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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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たまには、私からも

 昼の家は、静かだった。

 両親と出海(いずみ)は、朝から親戚の集まりに出かけている。

 出海は最後まで「お姉ちゃんも来ればいいのに」と玄関で渋っていたけれど、「テストで疲れたから留守番してる」と言うと、頬を膨らませて車に乗り込んだ。

 夕方まで、誰も帰ってこない。


 インターホンが鳴ったのは、約束の時間ちょうどだった。

 紡(つむぎ)先輩は、時間に正確だ。

 扉を開けると、白いシャツに膝丈のスカートの紡先輩が立っていた。

 そして、頭の横に緑のヘアピンがついているが、髪は相変わらず一房だけ跳ねていた。


「……それ気に入ってくれてるんですね」

「まあ、ね……」

「嬉しいです」


 紡先輩の指が、自分の髪についているヘアピンに触れた。


「ループしたら消えるのに、って言ってましたよね」


 雑貨屋であれを買ったとき、紡先輩は確かにそう言った。

 買った意味がなくなる、と。


「消える前に、使うの。それだけよ」


 私の部屋に通すと、紡先輩はベッドの縁に腰かけた。

 膝の上で両手を組んで、背筋を伸ばしている。

 私は紡先輩の前に立ち、緑のヘアピンに触れた。

 私は紡先輩の顎に手を添え、唇を重ねた。

 啄むように一度。続けて重ねると、紡先輩の息が少し乱れた。


「ん……っ、真白(ましろ)……」


 三度目を交わしているうちに、紡先輩の手が私の背中へ回っていた。

 私は一度だけ、身体を離す。


 紡先輩が上体を起こし、ベッドサイドのバッグへ手を伸ばした。

 小さな箱を取り出して、私へ渡しかける。

 けれど、あと少しのところで、ぴたりと手が止まった。


「……やっぱり、いいわ。今のは、なし」

「え」

「忘れて。しまうから」

「待って待って、何ですかそれ。気になるに決まってるじゃないですか」

「気にならない」

「直前で引っ込められて、気にならない人なんていません」


 紡先輩は箱を胸に抱えて、私から隠すように半身をひねった。


「紡先輩」

「……」

「見せてください。ね?」

「……笑わない?」

「笑いません」

「絶対?」

「絶対」


 たっぷり逡巡してから、紡先輩はやっと、その箱を私の手のひらへ載せた。

 蓋を開ける。

 収まっていたのは、手のひらに乗るくらいの、卵のかたちをした道具だった。

 コードの先に、小さなスイッチがついている。

 何に使うものかは、すぐに分かった。


「紡先輩、これ……わざわざ?」

「べ、別に……っ」


 目を逸らしたまま、紡先輩の声が早口になる。


「あなた、いつも……私にしてくれるばかりでしょう」

「……はい」

「だから、その……たまには、あなたが楽しいほうが、いいと思って。これなら、使いやすいかと」

「…………」

「……っ、だから、笑わないでって言ったでしょう」

「笑ってないです。にやけてるだけで」

「笑ってるじゃない!」


 違う。これは、嬉しいだけだ。

 いつも私がするばかりだったから、紡先輩は、何かを返したかったのだ。

 私があの緑のヘアピンを渡したように、今日は、紡先輩の番。

 出すかどうか、ぎりぎりまで迷って、それでも持ってきてくれた。

 その気持ちが、まっすぐ伝わってくる。


「……ありがとうございます、先輩」

「お礼を言うところじゃ、ないでしょう」


 言い終わらないうちに、紡先輩は唇を結んで顔を背けた。

 その横顔が可愛くて、私は紡先輩をそっとベッドへ倒し、上から覆い被さる。

 そして私は、卵形のそれのスイッチを入れた。

 冷たい、と肩を跳ねさせた紡先輩は、けれどすぐに、声を抑えられなくなった。

 胸から、お腹へ、腿の内側へ。直に触れないまま、いちばん欲しがる場所のすぐ手前で、振動だけを送り続ける。


「んっ……はぁ……っ、意地悪……よ……真白……っ」


 「だめ」と繰り返す声が、だんだん高くなっていく。

 こらえていた息が、ひときわ高く解けた。

 私の肩にしがみつく指へ力がこもる。その強張りがほどけていくまで、やさしく触れ続けた。


「あ……っ……はぁ……っ……」


 揺れが凪いだ頃、私はそれを止めて、そっと引き離した。

 紡先輩を抱きしめ直して、額や頬に、何度も口づける。


「先輩、可愛かったです」

「……うるさい」


 悪態の声が、もう力を持っていない。

 紡先輩は私の胸に顔を埋め、身体を丸めた。

 荒い息が、シャツの布越しに伝わってくる。

 覚えていてくれる人と、こうしている。

 亜里沙(ありさ)のときに胸の底にあった、独りで抱えるしかない心細さが、今はなかった。

 紡先輩の瓶も、これで満ちたはずだ。二本目。

 ベッドの中で、紡先輩は私の方を見ていた。


「真白」

「はい」

「ループしても、私は覚えてる」


 紡先輩は、私から目を逸らさなかった。


「亜里沙も、涼香(すずか)も、明日には今日を忘れる。あなたが何をしたかも、全部。……でも、私は零式会よ。ループしても、記憶は残る」

「……はい」

「だから」


 紡先輩は、私の髪に指を入れて、一度だけ梳いた。


「今日のことも、私が全部覚えていてあげる」


 覚えていてあげる。

 そう言ってくれる人がいる。

 紡先輩は身体を起こし、緑のヘアピンを留め直して、私を見下ろした。


「また明日ね、真白」


 また明日。

 亜里沙にも涼香にも、明日はリセットされる。

 その言葉を、本当の意味で言えるのは、紡先輩だけだった。

 紡先輩の明日は、今日と地続きだ。

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