11ページ目~儚き一つの命
「…」
あれから2ヶ月の月日が流れ、季節は冬、12月。あれから俺と葵は恋人関係のまま過ごしている。手紙は見つからないまま外は雪景色に変わり、まるで全てが真っ白になってしまったかのようだ。あんな事件は無かった、昔の葵は消えた…そんな気分にさせられた
「…な~に沈んだ顔をしてるのかな?」
「…沙亜弥?」
放課後、一人残って考え事をしてる所に沙亜弥が現れた。…最近彼女とはあまり話す機会が無かったな
「そ、紫谷野沙亜弥さんです。…無神経かもだけどさ、最近の浅井君、何か変だよ?噂じゃあまるで話しかけても筒抜けらしいじゃない」
「…俺自身、今の生活がまるで嘘のようなんだよな。平和で、退屈で、平凡で…それはそれで良い、とは思うけど…」
「まるで全てが消ゴムで消されたノートのよう、かな?」
…なんでそんな言い回しを選んだかは理解出来なかった。…ただ、やはりなにかを知っているのか?沙亜弥はこの件を何かと引き合いに出してる様な気がするんだが…
「今まではちゃんと形が残っていたのに、今はそれも無い、そんな気がするのは君だけじゃないさ」
「…沙亜弥、君はなにかを知ってるのか?だからこうして俺の前ではなにかとその話を持ち出すのか」
「…知ってることは、あるよ」
「!!」
沙亜弥は曇った笑顔で一言そう呟いた。やはりなにかを知っている…!
「でも、今になったらそれを知っててもただ無力なだけ、私が惨めなだけだよ」
「…意味分からないけど、知ってる事があるなら教えてくれ!…俺はあの場には居なかった。だから少しでも葵の記憶を戻す手がかりが欲しいんだ」
「…」
沙亜弥は口を結んで答えない。…答えたくない事なのだろうか
「私が知ってることは…とても残酷な事なの。それでも…聞きたいの?」
まるで死刑宣告でもするかの様な発言だ。…でも俺は引けない。葵には…やっぱり思い出して欲しいんだ、思い出を、皆を、…俺を
「…話してくれ」
「…そう、分かった。じゃあ、手短に言うね」
そして沙亜弥は短く、悔しそうな表情を浮かべて答えた
「…彼女は、私の見てる前で落ちたの」
「…!?見てる前で…!?」
…どういう事か、まるで頭の中が整理できなかった。それを理解してか沙亜弥は言葉を続けた
「細かく言えば、私が屋上に来たときにはもう身体を投げ出していた、という事かな。だから私も取り調べ受けたよ、彼女を突き落としたんじゃないかって」
「…」
「当然、私は否定したよ。彼女を突き落とす理由なんか私には無いし、第一落ちた時に私は屋上にたまたま来たの」
「…今、君がここに居るのが証拠、か」
「そうね、そう思ってくれて良いよ。でも私は不思議だったの。飛び降りにしては靴は履いたまま、遺書も無し。…それに私は、その落ちるとき、彼女が何かに手を伸ばしてた様に見えたの」
「…手を伸ばす?」
ここの学校の屋上はフェンスが俺の胸の位置くらいまでで、確かに身を乗り出すのは女子でも可能だけど…
「実際その手の先には何も無かった…様な気がする。でも何かに手を伸ばしてた…とは思うの」
「…なぁ、沙亜弥、その場所に手紙って落ちてなかったか?」
現場に居た沙亜弥の疑惑は晴れた。だけどそうなると俺には1つ、結び付きそうな事柄があった。葵の記憶にある手紙だ。…もし、手を伸ばしていた先にあったのが手紙なら…だが答えは違っていた
「いや、そんなものは無かったよ。第一遺書とかも無いんだから、そんなのあったら重要証拠になってたと思う」
「…確かにそうか…」
「その手紙がどうかしたの?」
「…葵、手紙という記憶を思い出したんだ。その手紙が何なのかまでは分からなかったみたいだけど…もしかしたら、と思ってね」
「…さすがにもう冬で、見つかっても文字は読めなくなってると思うな」
「分かってる。でも…それが鍵だって思う、俺は」
沙亜弥はため息をついた。…変なところで固執してあきれたか?
「…やっぱり、敵わないな、川原さんには」
「…え?」
俺は聞き返すが、沙亜弥はそのまま踵を返しその場を去ってしまった。…どういう意味だろうか
「…あれ、そういえば、葵は何処に…?」
そこで今さらながら葵が居ないことに気付いた。最近なら何があっても俺と一緒に帰っていた。今日もどこかで待っているのか?とりあえず俺は支度をまとめ、校門まで行ってみるが…
「…居ない?」
…校門に葵の姿は無かった。不安になり葵の下駄箱を開けてみると、そこにはいつも履いている(と思われる。常に見てる訳じゃないから分からないが)ローファーがあった。…まだ学校の中に?でも沙亜弥と話していた時は…
「…」
とりあえず俺は遭遇してる可能性の高いあの人が居る所へ向かった…
「川原?いや、ここには来ていないぞ」
「…そうですか」
「…何かあったのか?普通な様子にはとても見えんぞ」
生徒会室、松田先輩はやはりここに居た。だが葵はここには来ていないし、今日は見ていないとの事だった。…葵はこの少しの間で俺と交遊のある三人、真実と沙亜弥、そして松田先輩と仲良くなっていた。真実はもう帰宅していて沙亜弥はさっきまで俺と居た、そうなれば後はここかと思ったんだが…
「…いえ、何でも無いです」
「嘘をつくな。…目が泳いでるぞ。浅井、川原が居なくなったのか?」
「…ええ」
「…それはまずくないか?何がまずいかは分からんが…そんな気がするぞ」
「分かってますよ」
…どうやら嫌な予感がするのは先輩もらしい。…一体何処に行ったんだ…?
「…浅井、そういえばお前、前に手紙がどうとか言ってなかったか」
「え?あ…確かにそうですが…」
…この話、先輩にしたか?いまいち覚えてないけど…
「…これがそうかは分からないが、一応渡しておく」
そういい先輩は自分の机から一枚の汚れた便箋を渡された。…便箋?。表面上はただ汚れてるだけだが…
「雪が降る少し前に学校を清掃活動をしてみたら出てきたのだ。うまい具合に雨風は凌げていたようだ。…誰もそれを開けていないから求めてるものかは分からんがな」
「…具体的に何処にあったんです?」
「?A棟とB棟の間らしいが…それがどうかしたか?」
「…いえ。ありがとうございました」
…という事は…
「…」
俺は松田先輩と別れ、一旦教室に戻ってきた。…この便箋のなかに、手紙がある。…俺は少し期待していた。これを見れば、葵はなにかを思い出すかも知れない。そんな気がした。…俺は、意を決して中の手紙を取り出した。それは見たことの無い字が刻まれていた。だが…そこには思いのよらない言葉が刻まれていた。…これは、葵宛ての手紙で…
「…?…まだ中に…」
そこでまだ何か便箋の中にあるのに気付いた。それを取り出してみると…
「……っ!?」
…これは…となると、あれは事故か?…便箋はその場には無かった。そうなればあの行動は…
「…勇樹君?」
「っ!?」
背後から声をかけられ慌ててものを隠す。振り向くとそこには探していた葵が居た。何やら俺の行動に疑問の顔をしている
「…何か見てたの?」
「あ、あぁ。会長に頼まれて写真の選別をな」
「…教室で?」
「それは…会長が今は集中して作業がしたいからって、俺は追い出されたんだ。だからとりあえずここで、って感じだ。…そんな事より、葵こそ何をやってるんだ?」
とりあえず話を変えることに全力を注ぐ。…今ここで、これを葵に見せちゃいけない。…記憶が戻れば、つらい思いをするのは間違いなく葵だ
「…えっと、千田さんに誘われて調理部に行ってたんだ」
「調理部?…部活やりたいのか?」
「ううん、違うよ。ただ千田さんが今日は暇だから、相手してって…」
「部活しろよ」
…葵はさっきのものに興味を示さなくなった。とりあえずは凌いだか…
…あの便箋には…葵と、その友達が映っていた。だがその友達は葵とは別の高校に行っていた。だがそれでも二人は仲良しだったはず。俺もその女子とは葵を通じての知り合いだったからな。…だが、高校に入って夏場を過ぎた辺りから連絡が取れなくなったと聞いている。葵が時々家に遊びに行ったりもしたが、母親に不在だと告げられ引き返してばかり、携帯にも連絡はつかなかったそうだ。…そいつが、そんなことになるなんて俺は思いもしなかった。きっと葵もそうなのだろう。…葵の飛び降り、あれは事故だったのだ。だってあの中にあった写真は葵とその友人…一条 咲子が笑顔で映っていて…手紙には短い文章が葵宛てに書いてあったから。…でも今は、これを葵には見せられない。…これで記憶が戻っても、立ち直れないかも知れないから…
『葵へ
ごめんね、私、耐えられなかったよ。葵、今までありがとう
咲子』




