# 35 入江の再入場
嫉妬に狂った女から逃げた。
ただ、必死に。
◆
生えた《標識調》の看板のボタンはすべてが、緑色だった。どのボタンがと、悩む必要もなかった分、入江も安心する。
これで助かったーどうかは別としても。
「じゃあァな! クソ女ァ‼」
これで平子と争うことは、一先ず、終わりという安堵感。
「出口ィぃいいいいいいィイ~~~~~~~~ッッ‼」
襲いかかって来る前に、何とか、入江の姿は地面へと吸い込まれた。
平子は寸でで逃げられたことに怒りを爆発させる。
(ったく。江頭の 主任も女の趣味が 悪ィったらねェのな)
ふと。
「っつ~~か。あの緑のボタンって、何だァ??」
考えなしに押した入江は、少し顔色が青ざめる。
「っつ! 手が…足も…こ、こりゃあ、ふふふ、どうにもできねェわな」
手や、足、入江の身体が、全体が粒子になり光っている。
「ま。いいか」
入江が目を閉じた。
◆
「ねえ。どこ行くの? 主任とチーフと、結構距離があるよ。待たないと」
浦飯が言う。
「『大丈夫だよ、浦飯さん』」
「うん。入江ちゃんが言うならそうだよね」
「『おう。大丈夫さ』」
浦飯と話しているのは入江ではない。もちろん。
浦飯をさらったのは、《真似茸》という幻覚作用の胞子をもつ化け物だ。
しかも複数匹いる。その濃い胞子につけ込まれた。
「でも。怖いよ、入江ちゃん」
「『大丈夫っだっつ~~の』」
ザッ!
「ぶさいくな面しやがって!」
「!? 五十嵐チーフ??」
立ちはだかった五十嵐に浦飯も、目を丸くさせた。
「可愛い後輩の声色だけじゃなくて、容姿も似せりゃあ完璧だったのにな‼」
ギュルン! 五十嵐の身体が、浮かび、一回転させた身体から蹴りが入れられる。
「ぎょよよ!」
吹っ飛ぶ茸の化け物。しかし、それが余計に胞子が飛ぶ原因にもなった。
「! っく!? やっべッッ!」
五十嵐も、慌てて服を口許にやる。
「胞子か‼ これに浦飯さんも、やられたわけかッ!」
「え、ぇ、五十らーー……」
バタン! 浦飯も倒れてしまう。
「浦飯さん‼」
「ぎょよよ!」
「っく! でろでろ溶けた容姿しやがって! キモイんだよッッ!」
複数いる化け物に、囲まれる五十嵐。
「くっそ~~、人間相手なら焼き裂きにできるのにな~~ぁ゛‼」
シュ!
「ん?」
シュ! ドォォン!
シュシュュ! ドォォォォンン゛‼
「え?!」
長い弓を構え、矢を放つ男がいた。木の上に。
「…お前、何でー…」
口を抑えていた手が緩む。
きっとこれも幻覚。
だが、五十嵐は、そうは思わなかった。
だって、彼は。
「あァん゛? 助けて下さって、ありがとうじゃあァねェのォ??」
「…助けるのが趣味なんだろ? じゃあ、当たり前だろ」
五十嵐が肩を揺らして笑う。
しかし、襲ってくる茸たち。
シュ! ドォォォンン‼
それらを入江もやっつけていく。
「よっしゃ! 絶好調ッ‼」
その快進撃を他所に、予想もしないことが起こる。
「? え、あ」
五十嵐が、それを目で捉えた。
あの紫色のボタンだ。
「ぎょよよ!」
それをあろうことか、茸たちが押した。
バチン!
するとーー浦飯の身体が浮いた。
「!? はァ??」
入江も驚き慌てて、木から降りて浦飯へと手を伸ばした。
だが、しかし。
するん。
「‼ トヲルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ‼‼」
指先が寸でで足りず、間に合わなかった。
五十嵐はと言えば、胞子を吸い込んでしまい、倒れ込んでしまっていた。
何とか、茸はせん滅したものの。
何も、救うことが出来なかった。
「ぅ、うぅ゛う゛、ァ゛、ァあ゛ア゛ーーーーーーーーーーーーーッッ‼‼」
大きく入江が雄叫びを上げた。
そして、地面に座り込んでしまう。
そこへ。
「何て様なの」
小林が入江に言い放った。
「馬鹿みたい」
そして小林は入江を見下ろした。




