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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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開けたら、終わっちゃうから

 ――土曜日の朝五時。

 ラピピショップの前には、すでに列ができていた。

 私は最後尾の札を持った店員さんに確認し、列の端に並ぶ。

 六月の朝は明るく、閉まったシャッターのガラス越しにラピピのポスターが見える。


 スマホの時計が、五時半を回った。

 列の近くで、トートバッグを胸の前に抱えた人が、最後尾の札を探している。

 ラピピのキーホルダーをバッグにつけて、私服を着ている休日の終先生(ついせんせい)だった。

 私は列を離れて、たまたま気づいたふりで声をかけた。


「先生」

「ふぇっ!? 佐倉さん!?」


 先生は、とっさに周りを見回した。

 キーホルダーのラピピが揺れる。


「な、なんでここに」

「ラピピ、欲しくて」

「佐倉さんも?」

「はい。前から、可愛いなって」


 嘘ではない。

 今回の目的が、ラピピではないだけだ。


「先生、後ろに人来ます」

「あっ」


 終先生は私の後ろに並んだ。

 すぐ後ろに別の人がつく。


「ラピピって、中身は選べないんですよね」

「うん。だから、狙いのはなかなか出なくて」

「狙い、あるんですか」


 先生の目が、店のポスターへ動いた。


「星空のリボンをつけた子。ずっと出ないの」

「へえ」

「……今日は出るといいなあ」


 終先生はトートバッグのラピピキーホルダーを指で触った。

 それから、列が進み、無事に買える順番には間に合った。

 レジで二千八百円を払って、ラピピの入った箱を受け取る。手のひらに乗るサイズなのに、けっこうな値段がする。


「買えた……」


 終先生がレジ袋を抱えて、店の外で立ち止まった。


「よかったですね」

「うん。佐倉さんも、買えてよかった」


 ここで帰ったら、ラピピを買っただけで終わってしまう。

 私は思いきって、先生に向かって切り出した。


「先生、この後、お茶でもどうですか」

「えっ」

「近くの喫茶店で、先生とラピ活したいです」


 終先生は、レジ袋と私を交互に見た。


「ラピ活」

「はい」

「でも、佐倉さんは生徒で、私は教師で」

「部活の顧問(こもん)ですよね」

「そうだけど」

「たまたま街で会っちゃって、ついでにお茶を飲むだけです」


 先生は、もう一度だけ周りを見た。

 同じ学校の生徒は、いなさそうだ。


「お茶を一杯だけなら」

「ありがとうございます」

「本当に一杯だけだからね」

「はい」



***



 近くの喫茶店に入って、窓際の席で向かい合った。

 先生は箱を両手で持ったまま、なかなか開けない。


「開けないんですか」

「開けたら、終わっちゃうから……。今が、いちばん可能性があるの」

「分かる気がします」


 それでも、先生は意を決して箱を開けた。

 出てきたのは、舌を出した、元気な顔のラピピ。


「……これはこれで、可愛いよね」


 私は、自分の箱を開ける。

 出てきたのは、星空のリボンをつけたラピピだった。


「あ」


 先生の声が漏れた。


「先生。これ、交換しませんか」

「えっ、で、でも、それ、佐倉さんが当てたのに」

「私は、どの子でも嬉しいので」


 星空のリボンをつけたラピピを、先生の前に置く。


「先生のほうが、この子を待ってたでしょう」


 先生は、しばらく動かなかった。

 それから、両手で受け取る。


「……ありがとう。大事にする」


 二体を、テーブルの端に並べた。


「写真、撮ります?」


 先生はスマホを取り出した。

 ラピピを撮る姿が、授業の時より真剣だ。


「先生、また、こういうの一緒に行きたいです」


 先生のスマホが、撮影画面のまま止まる。


「佐倉さん」

「はい」

「私は、先生だから……」

「そうですね」

「でも、部活の活動として、えっと、キャラクター文化の調査……?」

「それはちょっと、無理がありますね……」

「うぇぇ、佐倉さんが誘ったのに」

「ごめんなさい。でも、また先生と会いたいです」


 そう言ってから、私はスマホを構えた。


「先生、ラピピと一緒に撮りましょうか」

「えっ、先生も写るの?」

「はい。せっかくなので」


 先生は、もらったラピピを顔の横に寄せて、ぎこちなく笑った。

 私は、その一枚を撮る。


「これ、送りますね」

「あ、ありがとう」

「……送るには、連絡先、いりますよね」


 我ながら、ずるい言い方だ。

 先生は、しばらく迷ってから、連絡先のコードを表示した。


「部活の連絡用だからね」

「はい」

「ラピピの写真を送るのも、部活の……えっと」

「活動記録?」

「そう、活動記録」


 私はコードを読み取る。

 トーク画面に、先生の名前が出た。


『今日はありがとうございました』


 送信すると、先生のスマホが震えた。

 先生は画面を見て、ちょっと迷ってから返してくる。


『こちらこそ。ラピピ、かわいく撮れてるね』


 最後にラピピのスタンプがついた。

 喫茶店を出ると、終先生は駐車場のほうを指した。


「佐倉さん、家はこのあたり?」

「歩いて15分ぐらいですね」

「車で来てるから、送るよ。朝から並んだし、荷物もあるでしょ」

「でも」

「いいからいいから」


 終先生は、もう車のキーを手に握っている。


「お願いします」


 先生の車の助手席に乗ると、ぬいぐるみがいっぱいだった。

 ダッシュボードにも、後部座席にも並んでいる。バックミラーには、マスコットがいくつもぶら下がっていた。


「ただいま。お待たせ」


 先生が、その子たちに向かって言った。

 言ってから、私と目が合って固まる。


「……っ。い、今のは、その、いつもの癖で……っ」

「お留守番ありがとう、ですね」

「うぅ、恥ずかしい……忘れて」


 車が走り出す。

 ぬいぐるみに囲まれた助手席は、思ったより居心地がよかった。

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