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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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あーん、して?

 そして、ゴールデンウィークの休日。

 私たちは人混みを避けて、のんびりとした空気が流れる河川敷へやってきた。

 芝生の上にレジャーシートを広げ、私は朝早くから起きて作ったお弁当箱の蓋を開けた。


「……これが、お弁当?」


 逢坂(おうさか)さんがお弁当箱の中を覗き込む。

 中に入っているのは、形のいびつな卵焼きや、タコさんウインナーといった、絵に描いたような庶民のお弁当だ。


「いただきますわ」


 逢坂さんは箸を持ち、卵焼きを口に運んだ。


「お口に合うかな……?」

「……美味しいですわ」

「ほんと!? よかったー」

「これ、佐倉さんが作ったんですの?」

「うん。逢坂さんのために頑張ったんだよ。はい、あーん」


 私はタコさんウインナーを箸で摘み、逢坂さんの口元へ差し出した。


「なっ……! わ、わたくしは自分で食べられますわ!」

「えー、いいじゃん。友達同士なら普通だよ?」


 言ってから、ちょっとやりすぎたかなと気づく。


「あ、ごめん。嫌なら自分で食べて」

「嫌とは言っていませんわ」

「え?」

「友人同士の作法なのでしょう?」


 逢坂さんは周囲を確認してから、そろそろと口を開けた。


「……んむ」

「どう? 美味しい?」

「……美味しい、ですわ」


 友達なら普通。

 私がそう言えば、逢坂さんは疑いながらも受け入れてくれる。

 ……この言葉、使えるかもしれない。

 私は箸を持ち直し、次は何を食べさせようか考えていた。


「その赤いものは、どういう料理名ですの?」

「タコさんウインナー」

「タコさん」

「うん」

「……さん付けが正式名称ですの?」

「そういうことにしとこう」

「庶民文化、難解ですわね」

「じゃあ、難解な庶民文化をもう一個どうぞ」


 私はもう一本タコさんウインナーを摘んで、逢坂さんの口元へ差し出した。


「……ん」

「はい、次、卵焼き」

「待ちなさい、佐倉さん。流れが速すぎますわ」

「じゃあ、ゆっくりいくね。あーん」

「そういう問題では……」


 最後の言葉は、卵焼きと一緒に消えた。

 逢坂さんは飲み込んでから、まだ何か言いたそうに私を見た。


「おかわりいる?」

「……あなたがそこまで言うなら、受け取って差し上げます」


 結局、逢坂さんは私が差し出した卵焼きをもう一つ食べた。


 お弁当箱が空になりそうな頃には、逢坂さんはすっかり、私の「あーん」に慣れてしまっていた。


「ねえ、最後の一個。今度は逢坂さんが、私に食べさせてくれない?」

「な……っ、わ、わたくしがですの!?」

「うん、お礼にさ。友達同士なら普通でしょ?」

「その理屈、ずるいですわ……っ」


 文句を言いながらも、逢坂さんは最後のタコさんウインナーを箸でつまんだ。

 差し出す手は、ぎこちなくて、少し震えている。


「……あ、あーん、ですわ」

「あーん。……えへへ、おいしい」

「佐倉さんが味わっておいて、なぜわたくしが照れねばならないのです……っ」


 耳を赤くしながらも、逢坂さんは最後まで、箸を引っ込めなかった。


 私たちはレジャーシートを畳み、河川敷を駅の方へ戻った。

 駅までの道でも、話は途切れなかった。


「逢坂さん、買い食いってしたことある?」

「買い食い……。店頭で購入したものを、その場でいただく行為ですわよね」

「ふふ、逢坂さんらしいね」

「な、何がですの。……とにかく、経験はありませんわ。ですが、コンビニのチキンなら知っています」

「秘密で食べてたやつ?」

「なっ、秘密ではありませんわ! 公表する機会がなかっただけです!」

「じゃあ今度、一緒にやってみようよ。買い食い」

「……っ、ぜ、ぜひ。では、日程と、立ち寄る店舗の候補を、いくつか挙げて……」


 逢坂さんが、さっそくスマホを取り出してメモを開こうとする。


「いやいや、そんなちゃんと決めなくていいって。会った時に、食べたいもの買えばいいんだよ」

「予定も立てずに……?」

「うん。友達とのお出かけなんて、だいたいそんなもん」

「……そういうもの、なんですのね」


 逢坂さんは少し考えてから、スマホを鞄に戻した。


 スマホを見ると、もう五時を過ぎていた。

 帰り道の川が、ゆっくりと茜色に染まっていく。


「今日は、楽しかったですわ」

「私も楽しかったよ。また遊ぼうね」


 私は歩きながら、逢坂さんの右手をそっと握った。


「っ……!? さ、佐倉さん!?」

「手繋ぐのも、友達同士なら普通だよ?」

「普通、なんですの……!」

「うん、普通。……あ、でも、嫌ならほどくよ?」

「い、嫌とは……っ、言っておりませんわ……」


 消え入りそうな声だった。

 逢坂さんは私の手を見て、それから前を向く。

 振り払われるどころか、逢坂さんの指が、おずおずと私の手を握り返してきた。


「あ、握り返してくれた」

「ち、違いますわ! こ、これは……っ、あなたが、友人なら普通だと言ったからで……っ!」

「ふふ。じゃあ、友達同士だし、もっとぎゅってしてもいい?」

「っ……、お、お好きになさい……」


 言葉とは裏腹に、逢坂さんの指に力がこもる。

 手のひらが少し汗ばんでいるのは、たぶん暑さのせいじゃない。

 逢坂さんはそのまま、駅に着くまで、一度も私の手を離さなかった。

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