#53 彼女が来たりて笛を吹く
緩やかな日常の、緩やかな下り坂。
◆
「『ねぇ、ねぇ。お話しようよ、出口ちゃん』」
「うっせェ~~ぞ。絵里ちゃん、うっざい!」
「絵里ちゃんにその言い方は何だよ??」
「手前もうっざい! 消えろ‼」
右に絵里ちゃん、左にシスコンだった小林。
Wコンボに入江も頭を抱えたし。
絵里が勝手に、自分の口を使うので誰かと喋る、怪しいお姉さんといった感じにお客に敬遠されてしまう。
近くにいる入江ではなく、遠方にいる他のスタッフに、コツやら聞いている。
「本当に、仕事の邪魔!」
ギリギリー…と歯を噛み締める入江に、冷ややかな彼女が一言。
「仕事?? 寝言は寝て言うべさ」
メジロが、鼻先で笑った。
「め、メジロー~~さァ~~ん…」
ちら。
「ったく! こっちさ来るべさッ」
メジロが入江の腕を引っ張り、小林から引き離した。
「! ありがと~~! メジロォ~~‼」
「か、勘違いすんじゃあねぇべさ! お前に客さが来てるだよ!」
うむむ?
「客? 俺に??」
入江の交流関係は狭い。
と、言うよりも人脈がない。
友達がいないのだ。
粗野な性格もあって。
そんな入江を構っていたのがーー行方を眩ます前の、江頭保だけだった。
構ってくれた分、入江も江頭を好きになった。
「俺に会いに来るなんざ…心辺りが全くねェ~~んだけどよォ??」
「おらがお前の交友関係を知るわけねぇべさ! 阿呆が‼」
「まァ、だよなァ…はァー…」
◆
連れて行かれたのは窓側にあるレフトコーナー。
喫煙コーナーであり、よくくたびれたサラリーマンや学生が寛いでいるばしょだ。麻雀のゲームやキッズコーナーのブロック地帯もある。
そこに居たのはーー常連客だ。
「! 待っていたぞ、大嫌いな小林の子分」
「‼ わ、妾ちゃんッッ!」
薄い茶色の髪はツインテールに、真っ白な肌の頬はピンクに染まっている。
銀河高校の近くにある、四ノ葉高校の生徒の制服を着ている。
しかし、何年も彼女はそれを着ているため、本当に生徒なのか、ただのコスプレイヤーなのか、よくも悪くも、彼女の正体は不透明なものだ。
一番の不明はーー名前だ。
自身のことを語らがらず、自信を『妾』と呼ぶので、スタッフのほとんどが、彼女を『妾ちゃん』と呼んでいる。
入江も、その中の一人だ。
ただ、メジロの中の記憶も未完成のためか、彼女のデータがないので、彼女が誰なのかという認識出来なかった。
「仕事、サボっても怒らないの? メジロちゃん」
「ふぅ。そんなもんさ、もう慣れたべ」
大きくメジロが息を吐いた。
「そっか。本当にごめんね」
「い、いまさらんなの必要ないべさッ! ったく、もー~~」
メジロの顔が赤く染まる。
そして、足どり強く、入江を残しフロアーへと戻って行く。
ゴキュー…。
「えっと、ね? 俺、アイツの子分じゃないよ? ねっ?」
ただ、入江はーこの妾ちゃんが大の苦手だった。




