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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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先生の素顔

 放課後、オカルト研究部の引き戸に手をかけたところで、中から声が聞こえた。


「……今日もね、授業で噛んじゃって……」


 終先生(ついせんせい)の声だ。

 私は戸を開けかけた手を止める。


「先生ね、真面目にやってるんだよ。それなのに、喋るたびにくすくす笑われて……うぅ、もちおだけだよ、味方は」


 もちお。

 前に鞄から転がり出た、あのクマのぬいぐるみだ。

 聞かなかったことにするべきか、入部した部員として普通に入るべきか。迷っているうちに、先生の愚痴は続いた。


「でもね、もちお。先生、今日も授業頑張ったんだよ。途中で黒板消し落としたけど」


 だめだ。

 このまま聞いているほうが悪い。

 私は引き戸を開けた。


「先生」

「ひゃっ!?」


 終先生の肩が跳ねた。

 机の上には部活動日誌。先生の両手には、クマのぬいぐるみ。


「さ、佐倉さん!? 聞いてた!?」

「ちょっとだけ……」

「ち、違うの、これは、その、ストレス解消のれっきとした心理メソッドで……」

「はい」

「はいって何!? うぇぇ、やっぱり全部聞いてたでしょ今の!?」


 私は部室に入って、引き戸を閉めた。

 終先生は耳まで赤くして、もちおを胸に抱えている。


「もちおが味方なの、わかります」

「……え?」

「私も、誰にも言えないことを何かに聞いてほしくなる時、あります」


 終先生の手が、もちおを鞄へ押し込む前で止まった。


「……変、じゃ、ない?」

「全然。先生も、普通に疲れますもんね」

「教師が、ぬいぐるみに授業の反省を話してるんだよ?」

「授業の反省なら、かなり先生っぽいです」

「先生っぽいかなぁ……?」

「少なくとも、もちおに愚痴ってる内容が生徒の悪口じゃないです」


 終先生は、もちおを鞄へ戻した。


「佐倉さん、笑わないんだね」

「笑ってほしかったですか?」

「それは嫌です」

「じゃあ、笑いません」


 言ってから、私は開いたままの部活動日誌を指した。


「先生、日誌つけてたんですか?」

「うん。オカルト研究部は活動内容が活動内容だから、せめて記録は真面目に残そうと思って」

「佐倉さん、その、もちおのことは……」

「言いません」

「四条さんにも?」

「言いません」

「ほかの生徒にも?」

「言いませんって」

「ありがとう」


 その時、引き戸が開いた。


「ぴこーん! 今日のオカルト研究部、キラキラの波長を受信したみゅん!」

「ふぇっ!? 四条さん、いつからそこに!?」


 ののみが部室に入ってくる。

 手には、黒い布の袋。終先生は鞄を胸に抱えて固まった。


「ツッチー先生と作戦会議みゅん?」

「そうそう、部活の今後について話をね?」


 そう言いながら、終先生は急いでもちおを鞄の中にしまった。


「それで、ののみ。今日は何を持ってきたの?」

「ぴこーん。今日はこっくりさんを試してみるみゅん!」


 ののみは机に黒い布を広げた。

 厚紙のボードには、五十音と数字と鳥居の絵が印刷されている。


「それ、どこで」

「通販サイトで見つけたみゅん。初心者にも安心、こっくりさん入門セットみゅん」

「安心して入門しちゃだめなやつです!」


 終先生は、私の制服の袖をぎゅっと握った。


「先生、絶対やりたくないです! こっくりさんはだめ!」

「ツッチー先生、ビビりすぎみゅん」

「だ、だって、怒らせたら……っ。あ、いや、いないけど! いないからね!?」


 ののみは十円玉をボードの中央に置いて、両手を添えた。


「こっくりさま、こっくりさま。おいでくださいみゅん」

「来ないで来ないで来ないで」


 ぴこーん、と、ののみのアホ毛が跳ねる。


「……今、十円玉が動いた気がするみゅん」

「ひぃっ」

「それ、ののみの手が震えてるだけ」

「ばれたみゅん」


 私は、ボードの上にあるののみの手に自分の手を重ねた。


「今度、先生がいない時に二人でやらない?」

「真白(ましろ)ちゃん?」

「先生、もう泣きかけてるし」

「泣いてませんっ」


 ののみは、こっくりさんから手を離し、重なっている私の手を握った。


「ぴこーん。じゃあ真白ちゃん、約束みゅん」

「うん、約束」


 終先生が、こっくりさんセットを黒い布で覆う。

 私の手に絡んだののみの手は、しばらく私から離れなかった。



***



 十六室(じゅうろくしつ)のソファの真ん中に、私は座っていた。

 左から久遠(くおん)先輩が腕を絡め、右からは雪乃(ゆきの)が負けじと私の腕を抱え込む。両脇から固められるのにも、最近は慣れてきた。

 向かいに座った紡(つむぎ)先輩だけが、テーブル越しに私のスマホへ手を伸ばした。


 紡先輩は、写真を順番に見る。

 剥がした板と、鋼鉄の扉。暗い鍵穴の写真で、紡先輩の指が止まる。


「まさかこんなものがあるなんて……」

「扉がありました。でも、鍵が必要みたいです」

「それと、進捗は?」


 久遠先輩が、私の肩に頬を寄せたまま聞いてくる。


「四条さんとは?」

「旧校舎に行って、連絡先も交換しました」

「藤代先生は?」

「少しは話せるようになっています」


「そうね、情報があるわ」


 久遠先輩は、私から離れないまま話し始めた。


「藤代先生は、ラピピにかなり入れ込んでいるわ」

「ラピピ?」

「ぬいぐるみ系のキャラクターよ。まんまるい瞳に、ぎざぎざの歯。にやっと笑った、可愛いんだか不気味なんだかわからない顔で、箱を開けるまで中身がわからないシリーズものよ」

「あー、なんか見たことあるかもしれないです」

「土曜日の朝、限定ぬいぐるみの販売があるわ。先着制。藤代先生が来るかもしれないわね」


 久遠先輩が、空いたほうの手でスマホをこちらへ向ける。

 画面には、限定販売の告知が出ていた。先着順、購入制限一人一体。


「こういうのって何時に行けばいいんでしょう……」

「早朝から並ぶイメージがあるわね」

「分かりました。早起き頑張ります」


 右で、雪乃が私の腕を抱える手に力を込めた。


「そんな不細工なぬいぐるみのために、早朝から並ぶなんてくだらないな」

「三上さん、悪態をつくなら何か情報を出したらどうかしら?」


 雪乃が黙った。

 私の腕にしがみついたまま、スマホで「ラピピ 販売」と打っている。


「調べてるじゃない」

「うるさい。真白のためだ」


 紡先輩と目が合った。

 話が終わっても、左右の二人は離れなかった。

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