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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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勝負下着、だったの?

 土曜日。インターホンが鳴り、玄関を開けると、紡(つむぎ)先輩が立っていた。

 いつもの白いシャツではなく、淡いクリーム色の薄手のニットにフレアスカート。前に一緒に買った緑のヘアピンが、髪の横に留まっている。

 跳ねた髪はそのままだったが、それ以外は明らかに気合が入っていた。


「お待たせ」

「いえ、全然。……あの、紡先輩」

「何」

「可愛いです」


 私は手を伸ばし、紡先輩の頭を撫でた。

 跳ねた髪がぴょこぴょこ揺れる。


「なっ……いきなり何するの」

「可愛いなと思って、つい」


 もう一度撫でる。

 紡先輩は私の手を払おうとして、途中でやめた。


「……もう一回だけ、いいわよ」

「はい」


 もう一回撫でると、紡先輩は前髪を直すふりをして、目を逸らした。

 私は靴箱から室内用のスリッパを出し、紡先輩を部屋へ案内した。

 ローテーブルの前に座ると、紡先輩は室内をさっと見渡してから、私の隣へ腰を下ろした。

 隣。向かい側ではなく、私のすぐ横だ。

 肩と肩が触れる距離に、紡先輩が自分から座った。

 そして、こちらに顔を向ける。

 唇を閉じたまま、目を閉じている。

 どう見ても、キス待ちの顔だった。


「あの、紡先輩」

「……何」

「今来たばっかりですよね?」

「でも、目的は私の身体でしょう」


 ストレートに言い切られ、私は頭を抱えた。


「それはそうなんですけど、言い方!」

「事実を述べただけよ」

「もうちょっとオブラートに包んでくださいよ」

「じゃあ早く済ませましょう。ほら来なさい真白(ましろ)」


 紡先輩がまた拳をシュッシュッと突き出した。謎のボクシングの構えが再登場している。


「そんな雑に紡先輩のこと扱いたくないです」

「でも……」


 紡先輩が何か言いかけた。

 私はその言葉を遮るように、紡先輩を抱きしめた。


「とりあえず、お菓子でも食べましょう」

「……お菓子?」

「ケーキ買ってきてるんですよ」


 私は紡先輩から離れ、キッチンへ向かった。

 冷蔵庫を開け、箱を取り出す。

 中にはショートケーキが二つ入っていた。

 皿に乗せてフォークを添え、自室に戻り、ローテーブルに並べる。


「紡先輩、どっちがいいですか?」

「……苺が大きい方」

「即答」

「当然でしょう。選択肢があるなら最適解を選ぶわ」


 紡先輩はフォークを持ち、ケーキの端を刺した。

 口に運ぶ前に、一度私の方を見る。


「真白は?」

「先に食べてください」

「……じゃあ」


 紡先輩がケーキを口に入れた。

 美味しい、とは言わないが、食べる速度が上がった。

 私は自分のフォークでケーキを切り、紡先輩の口元へ差し出した。


「はい、あーん」

「は!? な、何するの」

「あーんです」

「そ、そういうのは子供に」

「紡先輩にしたいんです」


 紡先輩はフォークを見て、私を見て、もう一度フォークを見た。

 それから、恐る恐る口を開ける。


「……あーん」


 紡先輩がケーキを受け取った。

 私はフォークを引き、次の一切れを準備する。

 紡先輩は咀嚼を終えると、今度は自分のフォークでケーキを切った。

 ためらいながら、私の口元へ差し出す。


「こ、こうするのが正しいのよね?」

「はい」


 私は口を開け、紡先輩のフォークからケーキを受け取った。

 紡先輩は私の顔を見て、フォークを持つ手をぎこちなく引っ込めた。

 私は笑いながら、もう一度紡先輩の口元へフォークを運ぶ。

 三回目は紡先輩も笑い始め、四回目になると慣れた顔で口を開けてくれた。

 ——――慣れてきたな。私自身が、こういう行為に。

 亜里沙(ありさ)にも涼香(すずか)にも、同じことを自然にできてしまう自分がいる。

 フォークを置き、麦茶を一口飲んだ。


「真白。ケーキ、美味しかったわ」

「よかったです」

「……ありがとう」

「どういたしまして」


 紡先輩が顔を逸らした。

 お礼を言うのが照れくさかったらしい。

 紡先輩は麦茶を飲み干してから、鞄の中を探った。


「そうだ、旧校舎(きゅうこうしゃ)の件なんだけど」

「え、今ですか?」

「分かったことがあるの。見て」


 紡先輩はスマホを取り出し、画面に旧校舎の見取り図を表示させた。

 私に見せるために、隣へ身体を寄せる。

 肩と肩が触れた。

 画面を覗き込もうとして、紡先輩の指がスマホの上で止まる。

 私は紡先輩のスマホを持つ手に、自分の手を重ねた。


「真白……?」

「旧校舎の話、あとで聞きますね」


 私はそのまま、紡先輩の顎に手を添え、顔を向けさせた。

 唇を重ねる。

 ほんの一瞬、触れるだけで離した。

 その拍子に、紡先輩のスマホが手からカーペットの上に滑り落ちた。

 紡先輩は拾おうとしなかった。

 代わりに、私の手首を引き寄せた。


「……続けて」


 応えるように重ねたキスは、なかなか終わらなかった。

 紡先輩の唇が開き、私の舌を受け入れる。

 舌先が触れるたびに、紡先輩の肩が震えた。

 以前のように固まることはなく、紡先輩は自分から私の首に手を回してきた。

 唇を離すと、紡先輩は息を整えながら私の目を見た。


「ベッド、行きましょうか」

「……うん」


 私は紡先輩の手を取り、ベッドへ移動した。

 シーツの上に座り、紡先輩がその横に並ぶ。

 私はもう一度キスをした。

 紡先輩の返し方が、前より柔らかくなっている。

 何度もキスを重ねながら、紡先輩をゆっくりとシーツの上に倒す。

 紡先輩の髪がシーツに広がった。

 私はニットの裾に指をかける。


「脱がせますね」

「……うん」


 ニットを持ち上げると、紡先輩は両腕を上げて従った。

 ニットの下には、薄いキャミソールが一枚。

 キャミソールの肩紐を滑らせ、さらにその下を露わにした瞬間、私は手を止めた。


 黒いレースの下着だった。

 普段の紡先輩の雰囲気とは明らかに違う。繊細なレースがついていて、胸元に小さなリボンがある。


「紡先輩、これ」

「な、何」

「下着、いつもと違いません?」

「っ……!」


 紡先輩が両腕で胸元を隠した。

 顔が耳まで真っ赤に染まる。


「こ、これはえっと、その」

「はい」

「気合を入れたのよ!」


 紡先輩は顔を背けたまま叫んだ。

 隠している腕の隙間から、レースの端が見えている。


「だ、だってこの前は普通のやつだったでしょ! それで、真白に見られて、なんかこう、ちゃんとしなきゃって」

「ちゃんとって」

「う、うるさい! 真白のせいよ!」


 私は紡先輩の隠した腕を、そっと引き剥がした。

 抵抗されるかと身構えたが、紡先輩はされるがまま腕を降ろした。

 紡先輩はまだ顔を背けたまま、私の反応を待っていた。


「紡先輩」

「何よ」

「すごく、可愛いです」


 私はキスをした。

 紡先輩の唇が私を迎え入れ、舌が絡む。

 私はキスを重ねながら、紡先輩の身体をシーツの上にゆっくりと押し、覆い被さった。


「ん……っ、真白……」


 紡先輩の唇がまだ私を求めている。

 一度離して、彼女の顔を見下ろした。

 黒いレースの大人っぽい下着、普段の紡先輩からは想像できない色気。

 百回のループを生きてきた人が、私とこういうことをするためだけに、お店で迷って、レジで赤くなって、これを選んだ。

 その時間を想像したら、気合を入れて買ってきた勝負下着が、たまらなく愛おしかった。


「先輩、こんなに可愛い下着をつけてきてくれたんですね……」


 耳元へ唇を寄せ、吐息混じりに囁く。


「私を誘ってるんですか?」

「っ……! 誘ってなんか……!」

「じゃあ、見てもいいですか?」


 紡先輩は顔を背けた。

 それでも、腕で隠す動きはしなかった。

 怖がっていた人が、怖いまま、それでも隠さないでいてくれる。

 その意味を、私はもう知っている。


 私はフレアスカートのウエストに手をかけ、ゆっくりと下ろした。

 スカートが膝を越え、腿を滑り落ち、床に落ちた。

 ブラと揃った黒いレースのショーツが露わになった。

 太ももの付け根に食い込む細い紐と、透けるような布地。


「……見ないで」

「すごく、似合ってます」


 見ないで、と言うために、この下着を選んだわけじゃないはずだ。

 私は胸元を包み込むように触れた。

 レース越しに柔らかな形が掌に伝わる。

 紡先輩の肩がびくりと跳ねた。


「あっ……っ」


 布の上から、私はゆっくりと触れていく。

 焦らすように、触れては離してを繰り返すたび、紡先輩の声が高くなる。


「こんな……じろじろ見ないで……」

「先輩、可愛い。似合いすぎて困ります」

「そんなこと、ないっ……」


 口では否定しながら、膝が内側に寄っていく。

 前のホテルの夜とは違う。今日の紡先輩は、最初から私を待っていた。

 あんなに怖がっていた人が、私のためにここまでしてくれた。

 なら私は、その勇気の分だけ、優しくしたい。

 紡先輩は恥ずかしがって顔を隠そうとするけれど、私の手からは逃げなかった。

 強がっていた声が、少しずつ、ただの息に変わっていく。


「はぁ……っ、あ……っ、もう……っ」

「いいですよ、先輩」


 次の瞬間、紡先輩が、私にぎゅっとしがみついた。

 息を詰めていた身体から、力が一気に抜けていく。

 長く震えてから、紡先輩は私の肩に顔を埋めた。

 乱れてしまった黒いレースの下着を見て、私は小さく笑う。


「これ履いて帰れませんね……」

「……どうしよう……」


 紡先輩の声が弱々しく消え、私の胸に寄りかかった。

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