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ですが麗しい侯爵様、媚薬づくりは犯罪です~今更『愛してる』と言われましても~  作者: 飴家なつめ(旧:雨屋飴時)


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3/8

3

 

 姿勢をただし、頭を下げる。


「ア、アーレイン侯爵。どうしてここに……」

「リセに用があってきたのだ」


 アーレイン様の視線が、わたしへ向く。

 ノアの、気遣うような視線。下級貴族は見下されることもあるから、心配してくれているのだろう。

 頷いて微笑み返したが、それでもノアの目は戸惑うように彷徨った。


「…そう、ですか。では、俺は失礼いたします。リセ、また」


 一瞬こちらを振り返り、小さく手を振って、ノアは店の外へ出る。


 ぱたん。


 扉が閉まってしまうと、店内はしん、と静かになった。

 時計の秒針の動く音が、やけに大きく聞こえる。


「お、お待ちしておりました、アーレイン様。あの、お茶をお持ちします。席に座ってお待ちいただけますか」


 いつものテーブル席に、今日は赤いアネモネの花を置いていた。

 なんだか重たい空気に耐えられずに声をかけたが、アーレイン様は、顔を俯けたまま動かない。


「アーレイン様?」

「……あれは、誰だ?」

「あ、幼馴染のノアと申します。すぐ近くで働いているので、時々ごはんに誘ってくれて」

「……それだけか?」

「は、はい。それ以上、何も」

「……そうか」


 アーレイン様は小さく呟くと、のそりといつもの席に着く。


 え。

 え。

 え!?


 まさか、妬いてくださったとか?

 いや、そんなわけない。思い違いにもほどがある。

 でも……


 勝手にときめく胸を収めながら、アーレイン様へお茶を差し出す。

 アーレイン様は腕を組み、じっと何か考えているようだった。


「何か、お悩みですか」


 わたしが正面の椅子に座ると、机へ向いていたアーレイン様の顔が上がり、じっとわたしを見つめた。やがて、迷うように瞳がそれる。


「どうしたのですか。もしよろしければ、お聞かせください」

「リセ……」


 アーレイン様は決意したように、唇を開く。


「以前話した、媚薬の件。やはり、受けてもらえないだろうか」

「え……」


 すでに遠ざかったと思っていた依頼の、思いもしない再要請に、わたしは持っていたカップを落としかけた。


◆◆◆


「アーレイン様。以前も言いましたが、媚薬作りをお受けすることは――」

「媚薬でなくていい。似たもので構わないから、どうにかならないか」


 アーレイン様が、すがるようにわたしを見つめる。

 必死な様子に、思わず言葉が詰まった。


「答えられる範囲で構いませんが、媚薬は誰が必要としているのですか?」

「………とある貴族、だ」

「媚薬なんて物騒なもの、どうして必要なのでしょう」

「物騒?」

「はい。媚薬や惚れ薬の類が禁止されているのは、合意なく飲まされ、被害者が多く出たためで……」


 薬を盛られた人は、意志とは関係なく相手のものにされてしまう。


「ち、違う! そんなことは考えていない……!

 慕っている人がいて、デートに誘いたいから……と、言っていた」


 …………は?


「どういうことですか?

 確かに、媚薬は恋愛感情を錯覚させるものですから、使えばデートに応えてもらいやすくはなるかもしれません。

 ですが、それだけの為にわざわざ媚薬を使うなんて、リスクがあまりにも大きすぎるような」

「……その……媚薬は不安や恐怖を抑制するのだろう?」

「まあ、そうですが……」


 胸がざわざわする。


 慕っている令嬢?

 デートに誘えない?


 高貴な方からの依頼かと思っていた。


 けれど、薬を欲しているのは、実はアーレイン様本人……?

 いや、憶測はよくない。

 でも……


 爪に糸がひっかかったような居心地の悪さと小さな痛みに、思わず自身の腕を組む。


 もし、媚薬が必要なのがアーレイン様だとしたら、令嬢を悪いようにするとは思えない。思えないが……


 考えて、ふと思い立つ。


 まさか。


「……分かりました。不安を抑制するようなものが必要なのですよね。その目的に沿えるものなら、ご用意できるかもしれません」

「本当か!」


 立ち上がったアーレイン様は嬉しそうで、邪な思いがあるようには見えない。


 仕方ないな、と息をつく。


「はい。できましたら連絡いたしますので、少しお日にちをください」

「もちろんだ。ありがとう」


 アーレイン様は、きっと誰かに薬を盛るつもりじゃない。

 そう思ったから、引き受けるんだもの。


 恐らく、アーレイン様が媚薬をほしがる目的は――




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