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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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第79話 もう一度、恋人に

「……何か入れないの?」

「あ、うん。涼香(すずか)からでいいよ」

「別に、どっちでもいいけど」


 土曜日、駅前のカラオケボックスで受付を済ませ、廊下の奥の部屋で涼香とソファーに並んだ。

 涼香はタブレットで迷わず曲を選び、歌い始めると表情がやわらいだ。

 私は、昔の主人公はこういう涼香を隣で何度も見ていたのだろうか、と考えた。

 数曲ずつ歌った後、私はループ中に覚えた、一昨日、配信されたばかりのラブソングを予約した。

 告白と取れる言葉が、カラオケの伴奏に乗って流れていく。

 長めの間奏に入った瞬間、涼香が顔を上げた。


「……よく覚えてるね。その曲、一昨日配信されたばっかりなのに」

「涼香のために歌いたくて、覚えたんだ」


 ……いつから私は、こんな口説き文句を平然と言えるようになったんだろう。


「何それ」


 サビに入る頃に気がつくと、涼香との距離が縮まっていた。

 手拍子をする涼香の肩が、触れる。

 私は最後まで歌い切ってマイクを置き、テレビ画面を見ると採点結果が出た。


「なんか、涼香、こっち来てない?」

「べ、別に……! どこに座ってもいいでしょ」

「うん。私は嬉しい」

「……ばか。変なこと言わないで」


 涼香が採点画面を終了し、次の曲へ進めようとタブレットに手を伸ばす。私は、涼香の手に自分の手を重ねた。


「えっ……」

「そのボタン、押さないで」

「真白(ましろ)?」


 採点結果が消えないまま、スピーカーから待機音が流れている。

 攻略のため。そう決めて、私は涼香を見た。


「やっぱり、私、涼香のことが好き」

「……っ」


 私は、そのまま言葉を続けた。


「涼香。私は、もう一回、恋人に戻りたい」

「……また」

「え?」

「また、そうやって真白が決めるの?」


 涼香が責めている相手は、私ではない。

 涼香のためだと言って別れたのは、前の主人公——優(ゆう)だ。

 私はその場にいなかった。それを涼香へ言うこともできない。


「前もそうだった。私のためって言って、私に何も聞かないで別れた」

「…………」

「私は別れたいなんて言ってない。勉強が忙しいから真白が邪魔だなんて、一度も言ってない」

「うん」

「なのに真白は、私のためだからって顔で、勝手に終わらせた」


 涼香は、言葉を返せない私の手を振り払わない。


「私は、真白と一緒にいたかったから十六夜に来たの」

「……」

「桜蘭に行くことも考えてた。でも、真白と離れたくなかった」

「うん」

「勉強の邪魔になるかどうかなんて、私が決めることでしょ」


 涼香が何年も言えなかったことを、私は一つも知らない。


「なのに真白は、私に聞かないで決めた」

「……ごめん」

「謝ればいい話じゃない」

「うん」

「それで今度は、好きだから戻りたいって言うの?」

「うん。勝手だよね」


 私は、重ねていた手を離した。


「涼香のためって言いながら、涼香の気持ちを聞かなかった」

「……」

「私は、涼香を傷つけた」

「……」

「でも私は、恋人に戻りたい」


 涼香はタブレットをテーブルへ置いた。


「今度は、勝手に終わらせたりしない。ちゃんと、涼香に聞く。だから、待たせて。涼香の答えが出るまで、何度でも」

「ずるい」

「ずるい?」

「そこまで言われたら、突き放せないじゃない」

「……突き放されたくないから、言ってるんだよ」


 涼香は返事をしなかった。


「……突き放すつもりなら、とっくに帰ってる」

「涼香」

「今さら、わざわざ言わせないで」

「うん」

「私だって、ずっと……真白のこと、好きだったんだから」


 「うん」の一言が、出てこなかった。

 涼香の「好き」は、私の知らない過去の主人公へ向けられている。私が、受け取っていい言葉ではない。

 それでも、今ここにいる私が答えなければいけない。


「じゃあ、もう一回、付き合ってくれる?」

「……許したわけじゃない」

「うん」

「また勝手に決めたら、今度こそ知らないから」

「うん。決めない。涼香に聞く」

「……なら」


 涼香が私の腕をつかんだ。引かれるまま、私は顔を寄せた。


「恋人に、戻る」


 涼香がそう言った瞬間、私は唇を重ね、すぐに離れた。


「……短い」

「え?」

「今の、恋人のキスじゃない」

「あ、ごめん」

「謝らなくていいから、やり直して」


 私は涼香の頬へ手を添えた。涼香は私の制服を引き、自分から唇を合わせてくる。

 短いキスを何度も重ねた。


「ん……」


 涼香の声を聞いて顔を離すと、涼香が追ってきた。


「涼香?」

「……やめるって言ってない」


 私はもう一度キスをし、唇を重ねたまま角度を変えた。

 涼香の手が肩からうなじへ回る。腰を抱き寄せると、涼香の指に力が入った。

 舌先で唇に触れると、涼香が唇を開いた。


「ん、ん……っ」


 触れた舌を涼香が追い、何度か重ねるうちにキスが深くなっていく。


「……もっと」

「涼香、可愛い」

「なっ……、急に何なの」

「ねだってくる涼香、可愛いなって」

「っ……、ばか」


 言い終える前に、涼香の方から唇を押しつけてきた。

 私は腰へ腕を回してソファーの上で抱き寄せる。涼香は私に体重を預けた。


「……重くない?」

「全然。むしろ、ずっとこうしてたい」

「変なこと言わないでよ……」


 涼香は私の胸へ額を押しつけた。


「今度は、勝手に離れないで」

「離れない」

「約束」

「約束する」


 約束の返事を、もう一度キスで返した。

 次の曲は入れなかった。マイクはテーブルに置いたまま、モニターの画面が何度も切り替わる。

 その間、私たちは時間終了の呼び出しをされるまで、キスを続けた。

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