五十嵐はこんな顔で笑う男じゃない。
少なからず。
研修時代に、今の臨時社員時代の中でも。
そんな顔を見せたことはない。
「お前は、五十嵐なんかじゃない、だろ?」
ここは、一体どこなんだ?
入江の頭が頭痛し始める。
考えことの量も半端ない。
「んー~~いや。悪いけど、俺は五十嵐冬生、なんだわ」
にへ。
「…何? 喧嘩売ってんの??」
イラつく。
「まさか、まさか。そんな真似なんかしねぇっての」
五十嵐が手を横に振る。
グラ!
「っちょ、待て待て‼」
五十嵐の顔が焦ったものになった。
「今、戻っても、何にも変わんないから! だから、意識を保て! ッな?」
コクリ…。
◆
「ほい。お茶な」
「仕事しねェの?」
「ここはねぇ、うん、お前さんが行くべきとことは違うからな」
「? どう違ェの」
「んー~~難しいねぇ」
ガコンー…入江も立ち上がり、扉へと向かう。
「!? ダメ、駄目! 行くなっての‼」
必死に五十嵐も止めた。
それに、入江も折れるほかない。
「ったく。面倒くせェ~~のなァ!」
撫でー…。
「‼ な、何だよ! 急に止めろよなッッ」
「--ここも、何だけどね」
五十嵐が指先を宙にかざす。
すると、そこから武器が出た。
「?! ……‼」
思わず、入江も身構える。
「あ。ごめん、ごめん」
五十嵐も、武器から指を離した。
っほ。
「言ってる意味が、マジ分かんねェ~~んですけどォー~~」
ぐびぐび。
「多分。出口ちゃんにーー知識、攻撃力、レベル? をupさせたいんだよ」
ぶっふーーーーーーーー!
飲んでいたお茶を、五十嵐の顔面に噴き出してしまう。
「あ゛。悪ィ…」
「いいよ、気にすんなって」
「てかさ。何で、あんたがそのこと分かんの?」
「あ、あ゛ー~~…あの、ぅ、そのぅ…」
五十嵐がしどろもどろになった。
「こ、ここでは俺がセーブポイント何だよ」
「ド○クエかよ‼」
思わず、入江も突っ込んだ。
(セーブって何だよ。セーブってのは)
しかし。
それは、望んでいない。
「おい。チーフ」
入江は告げた。
「俺、一人なんかがレベルupしたって、誰かが死ぬのは分かってんだ」
歯を噛み締めながら、淡々と。
「それに、こんなのは卑怯だわ」
一人だけ、レベルMAXはーー気分がいいものでもない。
「俺を、元の世界に返してくれ。いや、返して欲しいデス」
慣れない警護に、語尾が上擦った。
『いいの? お友達も守れないでしょ。何より、自分すら』
絵里が店長の席から立ち上がった。
「ずっと、居たんか?? そこによォ」
『うん。居たよ』
「俺が襲われてたときもってこったな??」
『うん。視てた』
ガタンッッ!
「‼ 寄せってば、出口ッッ」
飛びかかりそうな入江の腕を、五十嵐が掴む。
「っつ! 痛ェ‼」
「ほら。座れって!」
「……っち!」
絵里は、本当に小林にそっくりな風貌だった。
『これは好機なのよ? 私からの贈り物』
「誰も欲しいとか言っとらんわ!」
『おっふ!』
確かに、好機に違いない、が。
「運命には逆らわないのが吉っつー~~じゃん」
生きるの、死ぬもーー人それぞれ。
全部は守れない。
護らなくたっていい。
「皆、死ぬために必死に生きてんだ」
自分を含めて。
どんな様で死ぬのかは想像もつかない。
願わくば。
痛みがないことを祈る。
「過激に逝こうぜ」
にか!
だからーーどんな試練も必要とはしない。
そんな選択肢を選ぶ。
(とは。言うものの、だ)
入江の目が泳ぐ。
(皆は無理でも、死なせねェけどな!)




