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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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土曜の夜で、終わる

 期末テスト期間に入り、学園は静かになった。

 零式会の活動も休止。放課後は自室へ直行し、教科書とノートを広げる日が続いた。

 けれど、勉強の合間にスマホを開く手は止められなかった。

 亜里沙(ありさ)とのトーク画面を開く。


『期末が終わったら、お会いできますわよね?』


 最後のメッセージから三分も経っていない。

 私は返信を打った。


『土曜日の朝からなら』


 送信ボタンを押した直後、画面に「既読」がつく。

 一秒。二秒。

 返信が届いた。


『朝から!? ……ふふ、分かりましたわ。腕によりをかけてお迎えいたします♡』


 絵文字。

 あの、「得体の知れない生物の画像は何の意図が?」と戸惑っていた亜里沙が、ハートの絵文字を使っている。

 私は画面を見つめたまま、トーク画面を閉じた。

 続けて、紡(つむぎ)先輩とのトーク画面を開く。


『土曜の昼、空けておいたわ』


 短い。

 紡先輩らしかった。


『場所はあとで連絡します』

『了解』


 1時間経ってから、涼香(すずか)からの返信が来た。

 昼に送ったメッセージに、既読がついたのは夜の九時。

 返信が届いたのは、さらにそこから一時間後だった。


『期末終わったら、会いたい』


 私が送った文面の下に、涼香の返事が一通だけ並んでいた。


『うち、来る? 土曜の夜。親、いないから』


 一度読み返して、もう一度読み返してしまった。

 泊まりにおいで、という意味だと気づくまでに、数秒かかった。

 私はスマホを握ったまま、天井を見上げた。


『行く。また連絡する』


 送信すると、既読はすぐについた。

 返信がないのが、涼香らしかった。



***



 期末テスト最終日。

 最後の答案が回収された瞬間、教室のあちこちで歓声が上がった。

 ペンケースを鞄に放り込み、私は席を立った。

 解放感の中を逆流するように廊下を歩き、十六室(じゅうろくしつ)の扉を開ける。


 ソファーには雪乃(ゆきの)と久遠(くおん)先輩が座っていた。

 紡先輩は窓際の椅子に腰掛け、机の上のノートパソコンを見ている。

 私が座ると同時に、空気がぐにゃりと歪む。

 イルカイルが天井から降りてきた。


「最終確認イルカ~!」


 尾びれを振ると、三本のガラス瓶が宙に浮かんだ。

 亜里沙の瓶、紡先輩の瓶、涼香の瓶。

 それぞれの中で、ピンクの光が揺れている。


「まず亜里沙イルカ。あと一回、えっちすれば満タンイルカ」


 亜里沙の瓶は、ほぼ上まで光が満ちていた。


「次、紡イルカ。こっちもあと一回イルカね」


 紡先輩の瓶も、縁の手前まで光が届いている。


「最後、涼香イルカ。こっちも満タン目前イルカ。えっちをすれば溢れるイルカね」


 涼香の瓶が一番高い位置まで満ちていた。

 三本並べると、ほぼ同じ高さだ。

 イルカイルが三本の瓶をくるりと回し、私の前に並べた。


「大事なルールの確認イルカ。三本とも同じ日のうちに満タンにするイルカ。一本でも欠けたら、その瓶はリセットイルカよ」


 一本でも欠けたら、リセット。

 つまり、土曜日に三人全員と会い、身体を重ねなければならない。


「それと、満タンになった日の二十四時にループイルカ。つまり土曜日の夜が、このループの最後の夜イルカね」


 土曜の夜で、このループが終わる。

 私がここで過ごした日々が、涼香の記憶から消え、亜里沙の記憶から消え、五月(さつき)や唯花(ゆいか)や出海(いずみ)の記憶から消える。

 部屋の中が、一瞬だけ静まった。


「質問はあるイルカ?」

「……ない」

「じゃあ、がんばイルカ!」


 イルカイルが瓶を消して、天井へ泳いでいった。

 やることは、もう決まっている。

 同じ日のうちに、三本の瓶を満たす。

 朝に亜里沙、昼に紡先輩、夜に涼香。一日で、三人。

 口にすれば、ぞっとするほど身勝手な段取りだ。

 でも、これが帰るための最短の道だった。

 久遠先輩が、私を見た。


「せいぜい、上手くやることね」


 いつもの余裕ぶった声。けれど、私から視線を外すのが、いつもより遅かった。

 本当は、私が他の子を抱きに行くのを、見送りたくなんてないのだ。

 雪乃が立ち上がって、私の前に来た。

 何も言わずに、私の制服の裾を握りしめる。少し、痛いくらいに。


「……さっさと終わらせて、帰ってこい」

「うん」


 それだけ言って、雪乃は手を離した。

 紡先輩は窓際の壁に寄りかかって、夕焼けの中で跳ねた髪をオレンジに染めている。


「真白(ましろ)」

「はい」

「土曜日、待ってるわ」


 窓の外を見たまま、紡先輩は言った。

 私は鞄を持って、十六室を出た。


 廊下に立ち止まって、涼香とのトーク画面を開く。

 『じゃあ土曜日、待ってる』。その一文を、何度も読み返した。

 朝に別の子を抱いて、昼にまた別の子を抱いた私が、その夜、涼香の家のベッドに入ることを、彼女は知らない。

 日付が変われば、ループする。涼香の中から、この夏がまるごと消える。涼香が忘れても、私は忘れない。

 私はスマホを消して、再び歩き出した。

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