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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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ずっと、待ってるみゅん

 放課後のオカルト研究部に行くと、ののみがダウジングロッドを持って、座っていた。


「ぴこーん。今日の議題は旧校舎(きゅうこうしゃ)みゅん」

「旧校舎は、議題にするだけにしようね? 行かないからね?」

「ツッチー先生、声がもう行く前提で震えてるみゅん」

「震えてないです。先生は顧問(こもん)として、危険な活動を止めているだけです」


 終先生(ついせんせい)はタブレットを胸に抱え、机の端へ寄っている。


「旧校舎には、夜になると誰もいない廊下を歩く音がするみゅん」

「しない。しないよ。聞こえたら、それは建物のきしみです」

「あと、閉まってるはずの音楽室で、ピアノが鳴るみゅん」

「旧校舎のピアノは新校舎に移動されたからありませんよ……?」


「先生、顔が青いみゅん」

「照明のせいです」

「部室の照明、青くないみゅん」


 十六室(じゅうろくしつ)で決めた作戦を、私はこなさなければいけない。

 終先生とののみ。同じ部室で、別々に近づく。言葉にすると簡単で、目の前に並ぶと胃に悪い。


「旧校舎って、今は立ち入り禁止なんですよね?」

「そうだよ。耐震工事予定で閉鎖中。生徒だけで入るのは絶対だめ」

「生徒だけじゃなければいいみゅん?」

「顧問を連れて行こうとしないでぇ」


 終先生が、助けを求める顔で私を見る。

 ここで助けると先生の好感度は上がる。ののみの好奇心を否定してしまう。難しい状況だ。


「ツッチー先生はビビりだから留守番でいいみゅん。ののみんと真白(ましろ)ちゃんで、未知の扉を開くみゅん」

「顧問の威厳がぁ……」

「顧問の威厳、旧校舎で再受信できるみゅん」

「それ受信しに行ったら先生が職員室(しょくいんしつ)で怒られるやつだよね?」


 終先生が情けない声で返すと、ののみはダウジングロッドを机に戻した。


「……やっぱり、立ち入り禁止なら、だめみゅんね」


 ののみの声が落ちた。


「ごめんね、二人とも。先生、そろそろ別の仕事があるから行かないと」

「ツッチー先生、逃亡みゅん?」

「逃亡じゃないです。職務です」

「職務なら仕方ないみゅん」


 終先生は鞄を持って、扉のところで振り返る。


「佐倉さんも、四条さんを止めてあげてね。旧校舎、本当に危ないから」

「はい」


 引き戸が閉まる。

 部室には、ののみと私が残された。


「ののみ」

「みゅん?」

「旧校舎、内緒で行っちゃおうか」


 ののみは椅子から跳ねるように立ち上がった。


「ぴこーん! 真白ちゃん、禁断の扉を開く波長みゅん! いつ行くみゅん?」

「明日とかどうかな? でも、旧校舎ってどうやって入れるかな? 鍵かかってるよね……」

「大丈夫みゅん! 実はガラスが壊れている窓があるのを、知ってるみゅん。ののみん、下見済みみゅん」


 下見済み、と来た。ののみは本気だ。

 紡(つむぎ)先輩が旧校舎を気にしていたし、私にとっても都合がいい。


「じゃあ、連絡先交換しよう。集合時間、メッセージで決めるから」

「真白ちゃんの連絡先、登録するみゅん!」


 ののみはスマホを出して、私の画面に表示したコードを読み取った。

 すぐにトーク画面へメッセージが届く。


『ぴこーん。ののみんだみゅん』


 私は短く返した。


『佐倉真白です』


「堅いみゅん」

「最初の挨拶だから」


 ののみは、画面に出た私の名前を見つめていた。

 その嬉しさを、私はこれから利用する。



***



 十六室で旧校舎の話をすると、紡先輩はすぐにスマホを差し出した。

 画面には、古い図面と、学園の廊下に貼られている避難経路図の写真が並んでいる。


「旧校舎の古い竣工図。事務の書類庫にある、許可がないと閲覧も複写もできないものよ」

「どうやって見たんですか」

「郷土史を調べている、という名目で申請したわ」


 紡先輩は画面を指で拡大する。

 古い竣工図には、旧校舎の一階の端から地下へ降りる階段が描かれていた。


「最近のループで、やっと気づいた。この校舎、図面がおかしい」

「地下ですね」

「そう。古い竣工図には地下と、地下への階段がある。でも、今の避難経路図からは地下が消えている。描き直されているの」


 紡先輩は、現行の避難経路図を表示した。

 そこには、同じ場所に倉庫とだけ書かれている。


「それに、各部屋の寸法を足すと、建物の外形と合わない。廊下の突き当たりに、説明できない空間が残る」

「そこに行けばいいんですね」


 紡先輩がスマホをこちらへ傾ける。二人で覗き込むと、肩が触れた。


「おい」


 雪乃(ゆきの)が割り込んだ。

 雪乃はスマホをつまんで、テーブルの上へ戻す。


「話は終わったか?」

「まだ途中」

「あんたたち、さっきから画面見るふりしてくっついてるだろ。……特に真白、デレデレしすぎ」

「いや、図面を見てただけで……!」

「スマホを机に置いて見ればいいだろ」


 雪乃が紡先輩を押しのけ、私の左隣に座った。

 私の左腕を引き寄せて、自分の胸元に抱え込む。紡先輩はソファーから立たざるを得なくなった。

 すると今度は、反対側から久遠(くおん)先輩が腰を下ろす。


「黒羽さんも、真白のことが好きになってしまったのかしら」

「そんなことないわよっ!」


 真っ赤になって怒鳴る紡先輩をよそに、久遠先輩は私の右手を両手で包む。


「でも、真白は本当に可愛いものね。こうして少しでも目を離すと、すぐに誰かに奪われてしまいそうだわ」

「く、久遠先輩……っ?」


 左右から固められて、もう腕一本、まともに動かせない。

 紡先輩は向かい側へ座り直し、テーブルの上のスマホをこちらへ向けた。


「それで、前のループで行こうと思っていたんだけど、真白とのことがあったから行けていない」


 紡先輩は二人の牽制を無視して、画像の端を拡大した。


「旧校舎に行くなら、この突き当たりを見てほしい」

「分かりました。ののみと旧校舎へ行く時に見てきます」


 私が答えると、紡先輩はスマホを置く。


「……本当は、私と一緒に行ってほしかったけれど。戻ってきたら、今度は邪魔が入らない場所で、ゆっくり成果を聞かせて欲しい」

「このチビ! 何どさくさに紛れて誘ってるんだよ!?」

「あらあら、黒羽さんも積極的ですこと」


 左右からの力が強くなる。

 旧校舎の謎を追う前に、このソファから抜け出す必要がありそうだった。



***



 夜の旧校舎は、学園の西側にあった。

 西門でののみと合流する。私はスマホのライトをつけ、ののみはダウジングロッドを構えていた。


「ぴこーん。真白ちゃん、不思議な波長があるみゅん」

「しーっ! 声、落として」

「みゅん」


 旧校舎の正面玄関は板で塞がれている。

 ののみは迷わず校舎の横へ回った。割れた窓に養生テープが貼ってあり、端が剥がれている。


「ここ、前に見つけたみゅん。一人で下見してたみゅん」


 ののみはテープの隙間から手を入れ、錠を回した。

 窓が開き、私たちは一人ずつ越えて廊下へ降りた。

 床には埃が積もり、空の教室がライトの先に見えた。


「ぴこーん。ここ、霊道が交差してるみゅん」

「どっち?」

「右みゅん。……真白ちゃん、信じてくれるみゅん?」

「否定する材料もないし」


 ののみの足は止まらない。

 でも、声から勢いが抜けていく。


「みんな、ぴこーんって笑った後、ののみんを置いて先に行っちゃうみゅん」

「得意にならなくていいよ」

「置いてけぼり、ののみん、得意なんだみゅん」

「今日は、二人で調査するんでしょ」


 ののみが、目を丸くする。


「……みゅん」

「そこ、ぴこーんじゃないんだ」


 ののみはロッドを構え直した。

 紡先輩の図面が正しければ、地下への階段はこの先にある。

 ライトを上げると、突き当たりに階段はなかった。

 壁があるだけだ。

 けれど、廊下の長さが、図面より短い。


「ぴこーん。……ここ、びびっとくるみゅん」


 ののみがロッドの先を、壁へ向けた。

 私はライトを近づける。塗装の色が、周りと違う。

 手を当てて押すと、壁がわずかにたわむ。


「これ、壁じゃない」


 継ぎ目に爪をかけて引くと、塗装ごと板が剥がれた。

 角材の下地にベニヤを張って塗っただけだった。奥から出てきたのは、鋼鉄の扉だ。


「ぴこーん! 出たみゅん、本物の未知の扉みゅん! ののみんのアンテナ、振り切れてるみゅん!」

「うん。鍵が、かかってる」


 太い鍵穴がひとつ。

 押しても引いても動かない。壊せる扉じゃない。


「ぴこーん……ここ、誰かいるみゅん」

「誰か?」

「ずっと、待ってるみゅん」


 気づいたら、口が動いていた。


「……その誰かも、置いてけぼりなのかもね」


 スマホで写真を撮る。

 剥がした板、鋼鉄の扉、鍵穴。私は保存された画像を確認する。

 そろそろ帰ろうということになり、私たちは来た道へ向かった。

 窓を越えると、夜の空気が肌に触れた。

 ののみが窓を閉める。私は、その手を取った。


「……みゅん?」

「帰ろう」


 ののみが、繋いだ手を握り返してくる。

 壁の向こうに何があるのかは、まだ分からない。

 でも、隣にいるちょっと照れたののみを見て、今日はここに来てよかったと思った。

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