12ページ目~壊れた"私"
「…」
彼女の友人、一条咲子はどうしているのか、俺は知らない。文面を見る限り、まるで遺書の様に見える。だが俺は考えているうちに1つ、疑問点が浮かび上がった。では遺書なら、なぜ違う学校であるここで手紙が見つかったか、だ。…わざわざ友達の手紙を家からこっちまで来て見るとは思えない。それに一条がこちらの学校まで来て遺書を渡すだろうか?…俺が覚えている限りでは来ていない気がする。葵は学校では俺と居る時間が多かったし、一条の話を稀にしていたが、会ったと言う話は聞いたことが無い。第一、俺に隠すとは思えない。…謎だ…
「…勇樹、君?」
「…へ?」
「…ご飯、冷めちゃうから…早く来て?」
「…飯?」
葵に声をかけられ思考を止める。一体いつから声をかけてくれたのか、葵は泣きそうな顔をしていた。…そんなにぼーっとしてたのか、俺…
「家にかえって来るまで一言も話さないから…もしかしたら…具合悪いのかなって…思って…ご飯作ったの」
「…悪いな、気遣わせて」
「…そんなこと、無いよ?今日はお母さん、帰り遅いから…一人じゃ寂しいし…」
「そっか。…じゃ、飯にしようか?」
「…うん」
俺と葵は食卓に移動してご飯を食べることにした。…葵は何時から作っていたのか、今日は肉じゃがだった。…多少の煮崩れは黙っておこう
「…どう、かな?お母さんから教わったんだけど…」
「…うまいよ、葵。料理上手だな」
「…ありがと。…勇樹、何か悩んでる?」
「え?…やぶからぼうにどうした?」
「…さっきもぼーっとしてたし…何か、私に話しにくいことがあるみたいで…」
「…」
葵はどうやら俺が考えていることに気付いたらしい。…ただ、俺はやはり話す気にはなれなかった
「…いや、ちょっと生徒会についてな。少し悩むことがあってぼーっとしてるんだ」
「…良かったら…聞かせてほしいな?」
「…これから生徒会は世代交代の時期で、俺も一応は活動してきた。そこで会長から正式に生徒会に入らないかって打診されたんだ」
「…どうするの?」
「断ろうと思ってる。…集団行動は得意じゃないし、人の上に立って何かをしたいとは思わないからな」
「…でも、悩んでるの?」
「そりゃ、世話になった会長直々の誘いだからな、あんまり無下にするのもな~って」
「…自分が納得出来る、答えにしなきゃね?」
「…あぁ」
…葵…
「…ここ、か?」
俺はその週の日曜日、学校が休みなのを利用して一条家にやってきた。真実に聞いてきた一条家は学校の近くにあり道に迷うことは無かった。…いきなり俺が来たら不審か…?でもとりあえず行動を起こさなければ始まらないのでチャイムを鳴らす。すると玄関から人が出てきた。大分若い見た目の女の人だった。恐らく母親だろう、とりあえず会釈をする
「…どなた?」
「…昔、咲子とよく遊んでた浅井勇樹って言います。娘さんから話は…」
「…上がって?立ち話もあれだから…」
「?は、はぁ…」
俺は急に家にあげられた。椅子に腰かけ、対面には一条のお母さんが座る。…そして少し暗い空気の中、相手が話始めた
「…咲子から話は聞いたことはあるわ、よく遊ぶお友だちが二人、居るって。貴方と、川原さん、と言ったかしら?」
「間違いないです」
「…私、あまり回りくどいお話をするのが苦手なの。だから単刀直入に言っても良いかしら?」
「…はい」
この言い回しだけで、大体察しがついてしまった。…まさか、とは思った。一番嫌な想像だ、と思った。だが…
「…咲子、もう居ないの」
「…」
…一条咲子の死、これは嘘偽りが無い事実になってしまった。…だが下を向いては居られない、俺は知らなきゃいけない事実があった
「…彼女、一条咲子は…何で?」
「…病気よ。とても重い病気だったの」
「…」
「最後まで咲子は頑張った。でも、耐えられなかった。そして3月に…命を落としたの」
「…今の話を踏まえて聞いてほしいことがあります。…娘さんの友人、葵が学校の屋上から転落しました。時期は3月半ばでした。…その時に、葵はこの手紙を持っていたみたいで」
俺は一条の母さんに葵宛ての手紙を渡す。そして俺は言葉を続けた
「…葵は、娘さんが亡くなるまで会いに来てましたか?」
「はい。よく来てました。その度に咲子は嬉しそうな顔をしてたのを覚えてますよ」
「…そうですか」
…葵は、一条の死を手紙によって伝えられた。中に入っていたのは一条が今まで大事にしていた写真で…葵はそれを屋上で見た。だがその時に風が写真をさらっていった。それを取ろうと柵から身を乗り出した瞬間にバランスを崩したのか。…やっと、繋がったか
「…咲子ったら、川原さんにこんなに悲しい手紙を…送ってたんですね。もうダメだって分かって…」
「…友達思いの、良い子だったんですね」
そこで携帯が鳴った。俺が断りを入れて出ると、スピーカーからかなり焦った声が聞こえてきた
『…っ!勇樹君!?』
「…え?葵の母さん?どうしたんですか、そんなに慌てて」
『葵が…っ、葵がっ!!』
「…葵が…どうしたんですか?」
『学校の屋上から飛び降りようとしてるって電話が来て…!!』
「…え!?」
葵が…!?何でだ!?最近は落ち着いてたし、記憶を思い出す理由は何も…、何…も?
「…っ!!分かりました、すぐ向かいます!!」
『わ、私は先に行くからっ…』
そして電話が切れる。…そうだ、最近は大人しすぎたんだ。まるで気にしていないような、そんな素振りをしてたが…そんな訳無かったんだ!!
「…切羽詰まった用事なのね?早く行って?」
「…すいません、こんな急にお邪魔して、ただ嫌な記憶を引っ張り出して…」
「良いのよ、それに…」
俺が出ていく間際、一条のお母さんは1つ暗い笑みを浮かべ、送り出してくれた
「咲子は…川原さんには生きてほしい、そう思ってるはずだから」
「…失礼します!」
「…っ!!はぁっ…はぁっ!」
「あ、お前は…2年の浅井か!?」
学校に着くなり俺は屋上への階段をかけ登った。だが道中に生徒指導の山上が立ちふさがっていた。恐らく野次馬を通さない為だろう。俺は肩で息をしながらなんとか話しかける
「…っ、はぁっ…通して…くれませんかっ…!」
「…浅井、これの経緯を知っているのか?」
「…分かりません、でも葵は…大切な友達なんです。俺が…俺が助けます!」
「…先生も同じ気持ちだ」
山上は俺が通る道を作ってくれた。どうやらOKらしい
「…浅井、もう二度と、あのような事にならないように」
「…はい!」
先生なりの励ましなのだろう、厳しい口調ながら、俺の背中を押してくれた。…大丈夫、そんな事…させない
「葵っ!!!」
「…!」
「浅井!?」
屋上のドアを開けると、そこには柵をつかんで泣いている葵と、落ちるのを辞めさせようと必死に説得していたのだろう、松田先輩の姿があった。俺は松田先輩の所まで駆け寄る
「…何がどうなってこんな事に?」
「私も分からないのだ。生徒会室で雑務をこなしてるところに川原が屋上から身を乗り出していると聞いてな、やって来てみたが川原は口をきいてくれない。やっとの思いで踏みとどまっては居るようだが…」
「…分かりました」
「…絆を、見せてくれ」
「…はい!」
俺は松田先輩をとりあえずこの場から離し、俺が少し葵との距離を詰める。葵は柵を力一杯握りしめ、こちらに顔を向けようとはしない。…だけど瞳からは大粒の涙が落ちていた
「…なぁ葵、何か思い出したのか?急に何をしてるんだよ」
「…勇樹君には、関係無いもん」
「…関係ある!俺は葵の傍に居るって約束したんだ!」
「…じゃあ、何で私に黙ってたの?」
葵はそこで、胸ポケットから何かを取り出した。…それは、本来俺が持っていたはずの写真だった。いつのまにやら俺は写真を入れ忘れていたか、葵がもって行ってたらしい。…葵はその写真を見て何かを思い出したのだろうか?
「…黙ってたのは謝る。それが葵の記憶を失っていた原因かも知れないって思ったら素直に出せなかったんだ」
「…勇樹君、私は…悲しいの、つらいの。勇樹君が隠していた訳じゃないの。…これを見ても、記憶が戻らないの」
「…え!?」
…この写真を見てもダメだったのか?じゃあ、葵はどうしたら記憶が…
「…もう私、どうしたら良いか分からないの。別に記憶が戻らなくても良いとも思うのに、前勇樹君は寂しそうな顔をしたの。…だから私、なんとかしたいと思ったの。でも…やっぱりダメだったの。学校に行っても、写真を見ても、色んな事を知っても…"私"の中の"わたし"が分からないの。怖いの」
「…っ!」
葵は普段から恐怖していたのだ。自分の知らない自分が居る、でもそれは全く実態が無いもの、何故ならそれは自分だから。でもそんな自分も取り戻そうとした、けど…ダメだったのだ。それで絶望して…
「…だからって、諦めて良い訳じゃないだろ!!俺も居る、お母さんが居る、友達がいる!…一人じゃないんだ、一人で抱えるな!!」
「…勇樹君…」
涙は止まらないが、葵に俺の言葉が伝わったのか、表情に笑みが浮かんだ
「だから、な?こっちに…来てくれ?」
「…優しいね、勇樹」
「!!」
…今、俺を君つけずに…その呼び方は、昔の葵の…
「…でも…私は…ダメ…だ……」
「!?葵っ!!?」
だが、葵はこちらに一歩、足を踏み出した瞬間に倒れてしまった。俺は急いで駆け寄る。…抱き上げて見るが、まるで力は入っていない。…何が、あったんだよ…
「葵!葵っっ!!どうしたんだよ、なぁっ、葵ぃぃいっ!!!」
その後、葵は事前に松田先輩が手配した救急車に乗せられ搬送された。だが俺は付き添うのを辞めた。…俺のせいで、葵は…っ。俺は…なんて過ちを…
私と一緒に写る二人
一人は勇樹君
もう一人は…覚えてない
でも、忘れちゃいけないって気がするの
とても大事な人だったと思うの
…私、本当に真っ白なんだ
消ゴムをかけられちゃったんだ
また新たに字を書くのは簡単だけど
…下の字が、本当に無くなっちゃうの
そんなの…嫌に決まってるでしょ…
勇樹君には…気付いて欲しかった
弱い"私"が壊れる前に…




