↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/136

手、繋いでいい?

「ラブストーリーでよかったの?」

「別に。真白(ましろ)が見たいって言ったんでしょ」

「涼香(すずか)は興味あるのかなって」

「あんまり見ないけど、興味ないわけじゃない」


 日曜日。映画館の座席に腰を下ろすと、涼香はドリンクを置いた。

 暗くなる前のスクリーンには、予告編がいくつも流れている。

 館内の照明が落ち、スクリーンに本編が映った。

 物語は、昔別れた恋人同士が数年ぶりに再会する話だった。

 駅のホームで言えなかった謝罪。

 連絡先を消したふりをして、番号を覚えていた主人公。

 隣の涼香は真剣に映画を見ている。

 私は映画より、肘掛けの向こうにある涼香の右手ばかり気にしていた。

 ドリンクホルダーの横に、涼香の手が置かれている。

 触れていいのか。

 でも触れなければ、何も進まないままこのデートが終わってしまう。

 私は思い切って、涼香の手に左手を重ねた。

 涼香は正面を見たまま、動かない。


「映画、見なさいよ」

「……うん」


 怒られた。

 でも、手はそのままだった。

 私は指を絡めるほどの勇気は出せず、涼香の指先を包む形で手を重ねていた。

 上映が終わり、館内に明かりが灯る。

 涼香は私の手を外し、立ち上がった。


「面白かったね」

「まあまあ」


 涼香の感想は少し辛口だった。

 私は結構、感動しちゃったんだけどなぁ。


「私、そろそろ帰る」

「送っていくよ」

「駅まででいい」

「うん。駅まで」


 映画館を出ると、夕方の街は人で混んでいた。

 私は隣に並び、涼香の右手を見た。


「ねえ、手、繋いでもいい?」

「……さっき、勝手に重ねてきたでしょ」

「あれは重ねただけ」

「……何が違うのよ」

「今度は涼香とちゃんと、繋ぎたいってこと」


 涼香は前を向いたまま、右手を差し出した。

 私はその手を取った。今度は、涼香の方から指を絡めてくる。


 駅まで、私たちは手を繋いだまま歩いた。


「今日はありがとう。また遊ぼうね」

「……予定が合えば」

「じゃあ、私が全力で予定合わせる」

「……そんなに必死にならなくても」

「だって、また涼香に会いたいから」

「っ……」


 別れ際、先に指をほどいたのは涼香で、離れる最後まで指先が名残惜しそうに触れていた。

 改札の向こうへ歩いていく背中を見送りながら、私はスマホを取り出した。

 亜里沙(ありさ)からの通知が三件、画面に並んでいた。

 あとで読もうと思って、私はスマホの画面を消した。



***



 翌日の昼休み。十六室(じゅうろくしつ)。

 この世界の母親に作ってもらった弁当を持って部屋へ入ると、ソファーには雪乃(ゆきの)と久遠(くおん)先輩が座っていた。

 黒羽(くろは)先輩はそこにいなかった。


「あれ? 黒羽先輩は?」

「気になる場所があるから調査すると言っていたわ。昼休み中には戻るそうよ」

「また一人で調査してるんですか」


 私は弁当を持って、ソファーへ座った。

 その直後、空間がぐにゃりと歪んだ。

 青色のイルカが、長机の上に浮かび上がる。


「中間発表イルカ〜!」

「来たわね」


 久遠先輩がイルカの方へ視線を向けた。

 イルカイルが尾びれを振ると、宙に二本の瓶が表示された。

 一本目には涼香の名前。

 もう一本には亜里沙の名前。

 瓶の中でピンクの光が揺れている。


「まず涼香イルカ。元カノ補正と映画館での手繋ぎにより、現在五分の一くらいイルカね」

「五分の一……」

「えっちなしでここまで溜まるのは、未練がやはりあるということイルカ。そして亜里沙イルカ」


 亜里沙の瓶の光が、涼香の瓶よりも明らかに高い位置まで満ちていた。


「五分の三イルカ」

「……そんなに?」

「土曜日にえっちしたイルカね! 友達という単語を免罪符にして、お嬢様の純情を弄んだイルカ〜?」

「嫌な言い方しないで」

「でも事実イルカ。亜里沙は友達耐性がなイルカ。手作り弁当、名前呼び、家デート、キス、全部まとめて高出力イルカ」


 久遠先輩は何か言いたげに私を見ている。

 雪乃は隣のクッションをつかむなり、膝の上で二度殴った。


「雪乃、クッション殴らないで。ここの備品だから」

「うるさい!」


 イルカイルは二人の様子など気にせず、続けて話し始める。


「この調子なら、あと二回くらいえっちすれば攻略完了イルカね」


 イルカイルは悪気のない顔で、亜里沙の瓶をくるりと回した。


「順調イルカよ〜」

「……順調かもしれないけど」


 その先は、自分でもうまく言えなかった。

 私は何度も「友達なら普通」と言った。亜里沙が何も知らないのを、いいことに。


「亜里沙の方はこのまま進めたらまずいかも」

「そうね。双葉涼香の方も順調なのに、このまま溜まってしまったらループしてしまうわ。今週の土日は逢坂亜里沙と会わない方がいいわね」

「そうですね。涼香にもっと向き合います」


 その時、扉が開いた。

 黒羽先輩がノートパソコンを抱えて入ってくる。


「なんか、空気悪いわね」

「黒羽さん。あなた、今週の土日どちらか真白と過ごしなさい」

「どうしていきなり?」

「ラブエナジーを溜めるのでしょう。今のままでは、あなたが一番遅れているわ」

「あ、そうだったわね」


 黒羽先輩は空いている椅子に座り、ノートパソコンを開いた。


「涼香との予定が決まり次第、黒羽先輩との予定を決めてもいいですか?」

「分かったわ」


 私は涼香に連絡しようと、スマホを開いた。

 でも、指が止まったのは、亜里沙からの未返信通知だった。

 入力欄に謝罪を書きかけて、消した。


「……やっぱり、こんなのひどいですよ」


 私が弱音を吐くと、久遠先輩がため息をついた。


「優先順位を決めるわよ。今は同時攻略を進めるのが最優先」

「優先順位なら私が一番だろ! せめて昼休みぐらい二人きりの時間が欲しい!」


 雪乃が身を乗り出してくる。


「あなたはゼロポイントでしょう。黙っていなさい。真白、ここは効率を考えて黒羽紡とラブエナジーを溜めるべきよ」

「ちょっと待って。私だって心の準備が……」


 黒羽先輩が珍しく焦った声を出す。


「じゃあ代わりに私が週末過ごさせてもらう」

「ポイントないじゃない」

「今からポイントを手に入れるんだ!」


 三人が私の前で言い争いを始める。

 誰も、私を逃がそうとはしなかった。

 私はため息をつき、メッセージアプリを開いた。

 亜里沙からの通知が、さっきより増えていた。


『今週の土日、会えませんか?』

『真白? お忙しいのかしら?』


 少し返信の内容を考えて、文字を打ち始める。


『ごめんね。今週は予定が入ってて会えない。でも、私も亜里沙に会いたい。次に会う日、ちゃんと決めよう』


 送信した直後に既読がついた。

 ずっと、画面の前で待っていてくれたんだろうか。


「そういえば、双葉涼香のことなら、良い情報があるわ。あの子、カラオケが好きらしいわよ」

「カラオケ?」

「特進(とくしん)の二年から聞いたわ。放課後によくヒトカラをするんですって」

「涼香、一人カラオケするんだ」


 意外だった。

 私は涼香とのチャット画面を開く。


『今度、カラオケ行かない?』


 数分後、短い返信が届く。


『いいよ。土曜日なら空いてる』


 私は画面を見せた。


「土曜日、涼香とカラオケに行くことになりました」

「なら、日曜日は黒羽さんね」

「決まるの早っ」


 雪乃はクッションを抱えたまま私を睨んでいた。

 私の土日の予定が決まってしまった。

 私はスマホを伏せてから、まだ開けていなかった弁当の蓋に手をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。