#32 誘う人たち
気づき、気づかされる存在。
それは割かし、なくなってから気づいてしまうものだ。
◆
「いらっしゃいませー」
めでたく職場復帰した入江は、出入り口からの来店者に挨拶をする。
それどころではないのに。
(夢みたいだった、な)
しかし、あれは現実だ。現にーー皆が探している。店長も。
いきなり三人のスタッフが、重要なトップでもある頭の二人がいなくなってしまったのだから。
「居ないねぇー居ないねぇー~~ぐす」
楡にも家庭がある。早出もあったこともあり、早く帰りたいのに、その頭が居なくなってしまった。
「も゛~~~なんでぇ゛~~!?」
楡は涙声になってしまっている。
そこへ。
「楡店長ー私、まだ居ますしーどうぞ帰ってくださいー」
4Fのマニアショップの店長、一柳乙女が微笑んでいた。
彼女も、銀河高校のOBであり、教員でもある。
そしてーーあの小林の元・恋人でもあった。
「い、一柳しゃん‼」
入江が小林に食ってかかるの原因の女性だ。
彼女に入江がホの字だからだ。
教員と生徒が付き合って結婚するのはよくある話で、小林と一柳もそうだったのに、小林が、あろうことか一柳を振った。
その話で、余計に入江は小林を邪険にするようになる。
(なァんで、あンにゃろうは……一柳先生をフリやがったんだよっ)
依然として、その怒りは収まらない。
「ほほほ、本当ですかぁ~~一柳先生ぇ~~ッ」
「はいなー」
ガシ!
「では、お言葉に甘えさせて頂きます!」
ダダダダダ! そう言い残して楡が帰っていく。
「まー何ごともなければいいんだけどねーねー~~出口さんー」
にこりと一柳が微笑む。
「は、はひ!」
「変な子ねー君はー~~」
ニコニコ。
◆
何ごともなく。確かに、何ごともない。
スタッフが三人居なくなったというのに。
「ぁあ゛~~ダリィ~~~~」
入江もぼやく。あの冒険や、激闘が嘘のようだ。
落ち着いた世界、本来の世界ーー現実。
「ちょっと。いいでしょうか、入江」
来た。厄介な相手が、向こうから。
「嫌だっつったら??」
「嫌、ですか。そうですねぇ……あぁ」
「?? あんだよ」
入江が人形を補充し始めた。
「拉致でもしましょうか」
補充の手が止まった。
「ははは。馬鹿も休み、休みに言えっての!」
そして、補充を再開させる。
「話によってはーー存在を消す所存ですが。ここまでで、何かご質問はありますか?」
生気のない目が入江を射貫く。
「あのさー子供、迎えに行く時間なんじゃねェ~~のォ??」
「あなたに心配されるまでもありませんから」
「本当に、変な女だなァーあんたは」
「男の娘になったあなたに言われたくもありませんから」
ギリ‼
「「にゃろォう」」
◆
「あー~~本当にどうにもならないね」小林がため息をつく。
続くように五十嵐も「そうっスねぇー~~」と言う。
その二人から浦飯が視線をずらすと。
「ぁ」
見覚えのあるような人が手真似をしていた。
「???」
浦飯もフラフラと訳も分からずに行ってしまう。
「あれ?」
「へ?」
そのことに気づいたときには浦飯の背中は、遥か彼方にあった。




