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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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全部、見せて

 土曜日の朝。

 約束の時間より早く着いてしまったのに、亜里沙(ありさ)邸の門はもう開いていた。

 インターホンを押す前に、玄関の扉が内側から開く。

 出てきたのはお手伝いさんではなく、亜里沙本人だった。


「お待ちしておりましたわ」


 亜里沙が、フリルのついたエプロンを、つけていた。


「さ、こちらへ」


 私の手を取って、亜里沙は屋敷の奥へ歩き出す。

 今日はお手伝いさんはいないようだ。

 通されたのは、いつもの応接間ではなく、ダイニングだった。

 長いテーブルの端に、二人分の皿が並んでいる。

 その上に、卵焼きがのっていた。

 形がいびつだった。端が焦げて、形が崩れている。


「自分で作りましたの。真白(ましろ)、いつもお家で卵焼きを召し上がっているのでしょう。庶民の朝ごはん、というものを、わたくしも一度くらい作れなくては」


 庶民の卵焼きに、亜里沙が一人で挑んだらしい。

 皿の隅には、焦げたウインナーが添えられていた。

 切れ込みがうまく入れられなかったのか、タコの形にはなっていなかった。


「タコさんウインナーは、まだ難しかったですわ」

「亜里沙、頑張ったんだね。私のために、ありがとう」


 亜里沙が、椅子を引いて私を座らせる。

 卵焼きを箸でつまむと、半分が皿に落ちた。

 残りを口に入れる。甘くて、しょっぱくて、火が通りすぎていた。


「……おいしい」

「当然ですわ」


 食事のあと、亜里沙はまた私の手を引いて、二階の自室へ向かった。

 扉が閉まり、鍵のかかる音が部屋に響いた。

 振り向いた亜里沙は、もう何も言わずに、私の指先に自分の指を絡めた。

 引き寄せもせず、ただ繋いだまま、私を見上げてくる。

 私は空いた手を、その頬に添えた。

 唇を重ねると、亜里沙は逆らわずに目を閉じた。

 指を絡めていた手が、いつのまにか私の背中へ回っていた。

 角度を変えると、亜里沙の喉から、声にならない息がこぼれた。

 キスをしたまま、私は亜里沙をベッドへ誘う。

 よろめいた背中へ腕を回し、ゆっくりと横たえた。

 エプロンの結び目をほどき、ボタンを外していくあいだも、亜里沙はずっと私のことを見ていた。


「……真白」


 名前を呼ばれただけで、指が止まりそうになる。

 今夜、この声も、この呼び方も、亜里沙の中から消える。亜里沙が忘れても、私は覚えている。

 だから私は、消える前のものを一つずつ確かめるように、最後の一枚まで脱がせていった。

 カーテンの隙間から差す朝の光が、何も身につけていない肌の上を照らした。

 亜里沙は腕で胸を隠そうとする。


「見ないで……ください……」

「見るよ。亜里沙が、可愛いから」


 私は亜里沙の両膝に手をかけ、ゆっくりと胸のほうへ引き寄せた。

 膝が開いて、お嬢様が、誰にも見せたことのない格好で、朝の光の真下にさらされる。

 亜里沙は両手で顔を覆い、「見ないで」「はしたない」と繰り返した。

 それでも、指の隙間から覗く目は、私がどうしているのかを、確かめずにいられない。

 私はその肌へ、唇を寄せた。

 亜里沙の声が、肌をなぞるたびに掠れて、やがて意味をなさなくなる。

 私が触れるたびに、亜里沙の腰がこらえきれずに跳ねた。


「やぁ……っ、恥ずかしいのに……!」


 逢坂家の娘が、と泣きそうに訴えながら、それでも亜里沙は止まらない。

 気づけば、私の腕の中で、何度も高みへ押し上げられていた。

 こらえようのない波が、引いてはまた、亜里沙を呑み込んでいく。

 それが何度目かも分からなくなった頃、亜里沙の脚から、力が抜けていった。

 私は、開いた脚をそっと下ろし、震える彼女を、胸の中に収めた。


「はぁ……っ……真白……っ……」


 力の抜けた亜里沙が、私の肩に額をうずめてきた。


「真白の、せいですわ……わたくし、こんな……こんな、おかしな身体に、なってしまいましたの……」


 上ずった声で言いながら、亜里沙は私の腕を掴んで放さない。


「おかしくないよ」

「嘘ですわ……! あんな格好で、何度も……はしたない、ですわ……っ」

「恥ずかしかった?」

「……当たり前ですわ。なのに……止められなかったんですもの……」

「亜里沙、可愛かったよ」

「……っ、ずるいですわ、真白は」


 すねた声が、私の心を温かくする。

 私は、その温かさを覚えておこうとした。

 亜里沙が忘れても、私が忘れずにいれば、この朝はなかったことにならない。そう言い聞かせるように、腕に力を込めた。

 亜里沙の息が、少しずつ凪いでいくのが、腕を通して伝わってきた。

 亜里沙の瓶は、これで満タンになったはずだ。一本目。

 ベッドの中で、亜里沙は天井を見ていた。


「次は、夏休みですわね」


 声が、まだ少し掠れている。


「真白は、夏休み、何をなさいますの? わたくし、海にも山にも別荘がございますのよ」

「うん」

「花火、というものを、してみたいんですの」


 花火。

 亜里沙が、屋敷の庭で手持ち花火を持つ姿を、私は想像した。


「庶民は、河原でなさるのでしょう? でしたら、わたくしも河原で」

「うん」

「真白のお誕生日は、いつですの?」


 夏休みも、花火も、私の誕生日も、亜里沙とは過ごせない。

 今夜の二十四時に、全部消える。

 それを知っているのは、私だけだ。



***



 それからしばらく、私たちは何も言わずに、ベッドの中で寄り添っていた。

 昼が近づく頃、私はそっと亜里沙の腕をほどいて、身体を起こした。


「もう、行きますの?」

「うん。昼から、家の用事があって」


 嘘だった。

 昼は紡(つむぎ)先輩のところへ行く。

 亜里沙は「家の用事」と聞いて、それ以上は訊かなかった。


 玄関まで、亜里沙が送ってきた。

 扉を開けると、外の光が差し込んだ。


「真白、次のお約束、ちゃんと考えておいてくださいまし」


 亜里沙が、一度言葉を切る。


「……約束ですわよ」

「うん」


 門を出て、私は振り返らなかった。

 背中で、扉が閉まる音がした。

 約束、という言葉が、今日はいちばん痛い。

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