10ページ目~記憶を無くした少女の恋
「…おう、待ったか?」
「…ううん?」
次の日、俺は葵と一緒に町に出掛ける約束で川原家の前に来ていた。…実はあれから俺は目の覚ました葵にあの時の答えを伝えたのだ
―「…葵、目、覚めたか?」
「…うん。…ごめんね?私、また…」
「いや、別に良いんだ。…それより葵、前の答えなんだけど…」
「…え、あ、あの…」
「…俺で良いんだな?他にも沢山の男が居るのに…」
「…!!うん、勇樹君じゃなきゃダメなの…」
「…そっか」
「…で、で…なら、明日…遊びに、行こ?」
「ん?…ああ、良いぞ」―
「…勇樹君?どうしたの、ボーッとして…」
「え?あ、いや何でも。それより葵、どこに行きたい?」
俺の質問に葵は少し悩む姿を見せる。そして出た結論は…
「…ここ、か?」
「…うん」
たどり着いた先はカラオケボックスだった。とりあえず二時間分の料金を二人分支払い中に入る。…葵がカラオケか。昔は時々行ってたってのは知ってたけど…俺と一緒に来たのはこれが初めてだ
「…クラスの皆が、遊ぶならここが良いって…」
「へ~…最近の女子って、こういう所で遊ぶんだな。俺はあんまり来ないから分からないけど…」
「…カラオケ、嫌い?」
葵が不安そうな顔で見上げてくる。…恐らく、今日急に決めたことだったけど嬉しかったんだろう、必死に考えたものが反応良くなかったらショックなんだろうな。…俺は首を横に振った
「いや?ただ、あまり来る機会が無いってだけだ」
「…そう、なら良いんだけど…嫌なら言ってね?」
「別に嫌じゃないから心配するな。…で、何を歌うんだ、葵」
「…え?」
俺の疑問に葵は首をかしげた。…あれ?俺何か変なこと聞いたか?
「…私も、歌うの?」
「そりゃそうだろ、カラオケって歌を歌う所なんだから…」
「…で、でも私、歌は分からない…」
葵が明らかに動揺していた。…もしや、カラオケは歌ってる人を観て楽しむものだと思ったのか?…記憶は思った以上に穴になってるんだな~…
「俺が歌うのは良いけどさ、俺は葵の歌も聞いてみたい。きっと上手いんだろうしな」
「…う…でも」
「往生際が悪いぞ葵、俺だけに歌わせるとか、そんな事はさせないからな?」
「…いじわる…」
「意地悪じゃない」
とりあえずまずは俺が一曲歌う。そうすれば葵も歌いやすくなるだろうと思っての行為だ。…そして、次は葵の番になった。葵はマイクを両手でしっかりと持ちながらも顔は不安で一杯だった
「…別に点数つけるとかじゃないんだから、好きに歌えよ?下手でも笑わないから」
「…が、頑張る!」
そしてメロディーが流れだし、葵が歌い出した。曲は最近流行りの静かなラブソングだった。…葵の声は結構澄んでいて凄く上手い…
「…どうだった?」
「…上手いじゃん。結構歌うの好きなのか?」
「…ううん?別に歌うのが好きじゃなくて…この歌が好きなだけだよ?それに…うまくないもん」
「いやいや、上手いって」
葵の隠れた才能を見つけた様な気がする…
「今日はあたしと清一郎さんの願いが叶った日だから、腕を振るったわよ~?」
「…そんなに気合いを入れる事ですか?」
一度俺たちは葵の家に帰ってきて昼食になった。葵の母さんがなんか気合いを入れてご飯を作ってくれた。葵も笑顔で食卓についていた
「…おいしいよ、お母さん」
「そぉ~?お母さん嬉しいわぁ」
「本当においしいです」
「ありがと~、ユウくんもどんどん食べてね~?」
「…はい」
葵の母さんは本当に料理が上手い。…その割に仕事はパートなんだよなぁ…
「…勇樹君、お昼食べたら…次はどうする…?」
「ん?そうだな~…」
…結構葵は体調が回復した夏休み中に葵の母さんと一緒に出て回っていたらしい。…そうなると、行くところはもうこれといって無い様な…
「…ごちそうさま。…勇樹君、ちょっと…部屋まで来てくれる、かな?」
「え?あ、あぁ。…ごちそうさまです」
「はい、お粗末さま。午後からも葵の事、よろしくね」
「…はい」
俺はとりあえず葵が自室に招いてきたのでそれに従うことにした。…なんで部屋なんだ?もしやもう出掛けたくない…とかか?
「…疲れたか?」
「…ううん?ただ…今日はちょっと…勇樹君に、話したいことがあって」
葵は昨日、俺に告白した時のような真剣な眼差しで背筋を正した。…なんだ?
「…あのね、勇樹君に、お願いしたいことがあるの」
「お願い?無理難題じゃなければ聞くけど…?」
「…あのね、最近…昔、手紙を書いていた…ような記憶が頭をよぎったの」
「…手紙?」
「そう、手紙…。それは、とっても大事なもの…だったみたいなの。でも…探しても、見つからなくて…」
「…そりゃあ、誰かに渡したとか、郵便に出したとか…したんじゃないのか?」
「…でも、その手紙は、出されなかった…そんな気がするの。…"わたし"が書いたその手紙、凄く気になって…。…勇樹君、もらってない?」
…俺は記憶を思い返してみるが、葵から手紙をもらったことは一度も無い。第一葵とは昔からかなり長い時間一緒に居たのだ、手紙にしなくても直接言いにくれば済んでいたのだ。だが…葵はその記憶が気になったようだ
「…いや、俺はもらったことはないけど」
「…そう…」
…手紙か、覚えておいた方が良いかもな…
「…少し、眠くなっちゃったかも」
そんな事を二人で考えていると、葵がそんな事を言い出した。気付くとベッドの毛布を既に身体に半分かけている。…え~…
「…寝るのか?」
「…ん~っ…お腹一杯で…良い気持ち~…」
「…一応デート中なんだぞ?俺が居る前で…」
「…勇樹君は大丈夫、だもん。…だから…寝る~…」
そしてとうとう毛布を完全に被ってしまった。…今日はこれでお開き、か。とりあえず荷物をまとめて部屋を出ようと立ち上がったか…
「…待って…?」
毛布から手が伸びてきて、俺の荷物を掴んだ。…いや、それホラーだろ
「…なんだよ、寝るんだろ?だったら俺は帰る」
「…寝れるまで居てくれたら、嬉しいな…?」
…いつぞやにも聞いたセリフだった。…こういうのを断ると、葵は悲しい顔をするんだよな…とりあえず俺はベッドの近くで座り込む
「…仕方ないな、寝たら帰るからな?」
「…寝なかったら帰らない?」
「寝るんなら寝れよ」
「えへ…うそうそ。…おやすみ…」
「あぁ、おやすみ」
そして少しすると葵の寝息が聞こえてきた。…よし、帰るか…
「…っと、あれ、お母さん?」
「あら、ユウくん?葵はぁ?」
部屋を出ると葵の母さんと出くわした。俺が帰り支度をしているのを不思議に思ったのだろうか、俺の手荷物を気にしていた
「あぁ…葵、どうやら疲れちゃったみたいで。俺も今日はお役御免、って感じです」
「マイペースなのねぇ、ふたりとも~」
「あなたがそれを言いますか…。とりあえず俺は帰ります」
「そう?じゃあまたねぇ~?」
「お邪魔しました」
…夕方にはまだ日は傾いてないか、とりあえず帰宅した。…俺は葵の言っていた手紙の話を思いだし、気になったから心当たりに電話をかけてみた。…記憶と言うものは古いものは具体的には映らない。葵の場合は事故のショックで無くしてはいるが…見えていると言うことはそんなに昔の話じゃない。となると、よく葵と一緒に居たのは俺だけじゃ無く…
『やっほー、どしたん勇樹?』
…電話に出たのは真実だった。…彼女も昔から葵と一緒に居た友達だ。…とりあえず聞いてみよう
「いきなりで悪いな、真実。実は一つ聞きたいことがあって…良いか?」
『なにさ~?』
「…昔、葵から何か手紙って…もらったことあるか?」
『…手紙?』
真実は手紙と言う言葉をはんすうするが、どうも心当たりがないようなため息をついた
『わたしが覚えている限りは無いかな~。私たち、あんましそういう手の込んだ事はしてなかったね』
「…そうか」
…だとすると…手紙ってなんなんだ…?
手紙の記憶
それは私にとって大事なのかな
でもわたしがもしかしたら
勇樹君に…
いや、考えちゃダメ、かな
だって私はわたし
わたしも私
そう…そうなの、きっと




