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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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私が攫ってあげる

 日曜日の昼過ぎ、玄関のチャイムが鳴った。

 ドアを開けると、ののみが両腕で紙袋を抱えて立っていた。

 ののみは、制服ではない緑のワンピース姿だった。

 肩から下げたポーチに宇宙人のキーホルダーがついている。


「ぴこーん! ののみん、真白(ましろ)ちゃんのお部屋に降臨みゅん!」

「いらっしゃい、ののみ。……って、その重そうな紙袋、どうしたの?」


 私は慌てて手を伸ばし、ののみの腕から紙袋を受け取った。

 見た目より中身が重くて、腕にずっしりと来る。


「思ったより重いね、これ」

「みゅん! ののみんも、駅から二駅分、休み休み運んできたみゅん!」

「え、そんなに? 大変だったね……」

「電車代をお菓子代に回したかったみゅん……」


 ののみは、私の部屋に入るなりカーペットの上に本を広げた。

 古本屋の奥にある棚の匂いがする。


「みゅふふ。これはののみんの秘蔵コレクション、古いオカルト雑誌の山みゅん! 今日は特別に、真白ちゃんのために持ってきたみゅん」

「わぁ、すごい量だね」


 雑誌の山から一冊を引き抜き、表紙をこちらへ向ける。


「見てみてみゅん! この口裂け女特集! 『私、きれい?』って聞いてくるマスクの女みゅん! 昔、全国を震わせた都市伝説みゅん!」


 口裂け女って、この世界でも存在するんだ。

 雑誌の紙面には、マスクの絵と、逃げ方の考察が並んでいた。


「返事で助かる話もあるやつだよね。ののみなら、どう答える?」


 ののみの目がぱっと開いた。

 この世界の口裂け女と、私の世界の口裂け女はどうやら同じらしい。


「ぴこーん! 真白ちゃん、冴えてるみゅん! ののみんは『ふつう』って答えて、べっこう飴を差し出すみゅん! それからこれ!『トイレの花子さん』みゅん! 三階の女子トイレ、三番目の個室を三回ノックして、『花子さん遊びましょ』って呼ぶみゅん!」


 花子さんも共通か……。

 じゃあ夜の音楽室でベートーベンやモーツァルトの肖像画の目が動くとかも同じなのだろうか。

 でもこの世界にベートーベンってたぶん、存在してないよね?

 ののみが出した次の雑誌は、さっきより表紙の色が褪せていた。


「学校の怪談の王道だね。今度一緒に、学園の三階のトイレ、行ってみる?」


 ののみは紙袋から、端の折れた雑誌をもう一冊引っぱり出した。


 紙面には、夜の駅と線路沿いの写真が並んでいた。

「それから、駅の怪談なら『テケテケ』みゅん! 列車事故で下半身をなくした女性の霊が、テケテケって音を立てて追いかけてくる都市伝説みゅん!」

「夜の駅で聞こえたら、絶対怖いよね」

「みゅん! 真白ちゃんも今度、駅のホームで耳を澄ませてみるみゅん。……あ、でも一人では行かないでほしいみゅん」

「心配してくれるんだ」

「みゅ、みゅん! 危ないから、それだけみゅん!」


 ののみは雑誌のページをめくる手を止めて、目線を私に向けた。

 私もののみを見つめ返して、ののみの返事を待った。


「……真白ちゃん、ののみんの話、なんでこんなに真面目に聞いてくれるみゅん?」

「真面目に聞くのは当たり前だよ。同じ部活の友達だもん。それにののみ、すっごく楽しそうに話すから。私も聞いててわくわくする」

「……みゅん」


 ののみの指が、雑誌の端に触れた。

 ページをめくるわけでも、次の特集へ移るわけでもない。ただ、印刷された宇宙人の輪郭を指でなぞっている。


「……ののみ?」

「ののみん……変な子だから、最後はみんな置いてくみゅん。……でも、世の中の不思議を考えている間は何もかも忘れられるみゅん」


 言い終わったののみは、雑誌を紙袋へ戻そうとした。


「ののみ、こっちおいで」

「……みゅん?」


 私は一度立ち上がり、カーペットの上に散らばった雑誌を踏まないように、ののみの隣へ移った。

 私は、ののみを抱きしめた。

 ののみの体がびくっと跳ねる。


「今は、私がいるよ」

「あ……ま、真白ちゃん……っ」


 ののみはまだ腕を浮かせたままだった。


「もう置いてけぼりなんて言わせないから」

「……みゅん、みゅぅ……」


 ののみの電波語が途切れて、額が私の肩に触れた。

 私はそのまま、ののみの背中に腕を回す。


「ののみが不思議なお話をたくさんしてくれるの、私、大好きだよ」

「真白ちゃん……あったかいみゅん……。ののみんの心拍数、異常な数値を出してるみゅん……」

「どれくらい? ちょっと確かめさせて」

「みゅ、みゅんっ!? だ、ダメみゅん、爆発しちゃうみゅん……!」


 ののみの腕が、勢いよく私の背中に回った。

 抱きしめる力が、思ったより強い。


「ぴこーん……これじゃあ、ののみんが真白ちゃんに、魂ごとアブダクションされちゃうみゅん……」


 やっと戻ってきた電波語に、私は笑った。


「いいよ。私が攫ってあげる」


 散らばった雑誌の上を、窓の外から差す光が照らしている。

 私たちは、その光の中で抱き合ったまま、しばらくそのままでいた。

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