#52 前進する、何か
寄生される。厄介なことに。
◆
「絵里ちゃんの、声が聞こえな、い…?」
小林が耳に手を抑えた。
音は聞こえる。それはいつも通りだ。
だが。
「何か、耳の奥にさ~~あの女の声すんだけどォ~~最悪だ」
入江が目を細めた。
「僕の絵里ちゃん」
「へ?」
「それはー」
「っは?!」
ドサー…。
小林が入江を押し倒した。
「それは僕の絵里ちゃんなんだ! 返せよ‼ 僕の、僕の絵里ちゃんを‼」
襟足を小林に鷲掴みにされる。
ボロボローー…。
あの小林が啼いた。
「っつ、め、た…っ…」
その顔を下から見上げる。
この泣き顔は、身に覚えがあるー気がした。
「『りっちゃん。泣くなんて男らしくないじゃない』」
入江の意識とは別に、口が、勝手に動かされる。
思わず入江も口を抑える。
しかい、勝手に動く。
舌が動く。
ったっくもー~~、勘弁しろよ…。
諦めた入江が口から手をどかした。
「『もう、りっちゃんには私は必要ないよ』」
「必要かどうかは、僕に相談なしに決められたには合点がいかない!」
「『今は、出口ちゃんが私が必要なのよ。ねぇ、私の可愛い弟ちゃん』」
「絵里ちゃ…姉さんーー…」
入江は蚊帳の外で、このやり取りに心動かないが。
なのに、横の五十嵐は泣いている。
「ピュアなおっさんだなァ~~」
入江が苦笑する。
「小林さん、喉、苦しいんだけど」
「! ああ、悪かった」
っぱ! 小林も手を離した。
◆
「ったく! いい加減にするべさ!」
メジロはご立腹だった。
「少しは真面目に働くべ! 給料泥棒たぁ、お前のことを言うべ!」
「ふぅ」
現場復帰するも、メジロが目を鋭く入江を監視している。
「あのさぁ~~俺だって、俺なりの理由っつ~~のがあってねェ~~??」
入江の言い返しに、
「知るか! アバズレ‼」
大きく言い返されてしまう。
「あああ、アバズレって! おおおお、俺が誰とニャンニャンしてるって言うんだよォ~~!? 俺ァ~~純潔だっつ~~の‼」
「ニャンニャン? 猫がどうしたべさ」
むぅ。
「お前は愛されているのに、誰の手を取る気もねぇべさ」
「はァ~~??」
「きっと、それが…原因で、お前は破滅すっべさ」
メジロが入江の鼻先に指を置く。
呪うかのように。
「あ、あのよォ~~メジロォ~~? 今さら、なんですけどォ~~」
「あ゛? あんだべさ」
「ひょっとしてェ~~俺のこと、愛しちゃってる??」
っぼ!
「だだだ、誰がお前なんかに! 自惚れるでねぇべ‼ うすらとんかちが‼」
メジロが顔を手で仰ぐ。
「『メジロちゃんが好きなのは、りっちゃんだよ。出口ちゃん』」
「!?」
急に喋った絵里に、メジロは身体を跳ねさせ後ろにやり、拳を握り攻撃体勢をとる。彼女は好戦的な種族だ。
挑発行為は敵と見なされる。
「『初めましてて、メジロちゃん。私はりっちゃんの姉の絵里ちゃんです』」
「あ、ね??」
入江の口から吐かれる女性の声。
入江のものではないのは明らかだ。
しかし、納得はいかない。
いかない、が。
「…あっそ。その給料泥棒を働かせるべさ、絵里ちゃん」
害がないなら放っておく。
「『ええ、そうするわ』」
「きゅ、給料泥棒じゃあねェし?! っつー~~か! メジロ、お前ーー」
入江の顔がいやらしく微笑む。
にまにま。
「! うっさいべさ! とと、とっとと入れ替えすっべさ! この給料泥棒‼」
抑えた拳が入江放たれ、顎にアッパーが入る。
そして、入江の身体が宙に舞うのだった。




