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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第六章 二人に、言えない

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今度こそ、二本

「やっぱり、無理」


 ――涼香(すずか)のその一言を最後に、世界は巻き戻った。

 次に目を開けたときには、私は見慣れた自分の部屋のベッドにいた。

 起き上がる気にもなれないまま、しばらく天井の一点を見る。


「お疲れさまイルカ」


 枕元の空間に、青いイルカ型のホログラムがふわりと浮かぶ。イルカイルだ。……そうか、戻ってきたんだ。


「……結果だけ、聞かせて」

「瓶は二本しか溜まらなかったみたイルカね」

「二本」

「でも落ち込んでる暇はないイルカ。涼香は一旦保留にして、今は溜められる瓶から溜めるイルカ」

「保留って」

「事実イルカ」


 こっちの落ち込みには最初から触れる気のない、いつもの業務報告の声だった。

 溜められる瓶から、か。涼香は、補充のきかなくなった棚みたいに、あっさり後回しにされたわけだ。


「ねえ、イルカイル。涼香は最後記憶を――」

「あ〜! いそがしイルカ! もう行かないと〜!」


 そう言いながらイルカイルは、光の粒子になって消えてしまった。

 あの目は、たしかに拒絶だった。涼香が見ていたのは、私を通したその後ろの誰か――優(ゆう)だ。

 消えたはずの記憶が、戻りかけていたんじゃないか。


「お姉ちゃん、朝だよー」


 階下から、出海(いずみ)の声。私はベッドから降りた。


「今行く」


 さっきまで別の夏にいた、なんて顔をしてはいけない。

 階段を降りると、食卓には私の分のトーストが、いつもの少し焦げた焼き加減で置いてあった。


「おはよう、お姉ちゃん」

「おはよう」


 トーストの焦げ方も、出海の声も、前の周とまるで同じ。

 ……同じじゃないのは、この家でたぶん、私だけだ。



***



 放課後、十六室(じゅうろくしつ)の扉を開けると、ソファに久遠(くおん)先輩と紡(つむぎ)先輩、壁際に雪乃(ゆきの)が、今回のループに入って初めて揃っていた。


「おかえり、真白(ましろ)。今回も、よく頑張ったわね」


 立ち上がった久遠先輩が、私の頬に手を添える。

 耳の奥に残っていた涼香の声が、その掌の温かさに遠のいた。


「……ただいま戻りました」


 何があったかを、久遠先輩は聞かなかった。

 壁際で雪乃が露骨に顔をしかめたのと、空中で青い光が弾けたのは、ほとんど同時だった。


「報告するイルカ! 残念ながら涼香は失敗イルカ。二本しか溜まらなかったイルカ」


 十六室が、静かになった。

 久遠先輩が目を伏せ、雪乃が壁を蹴る。

 紡先輩は、表情を変えずにスマホを置いた。


「何があったの?」

「最後に、拒まれました。……途中から、涼香の目が変わって」

「変わった、というのは」

「知らない人間を見る目、でした。私じゃなくて、私の後ろの誰かを探すみたいな」

「……なるほど」

「記憶が、戻ったのかもしれません。涼香の中に、本当の記憶が」

「記憶って、どうやって戻るんだ」


 雪乃が、イルカイルに向き直った。


「イルカ。教えなさい」

「それは、教えられなイルカね。企業秘密イルカ!」

「企業って何だよ」

「それも秘密イルカ!」


 青色の光がひときわ強く瞬いて、イルカイルは空中から消えた。

 逃げた。


「……っ、あのクソイルカ」


 雪乃が舌打ちする横で、紡先輩が口を開いた。


「次に進みましょう。前の会議で名前が挙がっていた候補よ」

「……誰ですか」

「藤代終(ふじしろつい)先生と、四条ののみ(しじょうののみ)」


 終先生と、四条ののみ。

 私より年上の頼りない新米教師と、学年もクラスも違うオカルト研究部の女の子。

 どちらも、今の私には接点がほとんどない。


「教師と生徒は、別々の行動をするわ。昼休みも、放課後の居場所も別」

「情報が漏れる心配がない、ってことですか」

「そう。時間差で会えば、同時攻略の組み合わせとしては現実的ね」


 先生と、生徒。たしかに、居場所は綺麗に分かれている。


「……今度こそ、失敗しないように。二本、同じ日に満たします」


 口に出してしまえば、あとは、やるだけだ。

 涼香のことは、頭の隅に押しやった。


「まず、四条ののみに会ってきます。放課後なら、部室にいるはずだから」

「……また、知らない女のところに行くのか」


 雪乃が、ぼそりと言った。


「うん」


 私が短く返すと、雪乃はそれ以上言わずに、唇を曲げた。


「いってらっしゃい、真白」


 久遠先輩の声が、背中にかかる。

 雪乃は腕を組んだまま、じっと私を見ている。口を出したいのに出せない、いつものあの目だ。

 私はその視線を背中で受けて、十六室を出た。


 窓の外は、もう夕方のオレンジ色に染まっていた。

 これから会いに行くのは、藤代終先生と、四条ののみ。私はまた、帰るために攻略する。

 ……何周繰り返しても、ここから歩き出す足が重い。それでも私は、部室棟へ続く渡り廊下へ出た。

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