先輩の、はじめて
中は無人のロビーだった。
壁一面に部屋の写真が並び、下にボタンがついている。
紡先輩は写真を一枚ずつ見て、首を傾げた。
「部屋を選ぶ方式なのね」
「はい」
「この部屋、ベッドが丸いわ。なぜかしら?」
「回るんじゃないですかね」
「それって意味あるのかしら?」
そう言いながら、紡先輩は一番高い部屋を選んだ。
エレベーターに乗り、部屋番号が点灯している部屋に入る。
「へえ、中はこうなっているのね」
「紡先輩、普通に楽しんでます?」
「初めて入る施設だから」
部屋の扉を開けると、幅のあるベッドと、ガラス張りの浴室が目に入った。
紡先輩は興味しんしんで、部屋の中を見回した。
「ベッドの面積が広いわ」
「寝るところですから」
「シャワーがガラス張りよ。なぜかしら?」
「説明しにくいですね……」
紡先輩が壁際の自販機を指差した。
ケースの中にピンク色のモーターで動く小さな機械が入っている。
「真白、あれは何の機械──」
「とりあえず、シャワー浴びましょうか!」
「……そうね」
説明は、永遠にしないでおこうと思う。
シャワーは別々に浴びた。
最初に私が入り、次に紡先輩が入る。ガラス越しに見えないよう、私はずっと窓側を向いていた。
水音が止まって、浴室の扉が開く。
紡先輩は白いバスローブを着て出てきた。
「サイズが合っていないわ」
「それは、まあ……」
「うるさい!」
「まだ何も言ってません」
二人でベッドの端に座る。
空調の音と、浴室に残っている水音だけが聞こえた。
「真白」
「はい」
「私、頑張るから」
紡先輩は私に近づいて、私の手に触れた。
「来て、真白」
私は紡先輩の前に座り直し、頬に触れ、唇を重ねた。
離れると、紡先輩は私を見たまま、返事の代わりにもう一度目を閉じた。
それを合図に、今度はゆっくり。
紡先輩の手が、私のバスローブの袖に添えられた。
紡先輩の唇がわずかに開く。そこへ舌先を入れると、紡先輩の肩が跳ねた。
今度は紡先輩の方から口を開いた。
紡先輩の呼吸が乱れていくのが、唇の隙間から伝わってくる。
「ん……っ」
紡先輩が声を漏らした。
私はその声を聞いて、背中に手を回した。
私は紡先輩の額に口づけて、頬、唇へと戻った。
バスローブへ、手をかける。
「脱がせてもいいですか」
「……うん」
結び目をほどく。
布が開くと、シャワーのあとで温まった肌が見えた。
紡先輩は両腕で隠そうとして、途中でやめる。
「触れても、いいですか」
「……ええ」
私は紡先輩の肌に手を滑らせた。
紡先輩は自分から私の首に腕を回した。
私はもう一度深くキスをして、紡先輩の身体を抱きしめた。
細い肋骨のラインをなぞるようにして、ゆっくりと、確かめるように手のひらを滑らせていく。
熱を孕んだ肌は驚くほど柔らかく、指先が触れるたびに、紡先輩の身体がびくっと小さく震えた。
「あっ……ん……っ」
紡先輩が、短い息を漏らして私の肩にすがりついてきた。
いつもなら理路整然と言葉を並べる口が、今はただ、熱い呼吸を繰り返すことしかできていない。
そのまま、躊躇うようにして手のひらで包み込んだ胸元は、彼女の激しい鼓動を直に伝えてくる。
「真白……っ」
私の名前を呼ぶ先輩の声は、かすかに震えていた。
見上げると、潤んだ瞳が不安げに揺れている。
だけど、先輩は逃げようとはしなかった。
怯えたように私のシャツの布地をぎゅっと掴みながらも、じっと私の目を見つめ返す。
「見ないで……、恥ずかしい……」
白いバスローブが左右に大きくはだけ、部屋の明かりの下に露わになった彼女の身体は、どこまでも白く、そして綺麗だった。
紡先輩は両手で顔を覆い、私から目を逸らしてしまう。
「綺麗ですよ、紡先輩」
覆った手を優しく引き剥がし、その細い指先に自分の指を絡めた。
そのまま私たちはもう一度、お互いの体温を確かめ合うようなキスを交わした。
何度も唇を重ね、お互いの息が完全に混ざり合う。
私の片手は、すでに彼女の滑らかなお腹を通り、さらにその奥へ──。
指先がその絶対的な境界線に近づくにつれ、紡先輩の身体が再び強張り、緊張するのが伝わってきた。
脚がキュッと閉じられ、私の手を拒むように力がこもる。
私は手を止め、絡めた指に少しだけ力を込めて、先輩の耳元に唇を寄せた。
「紡先輩。……力を抜いて、私だけを見ててください」
「……ん、ぅ……っ」
先輩はきゅっと目を瞑り、それから覚悟を決めたように、ゆっくりと、本当にゆっくりと、足の力を抜いていった。
肌と肌が擦れるかすかな音が、静まり返った部屋に大きく響く。
再び唇を重ね、舌を優しく絡めながら、もう片方の手をゆっくりと彼女の太もものあいだへ滑り込ませる。
私の指先が触れた瞬間、紡先輩の肩が、びくりと跳ねた。
「……力を抜いて、私だけ見ててください」
「ん……っ、ぅ……」
あれだけ私の手を怖がっていた紡先輩が、今は自分から私にしがみついている。
「こわい」と震えていた声が、少しずつ、別のものに変わっていく。
紡先輩の息づかいが、静かな部屋に満ちていった。
どれくらい、そうしていただろう。
怯えていたはずの紡先輩は、もう私の指に抵抗できなくなっていた。
「あ……っ、真白……っ!」
その声が、限界まで張りつめた瞬間——
糸が、ふつりと切れた。
腕の中で、紡先輩の身体が大きく波打つ。
こらえていたものがほどけて、彼女の全身が何度も震えた。
背中に回された指が、私を離すまいと食い込む。
先輩の震えが徐々に収まっていくのを感じながら、彼女をぎゅうっと強く抱きしめた。
「紡先輩、すごく可愛かったですよ……」
掠れた声で囁き、私は紡先輩を離さず強く抱きしめ続けた。
二人の鼓動が重なり合う甘い余韻の中で、先輩の震えがゆっくりと溶けていくのを、腕の中で感じていた。




