電波少女と指切り
部室棟のいちばん奥、廊下の突き当たりに、その部屋はあった。
すりガラスの引き戸には、手書きの「オカルト研究部」の貼り紙。
カーテンが閉め切られた部屋の奥で、ツインテールの女の子がジャンプして、勢いよく顔を上げる。
「ぴこーん。……波長、キャッチしたみゅん」
みゅん、と来た。
現実世界で、語尾に「みゅん」をつける女の子に会ったことはない。いや、現実世界の話をここに持ち込んでも仕方ないか。
「……入っていい、ですか?」
「どうぞみゅん」
許可をもらって、私は部室に入った。
床の端には段ボール箱が積まれている。中身は古いオカルト雑誌で、表紙には怪しい見出しがたくさん。
「あ、えっと……四条さん、だよね」
「四条さんだと、受信感度が下がるみゅん。ののみでいいみゅん」
「じゃあ、ののみ」
「ののみは受信成功みゅん!」
ののみは、満足げに頷き机の上のカードをまとめる。
何が成功したのかは分からないし、その怪しげなカードは一体何?
「あなたのお名前を教えて欲しいみゅん」
「佐倉真白だよ」
「真白ちゃんは、どんな不思議に導かれてここへ来たみゅん?」
イルカイルのプロフィールを思い出す。
四条ののみ。オカルト研究部で、学校の七不思議を追いかけている子だ。
「七不思議に興味があって」
「ぴこーん! いいみゅん。ののみんのアンテナ、真白ちゃんに反応してるみゅん」
アンテナ、と言われて、私はののみの髪留めを見た。
これがアンテナなんだろうか?
本気なのか、冗談なのか。考えている間に、ののみは壁のメモを一枚はがし、私の前に置いた。
「この学園には、七つの不思議があるみゅん」
ののみは、メモの端を指でたどる。
「普通科の三階のトイレ、三番目の個室をノックすると、同じ数だけ返ってくるみゅん。理科準備室の人体模型は、毎朝ちょっとずつポーズが変わってるみゅん。あと、大学棟の学食の自販機で夜に一番端の缶コーヒーのボタンを押すと、呪いの黒い缶が出るみゅん」
「最後のはちょっと試せそうだね」
「試したみゅん。普通のコーヒーだったみゅん」
「現実的だ」
「でも、旧校舎は違うみゅん」
ふざけた語尾はそのままなのに、ののみの手がそこで止まった。
「旧校舎は、閉まってるのに音がするみゅん。夜になると、地下から誰かが呼んでるって噂があるみゅん」
「地下?」
「あるはずない地下みゅん。だから、探す価値があるみゅん」
あるはずない地下。それを聞いて、ピンと来た。
紡先輩が、旧校舎を気にしていたことを思い出す。
「……面白そう。私、入部したい」
「本当みゅん?」
「うん。七不思議、もっと聞きたい」
「ののみん、ひとりぼっちだったから、嬉しいみゅん!」
胸の前で両手を握るののみは、さっきより声が跳ねていた。
喜ばせたぶんだけ、この子は私に近づいてくるようだ。
「入部するには、どうしたらいい?」
「職員室で入部届をもらって、ツッチー先生に提出するみゅん」
「ツッチー?」
「顧問の先生みゅん。明日も部室に来るから、真白ちゃんも明日来てほしいみゅん」
顧問の先生に届を出すだけなら、話は早い。
知らない先生だけど、明日また書類を提出すれば、入部できる。
「わかった。じゃあ、明日来るね」
「ぴこーん。約束、受信したみゅん」
部室を出ようとすると、ののみが小指を立てて差し出してきた。
「真白ちゃん、ゆびきりするみゅん」
「指切り?」
「約束は、声だけだと電波で消えちゃうみゅん。指で結ぶと、消えないみゅん」
断る理由はないので、私は小指を絡めた。
「ゆーびきりげんまん、嘘ついたらアンテナ千本飲ますみゅん。……絶対、明日来てみゅん。絶対みゅん」
「うん。絶対、来る」
私がそう返しても、絡んだ指はすぐには離れなかった。




