#28 暴力と言葉と
地面から突起した、紫色のボタン。
押すか、押さないのか。
「押さないで行きましょう!」
浦飯がそう言い放った。
◆
小林に五十嵐、そして地べたに座っていた入江。
口をへの字にさせた。
「カヲル、何で?」
入江が聞く。
「言ったでしょ~~」
「うん。でも、びっくりした」
入江が苦笑する。
「帰りたいでしょ」
「……正直ね」
「「種を撒いて浦飯さんだけでも返そう」」
OBコンビの声が重なる。
「ほら! 浦飯さんは、元々ーー……」
「違うなら、あの時、ドアは閉まんなかったじゃねェか」
「--入江君」
「あんだよォ~~」
ドガッ!
小林の足が入江の胸を蹴りつけ、押し倒す。
「っぐあ!」
ゴスン!
「ったァ~~~~ッッ!?」
グリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼
「ぃ゛っだい゛ッッ!」
ぐっぐっぐっー…
無言で小林は強く踏みつけた。
「な゛に゛がい゛え゛よ゛‼ ごの゛ぐぞや゛ろ゛う゛ッッ!?」
睨みつけながら、柔らかな入江の胸を踏みつける。
「……華奢な身体になったもんだ」
ピク。
「女、そのものじゃないか」
「っざけんな!」
入江が踏みつけ続ける小林の足を手で持ち上げようとする。
「っこ、ごの゛ォ゛~~~~~~ッッ‼」
だが、強く踏まれて、寝っ転んだままの体勢のため力が入らない。
「ぬ゛ぬ゛ぬ゛ッ‼」
浦飯が、あわわわ! と顔をする。泣き顔だ。
おたおた、とも手を動かす様子の浦飯に、
「はいはい。小林さーん、outーーッッ」
五十嵐が小林に親指を立てた。
「今日は、これぐらいにしておいてやる」
◆
「っごほ! っかはッ」
入江が腹を摩り、咳を何度もする。
「ゴホホ! ゴホッッ」
両目に涙が浮かんでいる。
じろりー…
小林が、後ろからついて来る入江の様子を伺う。
そんな小林にスススー~~と五十嵐が近づく。
耳もとで、小さく囁く。
(嫌われちゃえ~~んでーあいつは俺のセフーーッッ)
ゴブン! 小林の裏拳が五十嵐の顔面にぶち当てられる。
「ふごッッ!?」
五十嵐が、その場に腰を落とした。
「どいつも! こいつもッ!」
しゃがみ込んだ五十嵐に、入江が手を貸す。
「ん」
まだ、声は出せないようで、顔は真っ青だった。
「……可愛いやつめぇ~~!」
「ンん゛!?」
手を貸した入江をいいことに、正面から抱きしめた。
「ンゴ‼」
ジタバタ! と入江も暴れる。
シュッ!
小林の足が五十嵐の耳に当たり、身体が入江を離して吹っ飛んだ。
「ったく! どいつも、こいつも! 僕にまともな部下はいないのかよ!」
ふと、小林は浦飯を見て、
「あ。浦飯さんは部署が違うから。気にしないで」
小さく、浦飯も頷いた。
「さて。あのボタンが出るのが先か、怪物や敵が出るのが先か」
小林の口はしが吊り上がる。
ゴホ、ゴホ。
その呟きに、入江が口を開いた。
「絶対……っこほ、俺が、っほォ、-…護るんだ」
小林がため息を漏らした。
「……絶対、なんて強い言葉を使うんじゃないよ」