#45 異世界から優待券
黒ーそれは混沌の中の記憶。
◆
『彼女は最強の魔女なのでした』
知らない声が響く。
「!? んなこたァ、どうだっていいんだよ‼ っくそ~~真っ黒で何も見えやしねェ~~‼」
ポン。
「‼ あ゛??」
入江の肩に、小さい何かが置かれた。
それにビクつく。
しかし、すぐにその正体が判明する。
「入江ちゃん」
浦飯トヲル、だ。
「! と、トヲル??」
入江が抱きついた。
「っぎゃ! 痛いッ、痛いよォ~~入江ちゃん!」
「よかった。よかった…ごめ、ごめんな…トヲルー~~」
「…いいの。さ。入江ちゃん、見て」
「ズビ…何をだよ??」
「始まりの、一歩手前の物語、をだよ」
◆
人間界には精霊、神獣に魔獣、悪魔や神に――魔女が一緒に共存していた時代があったのです。
確かにその時代自体は薄命でした。
お互いがお互いの命を狙う時代になってしまったのです。
この小さく可愛い箱庭を、手に入れたいがために。
しかし、魔女最強の彼女はどうだってよかったのです。
「あンのさーこのナレ、誰? 感情入れ過ぎでキモイんだけど」
入江たちは大きく、そして広い映画館の座席に、気がつけば座らせられていた。
「えー入江ちゃん、普段から字幕でしか映画観ないからそう思うんだよ~~」
「あ゛?? 吹き替えしかねかったら観るぜ」
「でも基本的に観ないじゃない」
「あ゛? 芸能人声優でコレじゃない感を味わいたくねェだけだっつ~~の」
「まぁ、まぁ。ほら、観て、観て!」
だから、彼女は一人放浪し、旅を気ままにしていたのです。
『あでで!』
ドツン。
どってん!
普段は浮く魔女が、気ままに地面に歩いていたときに、その運命が狂いはじめたのです。
『あ。ご、ごめんね? 腰、痛くないかな??』
まつ毛の長い切れ長の藍色の瞳、長い黒の髪は上にまとめられていました。
一つの簪に。
華奢な身体は高く、豊満な胸がたわわに揺れます。
『?? 大丈夫?』
『美しい声ずらですね。おらにそんな優しく声をかけてくれるのは誰だべ』
彼はネクスト。盲目の少年です。
彼を一言で言えばずんぐりむっくりでしょう。
でも、彼女にとってー初めて接した、自分に畏怖しない人間だったのです。
「あるあるネタでつまんねェ~~あ゛ー~~つまんなかったら入場料返してくれんの??」
「まぁ、まぁ。さぁ、さぁ。続きを」
彼女は、そんな彼に恋をしたのです。
身を焦がしたのです。
「…なぁ。ト、浦飯、さん?」
「うんー?」
「いや、…お前、浦飯じゃあないだろ?」
「何だっていいじゃないーほらー~~スクリーン観てよ。見て、見て」
「一時停止ぐらいしとけや」
しかし、彼女に死はありませんが、彼には死があるのです。
彼も、不死を願いませんでした。
『お願い、アタシを置いていかないで!』
『おらはいつも、必ず、貴女の傍に…もど、って、ささ、えまー…』
彼女は彼の遺骸のために大きな浮遊島を創りました。
後に、それは大きな争いの種にもなりました。
その島をー《ウォーター・グリーン》と名づけました。
そして《啼き島》と呼ばれました。
「…おい、あんた。他の奴らは?? 俺の相棒をどこにやりやがったッッ??」
入江も座席から立ち上がった。
真っ暗な舞台。
辺りを見渡すも、何もー視えない。
「っち! ムカつくなァ‼」
そう大きく入江が雄叫びを上げると。
聞き覚えのある、いや、知っているような名前が聞こえた。
最強の魔女の名前はーーエリオット。
永遠の枷に嵌められた、哀れな女の物語の始まりです。
「…誰…だよ??」
入江の胸がざわめく。




