故障じゃないよ
ののみが、部室のカーテンを閉めた。
光が遮られた部室の机には、古いラジオが置いてある。
「ぴこーん。今日のオカルト研究部は、霊界ラジオ受信実験みゅん」
「ラジオで、そんなの拾えるの?」
「これはきっと、特別なラジオみゅん! 霊界の周波数を拾うみゅん。ノイズに、声が混じるんだみゅん」
ののみは、ラジオの正面を私のほうへ向けた。
「これ、どこで見つけたの?」
「リサイクルショップみゅん。店員さんは壊れてるって言ってたみゅん」
「正直な店だね」
「壊れてるラジオほど、違うところにつながるみゅん」
ののみはラジオの電源を入れた。
最初に、ぶつ、と鈍い音がして、次にザーッというノイズが部室に広がる。
私は椅子を引いて、ラジオの前に座った。
「何か聞こえる?」
「まだ何も聞こえないみゅん」
ののみが、ダイヤルに指をかける。
ザーッ、ザザッ、という音が変わる。
知らない放送局が入りかけて、すぐにザザッという音へ戻った。
「ここからが本番みゅん。耳を澄ますみゅん」
「うん」
私はラジオに顔を寄せた。
ののみが本気で聞いているなら、私も聞く。
ザ、ザザ……。
ノイズの奥に、一瞬、別の音が混じった。人の声か、音楽か、分からないまま消える。
「今の、聞こえたみゅん?」
「うん。言葉かどうかは分からないけど」
「きっと霊界の声みゅん!」
ののみはラジオを見てから、私をじっと見る。
「真白ちゃんが隣にいると……拾えるみゅん。真白ちゃんの周波数と、合うみゅん」
「私もののみの隣にいると、楽しいな」
ラジオから、ザーッという音が続いている。
「ぴこーん。……ののみんのアンテナ、真白ちゃんに、ずっと反応してるみゅん。故障かなぁ……?」
私はラジオを見たまま、返事を探した。
「故障じゃないよ」
ののみが、私を見る。
「私にも届いてる。ののみのアンテナ」
ラジオのノイズが、流れていく。
ののみは口を開いたまま、何も言わなかった。
「……ぇ」
やっと出た声も、いつもの高さではなかった。
さっきの声を隠すように、ラジオのダイヤルへ指を添える。
「も、もっと霊界の声を聞くみゅん!」
ののみは椅子を私の隣へ寄せる。
肩が触れる位置で、二人でノイズを聞いた。
この日、それから霊界の声が聞こえることはなかった。
***
夜、スマホが震えた。終先生からだった。
『今日のもちおです。可愛いでしょ〜』
添付された写真に、いろんなぬいぐるみが並んでいる。
もちおの隣にいるのは、眼鏡のうさちゃん先輩、ネクタイのたこ部長だということを教えてくれた。
棚には、それ以外のぬいぐるみが何体もいた。
『先生、この写真も可愛いですよ』
喫茶店で、先生がラピピを顔の横に寄せていた写真を送る。
『佐倉さん!? 写真まだ残してるの!? 消してよ〜』
『大事な思い出なので消しません』
ラピピの泣き顔スタンプが来た。私は続けてメッセージを送る。
『今週の土曜日、先生のお家のもちおたちに、会いに行ってもいいですか』
既読がついて、しばらく止まった。
『私、先生なんだけどなぁ』
『コレクションを見るだけです。お昼前に伺って、夕方前には帰ります』
少しして、返事が来た。
『わかった。了解』
『ありがとうございます。楽しみにしてます』
土曜日は先生と約束をした。
ののみを日曜日に誘ってみよう。
私はののみのトークを開いた。
『ののみ、今週の日曜日って空いてる?』
『真白ちゃんの電波が来たから、今から空くみゅん』
『よかったら、会えないかなって』
既読がついたものの、なかなか返事がこない。
『ののみんでいいの?』
ののみの不安が、画面の向こうから伝わってくる。
『ののみがいい。じゃあ、うち来る?』
今度は、既読がついた瞬間に返事が来た。
『みゅん!? 真白ちゃんの家!?』
『ののみん、初めてお友達の家に行くみゅん!』
『水晶玉いる!? お菓子持ってくみゅん!』
連続でメッセージが来る。
私はののみの反応が面白くて、笑いながら返事を考えた。
『水晶玉はいらないよ。お菓子、楽しみにしてる』
カレンダーに、予定を二つ入れる。
土曜、終先生。日曜、ののみ。
二人ともからスタンプが送られてきたが返信はせず、そのままメッセージアプリを閉じた。




