堂々と二股しろってこと!?
翌日の放課後。
職員室で入部届をもらい、私はもう一度、オカルト研究部の前に立った。
昨日と同じ貼り紙。違うのは、部屋の中から、ののみ以外の声が聞こえることだった。
「四条さん、これ、活動記録の欄が空欄なんだけど……」
「活動はしてるみゅん。記録が霊的に追いついてないだけみゅん」
「霊的に追いついてないって、職員会議でなんて説明すればいいのぉ……」
その頼りない声を、私は知っている。
引き戸を開けると、顧問席に座っていたのは、現国の新米教師、藤代終先生だった。
「えっ。せ、先生……っ、どういうこと!?」
「ふぇっ!? な、なに、新入部員って佐倉さんだったんだ」
「ぴこーん。真白ちゃんとツッチー先生、既知の波長みゅん?」
「既知っていうか、授業で……」
「ツッチー先生はオカルト部の顧問みゅん。じゃんけんで負けて押し付けられたって、職員室で泣いてたみゅん」
「い、言わなくていいの、四条さん!?」
終先生がタブレットを抱え直して、涙目でののみを見る。
教師と生徒は別の動線だから同時攻略できる。そういう話だったはずなのに。
この二人、同じ部室で一緒にいる。
「真白ちゃん、書類のハンコはツッチー先生が押すみゅん」
「あ、うん」
私が入部届を机に置くと、終先生は印鑑を探して、自分の鞄をごそごそし始めた。
「えっと、判子、判子……あれ、ない。さっき職員室では、あったのに……」
赤ペンの束、のど飴、しわくちゃのプリント。
先生が一つずつ机に出していくうちに、ぽてっ、と手のひらサイズのクマのぬいぐるみが転がった。
「……っ!?」
終先生が、それをすごい速さで鞄に戻す。
顔は耳まで赤い。
「い、今のは、違うの、これは……っ」
「ツッチー先生、いつもそれ持ってるみゅん。お守りみゅん」
「ののみちゃん、それは言わない約束ぅ!」
久遠先輩が言っていた、ぬいぐるみと会話する先生。
その情報が、今かなりの精度で裏づけられている。
判子は結局、先生の胸ポケットから出てきた。
「未知の扉は、開ける前に必ず先生に相談すること。立ち入り禁止区域とか、本当にだめだからね?」
「旧校舎のことみゅん?」
「い、言ったそばからぁ……!」
旧校舎、という単語に、終先生の声が上ずった。
終先生が部活の顧問? そんなの想定外なんだけど!?
***
翌日の放課後、私は十六室で、昨日の一部始終を報告した。
話し終えても、紡先輩はスマホから目を上げない。
久遠先輩はソファで脚を組み、雪乃は壁際で腕を組んでいる。
「……顧問。知らなかったわ」
「私も部室で初めて知りました。オカルト研究部の顧問が、終先生で」
「部活動のデータまで見ておくべきだったわ。先生と生徒なら同時攻略ができる、という前提が崩れた」
紡先輩は黙って、スマホを置いた。
しゅんと小さくなっているのが、なんとなく伝わってきた。
一方で、久遠先輩だけは、なぜか楽しそうに私を見ていた。
雪乃は、壁際から、じとっと私を見る。
「オカルト研究部、楽しそうで何より」
「雪乃、拗ねてる?」
「拗ねてない。……ただ、たまには私のことも、構えよバカ」
雪乃は、ふいと壁のほうを向いた。
私はその横顔から目を逸らして、紡先輩へ向き直る。
「どっちか一人から、順番にいきます。同じ部室で一緒になるなら、同時攻略は危なすぎます」
これ以上、失敗したくない。
そう続ける前に、久遠先輩が口を挟んだ。
「いいえ。いけるんじゃないかしら」
「え?」
久遠先輩は、困惑する私を見て笑った。
「藤代先生は教師よ。仮にあなたへ特別な感情を持っても、部室でそれを口にはできない。四条さんも、先生の前で恋人になりましたとは言えないでしょうね」
「確かに。終先生は教師として言えない。四条ののみもわざわざ教師に報告しない。二人とも、好意を公言できない構造があるわ」
私はテーブルに手をついた。
「それ、つまり……堂々と二股しろってことじゃないですか!?」
「同時攻略よ。今までやってきたじゃない」
「そ、そうですけどっ」
分かっている。
帰るためには、瓶を満たすしかない。何度もループして、何度も誰かの未来を消して、ここまで来た。
それでも、隠して二人に近づくのは、これまでで一番たちが悪い進め方に思えた。
「真白」
久遠先輩が、私の前に来る。
「嫌なのは分かるわ。でも今さらでしょう。もっといろんな子を誑かしてきたのよ。この一つだけ綺麗にやろうなんて、ずるいわ。……やりなさい」
いつもの、久遠先輩の声だった。
その通りだ。今更泣き言を言っている場合ではない。
「……二人に、バレないように頑張ります」
そう言って私は十六室を出た。
あの賑やかな二人に笑いかけながら、隠れて、同じ日に二本の瓶を満たす。
何度やっても、好きになれないやり方だ。
それでも立ち止まれなくて、私は部室棟へ続く道へ向かった。




