#25 殺(ヤ)り返す
紫色のボタンが蹴った地面から突き出ていた。
心が躍ったのは秘密にしておこう。
◆
「浦飯さんは、そこで隠れてて!」
そう入江は言い、走って行ってしまう。
浦飯は、あまりのことに呆然と、その背中を見送っていた。
ダダダダダッ‼
入江は辺りの木の枝や、葉を手ではらい、二人の元へと走る。
二人の居場所は容易に分かった。
虫が地面へと落ちている方へ、羽根の音が鳴る方へと、行けばいいだけだ。
「結構、殺ったみたいだなァ~~あのOBコンビの奴、らーー…」
と、驚きつつ、正面を向くと。
「‼ --ッ‼」
虫に囲まれ、傷ついた二人が立っていた。
「ァ……ぅ゛あッ」
五十嵐が入江の存在に気づき、次いで小林が気づいた。
ぷい、と顔も逸らす。
ナニ、アレーー…ケガ、酷いぜ?
「よくも。よくもーー虫の分際で……虫の分際でよォ~~‼」
入江の髪が逆立つ。
◆
「フフフ! ぎゃははは! いい様じゃッ、いい様じゃ!」
クラレントが笑い声を抑える真似はしなくなっていた。
「……《鎧針獣》」
鎧針獣は虫ではない。肉食の獣、動物だ。
ただ、彼らもまた、蜂のように蜜を好み、それで巣も作っている。
その巣は、蜜だけではなく人間の塊も使用していた。
だから、酷く匂う。それを蜜で抑えているが、巣の色は恐ろしいほどに斑で、ところどころに目がはいっている。人間の。
主様は、これを突けとボクに命じた。だから突いた。
(……主様は、あの男をどうしたいのだろうか)
ぼんやりと、クラレスは下の様子を見た。
クラレントはガン無視しながら。
◆
「ばっかだなぁ……お前は。足手まといにしかならないのに」
五十嵐が肩で息を漏らしながら吐き捨てる。
「肩で息しといてよォ~~。何、言ってんだか!」
肩に、腹に、至るとことに傷がある。
「歳なのに、はしゃぐからだぞ!」
入江の語尾が揺れる。
「--僕は? 入江くん」
小林は顔面の半分が血まみれだった。
「ん~~痛っそ~~って感じ?」
「ええ。痛いですね。視界も狭い」
「じゃあ。五十嵐さんのが重傷ってこったな」
小林がむくれた。
「……何だよ」
ポン!
「冗談だよ! 主任さん!」
落ち着け。
「俺が、護るよ」
落ち着け。
「きっと、これがーー俺の仕事さ!」
入江の長い髪が抜けていく。
見る見る、元の禿に戻っていく。
「俺は入江出口! 性別はーー男だ‼」
怒るのを止めた。止めたというよか、その感情から目を背けた。
一時的に効果がある。
「時間がねえからよォ~~パッパッとやっちゃうぜェ~~‼」
そう言うとポケットから種を出した。
走っているときに、ポケットに違和感があった。
そこには種とあの瓶が戻っていた。
っしゅ!
「ほい! これで止血しろ!」
パシ!
小林もそれを受けとる。
「分かった」
パラパラー…
「さァて、こっからが本番だぜェ~~??」
この原始林は、水の飛沫が沢山ある。
そうーー種が育つにふさわしい環境なのだ。
◆
「! ま、まさかッッ‼ 奴‼」
クラレントは立ち上がりオペラグラスを外した。
ワナワナ、と身体全体も震える。
「……本当に、面白いなぁ」
クラレスが微笑を漏らした。
◆
《標識調》が勢いよく育つ。
虹色
虹色
虹色
⇒虹色
全てが『アイテム』ボタンだった。
「へへへッ! 分かってらっしゃる‼」
ボチ! 入江は強くボタンを押した。
押すと《標識調》は枯れた。
種を入江は拾い上げ、ポケットに仕舞う。
その中、鎧針獣の大群は益々、多くなっていく。
「よくも、俺の連れをやってくれたもんだ! 死ねよ、お前ら‼」
手を拡げると、手に何かがまとわりついていくのが分かる。
気色悪ぃ感覚だ。そうスライムが這いずりまわっているような。
息を飲み、その手を見た。
ニヤリ。
「いいんじゃなァ~~い?」
入江の反撃が始まる。




