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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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友達としか、思ってない

 日曜日、私の部屋のローテーブルにノートや教科書が広げられていた。

 テスト勉強という名目で集まった亜里沙(ありさ)と私は、真面目に机に向かっていた。

 二人のノートへ書き込む音が続く。

 窓の外がオレンジ色に染まり、部屋の中も少しずつ薄暗くなってきた。

 時計の針が、午後六時を回ろうとするのを見たあと、私はシャーペンを置き大きく伸びをした。


「そろそろ、解散する?」

「……ええ、そうですわね。キリもいいですし」


 亜里沙は教科書を閉じるのが遅かった。


「キリ悪かった? もうちょっとやってもいいけど」

「いえ。今日やらなければいけない課題は、終わっていますわ」


 そのまま鞄へ入れるのかと見ていると亜里沙は、ペンケースをローテーブルに置いた。

 教科書も、ノートも、テーブルの上から片付けようとしない。

 亜里沙は立ち上がり、私の隣に座った。


「亜里沙?」

「……」


 亜里沙の視線が私の唇へといく。

 何か言いたそうに唇が開いて、すぐに閉じる。


「どうしたの、亜里沙?」

「…………」


 亜里沙が、何を求めているのかは分かっていた。

 私は、亜里沙の肩に手を乗せた。

 そして、頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。

 亜里沙の吐息が熱くなり、私の襟元を握る手に力がこもる。

 私は亜里沙の背中に腕を回し、そのまま床のカーペットへと押し倒した。

 亜里沙の髪が広がり、潤んだ瞳が私を見上げる。


 ――――あと、二回…… 


 頭の片隅で、冷静な計算が走った。

 ラブエナジーの瓶が満タンになるまで、あと二回。

 亜里沙は私の袖を掴んだまま、目を閉じている。

 今日ここで一回済ませておけば、残りは一回になる。

 明日からはテスト前という理由をつけて少し距離を置き、テストが終わった後に最後の仕上げをすればいい。

 完璧な計画だ。

 私がさらに顔を近づけようとした時だった。


「……っ」


 亜里沙の手が、私の胸を押し返した。

 強い力ではなかったが、明確な拒絶だった。

 私が動きを止めると、亜里沙は顔を背けた。

 彼女の目から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……真白(ましろ)は、わたくしのこと、お友達としか思っていませんのね」

「えっ……?」

「こうやって触れてくれるのも、お友達だから……ですわよね」


 亜里沙の声が震えていた。

 私は押し倒した姿勢のまま、固まった。


「連絡する時も、いつもわたくしから。キスも、わたくしからばかり……っ」

「そ、んなこと……」

「真白は、わたくしのことなんて……どうでもいいんですのね!」


 亜里沙が私の体を強く押し退け、立ち上がった。

 鞄を掴み、そのまま早足で部屋のドアへと向かう。


「待って、亜里沙!」


 私が手を伸ばすよりも早く、ドアが開き、そしてバタンと乱暴に閉められた。

 部屋に取り残された私は、そのまま動けなかった。

 静かになった部屋に、時計の秒針の音だけが響く。


「私、最低だ……」


 自分の都合で動いてしまった。

 カーペットに倒れ込み、私は天井を仰いだ。

 スマホを取って、亜里沙とのトーク画面を開く。

 私は入力欄に文字を打った。


『ごめん。さっきの、ちゃんと話したい』


 送信ボタンの上で親指が止まる。

 ちゃんと。

 何をちゃんと話すつもりなのか、私にも分からなかった。

 文章を消して、もう一度打ち直す。


『亜里沙、大丈夫?』


 これも違う。

 こうなったのは、私のせいだ。

 結局、送れたのは短い一文だけだった。


『今日はごめん。明日、少し話せないかな』


 送信済みの文字の下に、既読はつかなかった。

 夕飯に呼ばれても、風呂に入っても、ベッドに入ってからも、私は何度も画面を開いた。

 次の朝になっても、亜里沙から返事は来なかった。



 ***



 翌日、放課後の十六室(じゅうろくしつ)。

 長机の中央で、イルカイルがラブエナジーの瓶を表示していた。

 紡(つむぎ)先輩の瓶は、五分の三ほど溜まっている。


「見て。私の瓶はここまで進んでいるわよ!」

「そうイルカ。でも、これだとあと二回はえっちしないとだめイルカよ?」

「わ、分かっているわ……」


 紡先輩はそう言いながら、瓶の表示から目を逸らした。

 でも、緩んだ口元は隠しきれていない。


「……五分の三、か」


 雪乃(ゆきの)が、低く呟いた。


「この間まで空っぽだったやつが、ずいぶん溜めたじゃないか」

「だ、段階を踏んだ成果よ。ちゃんと計画的に進めたの」

「あら。真白、ずいぶん黒羽紡(くろはつむぎ)に優しくしたみたいね」


 久遠(くおん)先輩は微笑んだまま、ペンを持つ指にいつもより力を込めていた。

 その冷たい視線に、私は思わず背筋を伸ばす。

 やがて久遠先輩はため息をつき、私の方を向いて切り出した。


「じゃあ、今週は黒羽さんを中心に――」


 黒羽さんを中心に。

 そうしたいところだが、私は報告しなければいけないことがあった。


「あの……」


 私は久遠先輩の言葉を遮るように、手を挙げた。

 雪乃と久遠先輩がこちらを見る。


「亜里沙と、喧嘩しちゃいました」

「は?」

「どういうことかしら」


 雪乃が眉をひそめ、久遠先輩が目を細める。

 私は昨日あった出来事を、包み隠さず話した。

 テスト勉強のこと、キスのこと、そして突き飛ばされたこと。


「確かに、最初に友達として近づけばいいと言ったのは私だわ」


 久遠先輩は、そこでいったん言葉を切った。


「でも、キスをして、何度も二人で会って、それでも恋人になっていないとは思わなかった」

「だって、涼香と付き合ってるのに、亜里沙とも付き合ったら二股になるじゃないですか」

「二股で済むと思ってるのか?」

「え?」


 え。二股じゃ足りないの?


「涼香と亜里沙で二股なら、私と九条院は何なんだよ」

「それは……」

「聞かせてもらおうかしら」

「久遠先輩もそっちに回るんですか!?」

「そっちも何も、当事者だわ」


 私は紡先輩へ助けを求めた。


「確かに、私とは付き合っていないわ」

「ですよね、紡先輩」

「でも、え、えっちはした」

「紡先輩!」


 三人に見られて、私は口を閉じた。


「今さらよ。早く決着をつけてきなさい」


 久遠先輩は、私の鞄を指した。


「……はい」

「さっさと行ってこい」


 私は鞄を持ち、十六室を出た。

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