↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/136

キスの、続きを

「はい、次はブロッコリー。あーん」

「……あーん」


 ゴールデンウィークが明けてから、私は昼休みになると弁当袋を持って商業科棟の屋上へ向かっている。

 最初の日、逢坂(おうさか)さんは「あーん」のたびに人目を気にして、なかなか口を開けてくれなかった。

 二日目には、箸を出す前から「本日もいただきますわ」と言った。

 そして三日目の今日は、当たり前のように口を開けている。

 友達なら普通と信じきってしまっているようだった。

 ブロッコリーを食べ終えると、逢坂さんは空になった弁当箱の蓋を閉じた。


「……今日もお弁当、美味しかったですわ。いつもごちそうになってばかりで、申し訳ありません」

「ううん、逢坂さんが美味しそうに食べてくれるから、私も嬉しいし」

「何か、お礼をさせてくださる?」

「じゃあ……その前に、一個お願いしていい?」


 逢坂さんは弁当箱を袋へ戻し、私の方へ向き直った。


「何でしょう」

「そろそろ、苗字じゃなくて名前で呼んでもいいかな」

「名前……」

「うん。友達だし」

「友人同士は、名前で呼び合うものなのですか?」

「私はそうしたい」

「……あなたがそう言うなら、構いませんわ」

「じゃあ、亜里沙」


 亜里沙は、空になった弁当箱へ視線を逸らした。

 耳の縁が、紅茶を飲んだあとみたいに色づいている。


「じゃあ、私のことも真白(ましろ)でいいよ」

「佐倉さんを?」

「うん。真白」

「……真白」


 すぐに返事をするつもりだった。

 でも、亜里沙の声で「真白」と呼ばれると、私の方が先に照れてしまった。

 だめだ。仕掛けた側が負けてどうする。


「……亜里沙」

「なんですの?」

「呼んだだけ」

「……真白」


 ……お返しらしい。

 昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴る。

 私は弁当袋を持ち、立ち上がって、もう一つだけ言い忘れていたことを思い出した。


「あのさ、今度は私の家に遊びに来てよ」


 亜里沙は座ったまま、私を見た。


「真白の、お家に……?」


***


 数日後。約束通り、亜里沙が私の部屋へ遊びにやってきた。

 私と亜里沙は、ローテーブルを挟んで向かい合い、買ってきた棒状のチョコレート菓子をつまんでいた。


「亜里沙。せっかくだし、ゲームしようよ」

「ゲーム、ですの? わたくし、テレビゲームなどはあまり……」

「ううん、違うよ。このお菓子を使ったゲーム。友達同士がよくやるゲームなんだよ」


 本当は、久遠(くおん)先輩の入れ知恵だった。


 『距離を詰めたいなら、ポッキーゲームが手っ取り早いわよ。「友達の遊び」という顔をして、自然に唇まで持っていけるもの』


 そう言って実演しようとした先輩を、雪乃(ゆきの)が怒りながら引き剥がしていたのを思い出す。


「友達同士がよくやる……なら、やってみてもよろしくてよ?」


 私は、一本のチョコ棒を口にくわえた。


「こうやって、両端から食べていくの。途中で折れたら負けね」

「なるほど、単純なルールですわね」


 亜里沙はチョコ棒の反対側を口にくわえた。

 一回目は、亜里沙が慎重に食べ進めた。

 私が二口分進めたところで、亜里沙の方のチョコがぱきっと折れる。


「あ、私の勝ち」

「今のは確認ですわ。本番ではありません」

「そうだね、次が本番」

「負けませんわよ」


 二回目。

 亜里沙は開始の合図と同時に、さっきより速くチョコを噛んだ。

 真剣なその姿に思わず笑いそうになったその瞬間、私の方のチョコが折れた。


「今度はわたくしの勝ちですわ」

「本気出すの早くない?」

「勝負と聞いた以上、当然です」

「じゃあ、次で決着ね」

「受けて立ちますわ」


 三回目。

 ポリ、ポリ、とチョコが折れる音が続く。

 残りが指一本分ほどになっても、亜里沙は逃げなかった。

 私も、チョコを離さなかった。


「……んっ」


 唇が触れた。

 チョコの最後のひとかけらごと、私の唇が亜里沙の唇をかすめる。

 亜里沙は口元に手を当てたまま、私を見た。


「なっ……! ま、真白!? 今、唇が……!」

「え? ああ、ごめんごめん。でも、友達同士なら普通だよ?」

「ふ、普通……ですの?」

「うん。もう一回する?」


 私が首を傾げると、亜里沙は返事をしなかった。

 代わりに、新しいチョコ棒を一本取り、私の前へ差し出す。

 四回目のゲームが始まる。

 今度は、チョコが折れてもどちらも離れなかった。

 亜里沙の唇がもう一度触れる。

 さっきより長く、柔らかい感触が残った。


「……ん」


 私は亜里沙の顎に指を添えた。

 亜里沙は肩を跳ねさせたが、逃げなかった。

 唇を重ね直すと、チョコレートの甘さが舌先に残っていた。

 閉じた唇をなぞるように口づける。

 一度、二度。

 亜里沙の反応はぎこちなかったけれど、触れた唇が少しずつ私を受け入れていく。


「……ま、真白」


 私はもう一度、亜里沙の唇へ触れた。

 今度は短く離れず、亜里沙の呼吸に合わせて角度を変える。

 唇の隙間へ舌先を滑らせると、亜里沙の指が私の二の腕にすがった。


「ん、んむ……っ」


 チョコレートの甘さが、亜里沙の舌の熱で溶けていく。

 亜里沙は、私が舌先で促すとおずおずと舌を重ねてくる。

 私は亜里沙の背中へ腕を回し、もう一度深く舌を絡めた。


「ぷはっ……はぁ、はぁ……っ」


 息継ぎのために唇を離すと、亜里沙の瞳が潤んでいた。


「ま、真白……あ、あの……」

「どうしたの? これも、友達なら普通だよ?」

「……っ、それは」


 亜里沙は言いかけて、ローテーブルの上に残ったチョコ棒を見た。


「もう一回、してくださる?」

「ポッキーゲームを?」

「……違いますわ」


 亜里沙はそこで止まった。

 唇を開いて、閉じる。

 それから、私の手首にそっと触れた。

 私は返事の代わりに、亜里沙の顎に手を添え、亜里沙を引き寄せた後、唇を重ねた。


「……んっ」


 軽く触れて、すぐにほどく。

 亜里沙が追いかけるように唇を寄せた。

 それで十分だった。

 私は亜里沙をカーペットの上に押し倒した。

 最初は、額にかかった髪を避けて、そこへ口づけた。

 次は頬へ。

 それから、亜里沙の唇へ。

 亜里沙の腕が私の背中に回る。

 私はゆっくり唇を開かせ、さっきより深く舌を絡めた。

 亜里沙は不慣れなまま、それでも私を受け入れようとして、熱い息を漏らす。

 チョコの甘さが消えても、私は亜里沙の唇を離せなかった。


***


 そして、中間テストが終了した。

 テストが終わったその日、私は即座に涼香(すずか)へメッセージを送信した。


『よかったら、映画のチケットが余ってるんだけど行かない?』


 もちろん、チケットなど余っていない。涼香を誘うために私がわざわざ買ったものだ。

 既読はついたものの、返信はこない。

 丸一日が経過し、ようやく涼香から返信が届いた。


『いいよ』


 そっけない三文字だが、彼女からの承諾だ。

 その一方で、私は亜里沙とも頻繁にメッセージのやり取りを続けていた。


『よかったら今度の土曜日、会いませんか? 今度はわたくしの家で』


 亜里沙からの誘いに対し、私は即座に『もちろん。何時にする?』と返信を打つ。

 これで、今週末の土曜日は亜里沙との予定が決まった。

 となれば、必然的に涼香との映画デートは日曜日に設定しなければならない。


『じゃあ、日曜日に映画行こう』


 私は涼香へそうメッセージを返し、ベッドに身を投げ出した。

 土曜日は亜里沙。日曜日は涼香。

 予定が埋まっていくのは、帰るのが近づいてるってことだ。……多分。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。