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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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今日は、私だけ

「ちょっと待って」

「どうしたの雪乃(ゆきの)?」

「今日、真白(ましろ)の家に行く」

「え、急に?」


 放課後の教室で帰り支度をしていると、雪乃が私の机の前に立っていた。

 鞄を肩にかけたまま、私を見下ろしている。


「ポイント使った」

「ポイント……」

「この間のピクニック作戦で、イルカから五十ポイントもらった。そのうち二十ポイントを使って、放課後の真白を買った」

「言い方が最悪すぎる」

「うるさい。文句あるならイルカに言え」


 雪乃はそれだけ言うと、私の机に置いた鞄を見た。

 早くしろ、という顔だ。


「分かった。行く。行くから睨まないで」

「睨んでない」


 靴を履き替え、校門を出る。

 帰り道、雪乃は私の隣を歩いた。

 学校の近くでは手を繋がない。涼香(すずか)や亜里沙(ありさ)に見られたら困るし、他の生徒に余計な話をされても面倒だ。

 雪乃もそれは分かっているのか、私の手から目を逸らした。


「怒ってる?」

「怒ってない」

「怒ってる時の返事じゃん」

「じゃあ怒ってる」

「認めるんだ」

「あんたが他の女と映画行って、家行って、キスして、私は廊下で手も繋げない。怒らない方がおかしいだろ」


 言い返せなかった。

 雪乃は横断歩道の信号を見たまま、私の方を見ない。


「……ごめん」

「謝るな。仕方ないことだって、私だってわかってる」


 赤信号が青に変わる。

 雪乃は先に歩き出さず、私の隣で待った。

 手は繋げない。

 その代わり、肩が一度だけ触れた。


 家に着くと、玄関には母親のメモが置かれていた。


『今日はお父さんと帰りが遅くなります。夕飯は冷蔵庫の鶏肉を使ってね。出海(いずみ)は友達とファミレスに行くそうです』


 ちょうどその時、スマホに出海からのメッセージが届く。


『お姉ちゃん、今日友達とご飯食べてくるね! 帰り遅くなるかも!』


 私は画面を雪乃に見せた。


「だって」

「……ふうん」


 靴を脱いで廊下へ上がる。

 リビングもキッチンも静かだった。冷蔵庫の低い音だけが聞こえる。

 雪乃は私の後ろからついてきて、階段の前で私の制服の袖をつかんだ。


「どこ行くんだ」

「まず鞄置きに部屋」


 雪乃の指は、袖を放さない。

 私は自室のドアを開け、鞄を床に置いた。

 ドアが閉まる。

 その音を合図にしたように、雪乃が私の背中に抱きついてきた。


「真白」

「わっ、ちょっと」

「動くな」


 後ろから回された雪乃の腕が、私の前でぎゅっと組まれる。

 制服越しに、雪乃の体温が伝わってくる。

 帰り道は人目があって、くっつけなかった。

 その分を取り戻すみたいに、雪乃は私の肩に額を押しつけてくる。


「……他の女の匂い、しない」

「嗅がないでよ」


 雪乃は私を抱きしめたまま、首元に顔を寄せた。

 息が肌に触れて、私は肩をすくめる。


「くすぐったい」

「我慢しろ」


 私は、雪乃の頬に手を添えた。

 雪乃はまだ怒った顔をしている。

 でも、私が顔を近づけると、目を閉じた。

 怒った顔のまま閉じた唇へ、一度だけ重ねる。

 離れると、雪乃がすぐに私の襟をつかんだ。


「それだけなのか?」

「え?」

「逢坂亜里沙にはもっとしたんだろ」

「雪乃」

「何」

「他の女の子の話はしない。今日は、雪乃のための時間でしょ」


 もう一度キスをした。

 雪乃は文句を言わず、私の首に腕を回してきた。

 その後、雪乃はやっと満足したように私から離れた。

 私は曲がったリボンを直しながら、母親のメモを思い出す。

 冷蔵庫には鶏肉と卵がある。

 父親と母親はまだ仕事で、出海も友達と夕飯を食べてくる。

 この家に、今は私と雪乃しかいない。


「そうだ。雪乃」

「何」

「前に、私の手料理食べたいって言ってたよね。ご飯、作ろうか?」


 雪乃は一度だけ瞬きをした。


「……作ってくれるのか?」

「うん。ちゃんとしたやつは無理かもだけど」

「食べる」

「即答」

「うるさい。早く作れ」


 その言い方なのに、雪乃は私の手を取って部屋の外へ出た。

 リビングへ行き、冷蔵庫を開ける。

 母親のメモ通り、鶏肉と卵が入っていた。玉ねぎもある。


「オムライスでいい?」

「いい」


 雪乃はキッチンの入口に立ち、私が材料を切り終えるまで黙って見ていた。

 フライパンに火を入れたところで、私の背中へ寄ってくる。

 額が背中に当たり、制服の裾をつままれた。


「なあ、真白」

「何?」

「まだ?」

「もう少し」

「遅い」

「料理に嫉妬しないで」

「してない」


 私は火を止め、皿に盛ったケチャップライスの上に卵を乗せた。

 形は少し崩れたけれど、雪乃は文句を言わなかった。


「はい、完成」

「……食べるぞ」

「どうぞ」


 リビングのテーブルに皿を置くと、雪乃は向かいの席へ行かず、私の隣に座った。

 肩が触れる位置で、スプーンを手に取る。

 雪乃がスプーンでオムライスをすくい、私の口元へ差し出した。

 無言で「あーんしろ」と目配せしてくる。

 私は口を開けた。


 皿が空になる頃には、雪乃の機嫌も戻っていた。


「……真白」


 食器を流しへ運ぼうとすると、雪乃が私の制服を引いた。


「……母さんたち帰ってくる前に洗えばいいか」


 私は皿を流しに置き、手だけ洗った。

 タオルで拭き終わる前に、雪乃が私の手を取る。

 階段を上がる間、雪乃はずっと私の手を引いていた。


 自室に戻ると、雪乃はドアを閉めてから、私をベッドへ座らせた。

 そのまま隣に座り、肩に頭を預けてくる。

 私は雪乃の頬に手を添え、唇を重ねた。

 離れると、雪乃がすぐに追ってきた。

 今度は雪乃から、私の下唇を食む。


「ん……」


 声が漏れたのは、私の方だった。

 雪乃が勝ち気に笑う。

 悔しいから、私はもう一度キスで塞いだ。

 短いキスを重ねるたび、雪乃の手が私の背を引き寄せる。

 私はその手首に触れ、ベッドの上へゆっくり押し倒した。


「真白」

「何?」

「今日は、私だけ見ろ」

「うん。雪乃だけ」


 雪乃は返事をしないで、私の襟を引いた。

 私は雪乃の上に重なり、額を合わせる。

 またキスをした。

 私は片手を伸ばし、リモコンで照明を消した。

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