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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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こんな所で、だめ……

 商業科棟の教室は、昼休みの喧騒に包まれていた。

 私は廊下の窓から、二年の教室を覗き込む。

 生徒たちがグループを作って弁当を広げたり、スマートフォンを見せ合って笑ったりしている中、亜里沙(ありさ)は教室の一番端の席に座っていた。

 机の上には分厚い本が置かれている。

 周りの生徒は亜里沙の存在を意識しつつも、誰も話しかける者はいない。亜里沙もまた、顔を上げずにページをめくり続けている。

 逢坂家の令嬢。その肩書きが、彼女と周囲の間に見えない壁を作っている。

 私と初めて出かけた時、あんなに嬉しそうにしていたのは、亜里沙には本当に友達がいなかったからなのかもしれない。

 私は、入り口のすぐ近くの席にいた女子生徒に声をかけた。


「ごめん、逢坂さんを呼んでくれないかな」

「えっ? あ、うん」


 女子生徒が亜里沙の席へ行き、私のいる廊下を指差す。

 亜里沙が顔を上げた。

 私と目が合う。

 その瞬間、亜里沙は本を閉じ、席を立った。

 廊下へ出てくるかと待っていたが、彼女は反対側の後部ドアから教室を飛び出した。


「亜里沙!」


 私は急いで廊下を駆け出した。

 商業科棟の階段を上る亜里沙の背中が見える。

 彼女は振り返らず、さらに上の階へと逃げていく。

 階段を三階、四階と上り、ついに屋上へ通じる扉に行き当たった。

 亜里沙が扉を押し開け、外へ出る。

 私もその後を追い、屋上へ足を踏み入れた。

 高いフェンスに囲まれた屋上には、他に誰もいなかった。

 亜里沙はフェンスの前に立ち尽くし、肩を上下させて息を切らしている。


「亜里沙、待って」


 私が歩み寄ると、亜里沙はフェンスに背を向けた。

 その時、昼休みの終わりを告げる予鈴のチャイムが校舎に鳴り響いた。

 チャイムの音が消えても、私たちはその場から動こうとしなかった。


「……どうして、追いかけてくるんですの」

「亜里沙が逃げるから」

「逃げたのは、真白(ましろ)の顔を見たくなかったからですわ」

「怒ってるよね。ごめん」


 私が謝ると、亜里沙は首を横に振った。

 うつむいた彼女の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……わたくしは、お友達ができてすごく嬉しかったんです」

「……うん」

「みんな、わたくしが逢坂の娘だと聞くと、遠巻きにして伺いを立ててきます。誰も、普通に話しかけてくれませんでしたわ」


 亜里沙の声が震える。

 彼女は手の甲で涙を拭ったが、次から次へと涙が溢れていた。


「でも、真白は普通に接してくれました。わたくしのことを友達って言ってくれて、一緒にお弁当を食べて、手をつないでくれて……本当に、嬉しかった」

「……」

「でも、真白と仲が深まるたびに、わたくしは分からなくなっていきましたわ」


 亜里沙が顔を上げ、私を真っ直ぐに見つめる。

 その潤んだ瞳には、抑えきれない感情が渦巻いていた。


「お友達以上のことを、求めてしまうんです」

「……」

「真白にはそんなつもりがないかもしれないのに。わたくしだけが、もっと触れたい、もっと特別になりたいって……強欲になっていく自分が、嫌でたまりませんわっ」


 言葉の最後は嗚咽に飲まれ、亜里沙は両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。

 亜里沙の手が下り、泣き腫らした顔が見えた。


「真白……?」


 ――――可愛い。抱きしめたい。

 攻略のために、恋人になる。

 そう、分かっていて、私は亜里沙に手を伸ばした。


「抱きしめてもいい?」


 亜里沙は返事をしなかったが、私から顔を背けなかった。

 亜里沙と恋人になれば、四股になる。恋人とは呼んでいない関係もある。

 それを分かっていながら、私は亜里沙の前にしゃがみ、抱きしめた。


「わたくしばかりが、こんな……」

「亜里沙ばかりじゃないよ」

「……何がですの」

「私も、亜里沙に触れたい。友達だからじゃなくて、私がそうしたい」


 亜里沙の指が、私の制服をつかんだ。


「では、真白は、わたくしとどういう関係になりたいんですの?」

「亜里沙に、私の恋人になってほしい」


 この時間だけは、亜里沙を一番特別にしたい。


「本当ですの……?」

「うん」

「……では」


 亜里沙は言いかけて、視線を私の口元へ向けた。

 そこから先を自分で言うのは、まだできないらしい。


「キスしてもいい?」

「わたくしも、そうしたい、ですわ……」


 私は亜里沙の頬に手を添えた。

 涙はまだ残っている。

 親指で拭うと、亜里沙がほんの少し顔を傾けた。

 軽く唇を重ねて、すぐにほどいた。

 亜里沙は目を閉じたまま、私の袖を引いた。


「もう一度」

「うん」


 二度目は、離れる間際を惜しむように長く重ねた。

 亜里沙の呼吸が近くなる。

 私が離れようとすると、亜里沙が追ってきた。

 私の方から抱き寄せる前に、亜里沙の腕が背中へ回る。


「真白」

「何?」

「わたくしは、友達にしてもらって嬉しかったですわ」

「うん」

「でも、これからはそれだけでは足りません。ちゃんと恋人として扱って欲しいですわ」


 私は返事の代わりに、もう一度キスをした。

 角度を変えて、何度も唇を重ねる。

 亜里沙が自分から唇を開いたのを確かめてから、私は舌を滑り込ませた。


「んっ……ぁ……」


 亜里沙の腕が、私の背中に回る。

 私の舌が亜里沙の舌に絡みつくと、彼女は甘い吐息を漏らしながら私にしがみついてきた。

 涙のしょっぱい味が、唇の間で甘く溶けていく。

 私は亜里沙の身体を抱き寄せたまま、フェンスの方へと押し歩く。

 フェンスの下から、笛の音が鳴った。

 続いて、複数の足音と、誰かの叫び声が校庭の方から上がってくる。


「んむっ……はぁっ」


 キスを離した瞬間、亜里沙は慌てて校舎の方と、扉の方を見た。

 屋上には誰もいない。


「真白……これ以上は……授業に行かないと……」

「体育の授業、下でやってるね」

「だからこそ、まずいではありませんの……! 先生に見つかったら……!」


 グラウンドの方から、また笛が鳴る。

 ボールが何かに当たる鈍い音が響き、亜里沙の肩が跳ねた。


「誰も屋上には来ないよ」

「来なくても……空の下で、こんな……恋人になったばかりなのに……」


 亜里沙は私から顔を背け、フェンスへ両手をついた。私はその背中を抱きしめた。

 ——いけないと思う。でも、止まれなかった。

 恋人になったばかりの亜里沙が、どんな顔をするのか、もっと見たかった。


「待ってくださいまし……こんな格好、恥ずかしすぎますわ……! 下の生徒に……見えたら……!」

「じゃあ、今我慢できる?」

「……うぅ」


 亜里沙はそう言って、フェンスから離れなかった。

 私は首筋へ唇を寄せ、耳たぶを軽くなぞった。


「ひゃんっ……!」


 掠れた声が屋上に広がる。

 校庭から「よし!」という掛け声が上がり、彼女は唇を結んだ。

 声を我慢しようとする横顔が、たまらなく愛おしかった。

 私は唇を首筋から鎖骨へ這わせながら、胸元に回した手でブラウスの上から形を確かめる。


「あっ……んっ、はぁ……っ」


 布越しでも熱が掌に伝わる。

 風が吹くたび、制服の襟が揺れた。


「真白……恥ずかしいですわ……!」

「恋人同士だから、恥ずかしくないよ」


 私はブラウスの隙間へ指を入れ、素肌に触れた。

 冷たい風と、火照った肌の温度差を感じる。


「んっ……ああっ……!」


 ゆっくり撫でると、亜里沙の身体がフェンスへ押しつけられる。

 私は手を下へ滑らせ、スカートの裾を捲り上げた。

 午後の日差しに晒された腿が露わになる。


「見られますわ……! 体育の子が上を見たら……!」

「見られても、亜里沙は我慢できないでしょ」


 意地悪を言いながら、自分でも止められないと気づいていた。

 亜里沙が乱れるほど、私の中の何かも溶けていく。

 亜里沙は膝を擦り合わせようとして、私の膝に阻まれた。

 私はスカートの中へ手を入れ、太ももの付け根を押さえる。


「ひゃっ……! そこは……だめですわ……!」


 外の風に晒されているのに、亜里沙の体はどんどん熱くなっていく。

 校庭からは、笛の音や、誰かを呼ぶ声が、途切れずに届いていた。

 誰かが見上げれば、すぐに気づかれてしまう。


「だめ……こんなところで……っ、見られて、しまいますわ……っ」

「大丈夫。誰も気づかないよ」


 囁きながら、私は手を止めなかった。

 亜里沙の声は、もう抗議の形を保てなくなっている。

 風と一緒に漏れる息が、少しずつ高く、短くなっていく。

 校庭で、ひときわ大きな歓声が上がった。

 その歓声に紛れて、亜里沙の体から力が弾けた。


「あっ……! また……止まりません、わ……っ!」


 こらえていたものが、抑えられないまま、何度も零れていく。

 一度ではおさまらない。亜里沙はそのまま、私の腕の中へ崩れ落ちた。


「はぁ……っ……はぁ……っ……」


 亜里沙は私の腕の中で震え続けた。

 風が腿を冷やし、汗と一緒に吹き抜けていく。

 亜里沙は足元を見たまま、スカートの裾を握った。


「……ま、真白……また……やってしまいましたわ……」

「そうだね」

「どうしましょう……」


 亜里沙の声が上ずり、涙がこぼれた。

 恋人になったのに、また泣かせてしまった。


「うぅ……私はハンカチで身体を拭きますわ」

「授業が終わる前になんとかしよう。私が拭いてあげる。ハンカチ貸して」

「そんなことより……わたくし……また、こんな子に……!」


 亜里沙は顔を覆った。

 私は後ろから抱きしめたまま、彼女の頬に唇を当てる。


「亜里沙は、亜里沙のままでいいんだよ」

「……ずるいですわ」

「うん」

「そう言われたら……怒れませんの……」


 亜里沙は膝を震わせたまま、私の胸に背中を預けた。

 荒い息が風に散り、屋上には甘い匂いが残った。

 校庭から、また笛が鳴った。

 腕の中で、亜里沙の体がゆっくりと力を失っていく。


「……真白」

「うん」

「次に……こんなことするなら……部屋にしてくださいまし……」

「約束する」


 そう言って指を絡めると、亜里沙の指先は熱かった。

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