#33 理不尽な言いがかり
望めば叶う、と誰もが言う。
叶えさえろよ、俺の望みを!
◆
「拉致でもしましょうか」
江頭保の嫁、平子がそら恐ろしいことを言う。
しかし。
「仕事の邪魔だ。消え失せろや」
仕事モードの入江も、平子を邪険に扱う。
「聞き入れませんか」
「だーかーらーよ~~! こっちゃあ、仕事してんの! 勤務が終わったんなら、とっとと帰りやがれってんだ!」
「聞き分けのない坊や、ですね。可愛げもない」
「っはァ?? 可愛げだァ?? そっりゃあ、そっくりそのまま返してやんよ!」
睨み合う。
「も。この平坦な会話も飽きました」
「俺だってそうだっつゥ~~の‼」
「では。貴方を拉致させて頂きます」
「へ??」
平子の背中の奥。
背後が割れた。強いて言うならば、時空が割れた。
どう言うのが正解にしろ。
「さ。観念をするのですよ」
「っこ、おのォ! くそ女ァ‼」
ギュイン!
◆
「浦飯さん?!」
「ど、どうして、あんなに遠くに??」
OBコンビが浦飯の行動に驚く。
そして、慌てて追いかけた。
「何かーー幻覚でも見ているに違いないよね」
「んー~~かもしれないっスねー~~」
五十嵐が苦笑交じり頷く。
「あの馬鹿が護ると鼻息荒くしてたのが、懐かしいように思えるよ」
ふーーと小林がため息を漏らす。
「ははは! 本当に小林さんは」
「? 何ですか?? 気色が悪い奴だな」
好きなんですねぇ。
五十嵐は、その言葉を飲み込む。
(知ってるし、言う必要もないか)
「五十嵐くん??」
「何でもなーいーでーすー~~」
「……ふぅん」
◆
もう見慣れたし、驚かない。
「はァ…本当に、アンタたちは似たもの夫婦だなァ!」
場所はゲームセンターだが、空間が、空気が違う。
とても重い。
「それはそれ。これはこれですよ。ビッチ」
「! 誰がビッチだ! 誰がッッ」
びし! 平子が入江を指差した。
「どの男にも色目を使うじゃないですか」
「い、っい、色気だァ~~っはァ~~~????」
ぶわわわ! 入江の身体全体に鳥肌が立つ。
「ふざけんな! クソ女‼」
「なら。私の夫とは別れて貰います」
「へ?」
「あの人は、女性に見境がないのは知っています。でも、アナタはダメです。絶対に」
平子の様子が、見る見る変わっていく。
獲物を狙う目だ。
「お、俺に言うわねェで、直に言いやァいいだろうが!?」
「会えません。私とは」
「?? 言ってる意味がわかんねェんだよ‼」
苛立った入江が、平子に殴りかかった。しかし、交わされてしまう。
「夫に会ったアナタが赦せないんです」
平子がハサミを取り出した、大きなハサミを。
「……私だってーー私だって……なのに、なのにッッ‼」
ジャキン!
「っお、おい、ちょっと。待ちなよ……ッッ!」
「待つ? ご冗談は顔だけになさってくださいね」
話にもならない。
「行きます!」
《疾風の江頭》と《憤怒の五十嵐》など、この銀河高校のOBには、勤務しているスタッフには二つ名がほかのスタッフが遊びでつけている。
これは伝統に近いものがある。
そんな《疾風の江頭》の嫁の平子にもある。
《嫉妬の平子》--と。
それはとことん、浮気する女性を執拗に攻める様子からつけられた畏怖名だ。
入江の表情が青ざめた。
「お、俺、悪くねェじゃんか‼」




