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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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お嬢様と、コンビニチキン

「なんで私まで、こんなところに来なきゃいけないんだ!」


 次の土曜日、逢坂(おうさか)コーポレーション主催のパーティー会場。その隅のテーブルで、雪乃(ゆきの)がグラスをテーブルに置いた。

 受付で招待状を渡すと、係の人が久遠(くおん)先輩の名前を見て姿勢を正した。

 久遠先輩は慣れた顔で短く挨拶を返し、私の背中へ手を添えて会場へ入る。

 天井からはシャンデリアが光り、磨かれた石床にドレスとスーツの影が映っている。

 会場の奥では弦楽器の音が響き、ビュッフェテーブルには名前を聞いても分からない料理が並んでいた。

 今日、零式会のメンバーは全員、久遠先輩が用意したドレスを身にまとっている。

 私自身も、背中がざっくりと開いたドレスを着せられ、なんだか落ち着かない。


「逢坂亜里沙との接点が誰か一人でも作れたら勝ちなのよ。それにしても……三上さんはせっかくのドレスが台無しね。着る人間の品格が伴っていないわ」

「なんだとっ!?」

「威嚇しないで。ドレスが破れるわよ」


 久遠先輩は雪乃を冷ややかに一瞥し、私の腰にすっと手を回してきた。


「ねえ真白(ましろ)。あなたはどう? 私の選んだドレス、気に入ってくれたかしら?」

「えっと、その、ちょっと恥ずかしいですけど……」


 久遠先輩の手が腰にあるせいで、余計に背中の開きが気になる。

 私が肩をすくめても、久遠先輩の手は離れなかった。


「ちびっ子は七五三か?」


 雪乃の矛先が、今度は黒羽(くろは)先輩へ向く。

 黒羽先輩は黒の落ち着いたドレスを着ていた。

 本人は平然としているが、テーブルの上の料理を取ろうとして、奥の銀のトングに届かずに手が止まっている。


「誰が七五三よ。次言ったらパンチするわよ」


 私はトングを取って、黒羽先輩へ渡した。

 黒羽先輩は当然のように受け取り、皿の上へキッシュを二つ乗せる。


「二人とも、似合ってますよ。雪乃も、黒羽先輩も、すごく可愛いです」

「えっ……」

「…………そ、そう」


 私が素直に褒めると、雪乃は分かりやすく頬を赤らめ、視線を泳がせた。

 黒羽先輩はそっぽを向いたまま、キッシュの三つ目を皿に乗せた。


「さあ、お遊びはここまでよ」


 久遠先輩が視線を会場の中央へ向けた。

 招待客に囲まれて、金髪の女性が挨拶を交わしている。

 相手が年上なら丁寧に頭を下げ、同年代らしき相手には少しだけ口元を上げる。

 会社関係者らしい男性が名刺を差し出すと、彼女はそれを受け取り、父親らしき男性へ自然に話を繋いだ。

 あれが、逢坂亜里沙。


「接触できそう?」

「はい、行ってきます」


 私はグラスを置き、人混みを縫って逢坂さんの方へ歩み寄った。

 会話の輪が途切れるのを待つ。

 けれど、逢坂さんの周りには次の人がすぐに入ってくる。久遠先輩の方を見ると、久遠先輩は軽く顎を引いた。

 今行け、という合図らしい。

 私は声をかける言葉を選びながら、逢坂さんの背後へ近づいた。


「あっ、すみません!」


 その時、バランスを崩した別の参加者が、グラスを持ったまま逢坂さんの方へ倒れ込んできた。

 私は咄嗟に逢坂さんの腰を抱き寄せ、その身を庇うように位置を入れ替えた。


「きゃっ!」

「うわっ!」


 冷たい感触が背中を走る。

 参加者の持っていた色のついたジュースが、私のドレスに派手にかかってしまった。


「ああ、申し訳ありません!」

「いえ、大丈夫です。お怪我は?」


 私が参加者に対応していると、腕の中にいた逢坂さんが顔を青くして私の背中を見た。


「あなた、お洋服が……! わたくしを庇ってくださったのね。ごめんなさい、すぐに控え室へ!」


 逢坂さんは私の手首を掴み、強引に会場の奥へと歩き出した。


***


 案内された控え室には、私たち二人だけだった。

 逢坂さんは棚からタオルを取り出し、私の背中の汚れにそっと当てた。

 けれど、色のついたジュースは生地に染み込んでいて、何度拭いても薄い跡が残ったままだった。


「……抜けませんわね」

「あー……これ、たぶん落ちないやつですね」

「申し訳ありません……わたくしを庇ったせいで、こんな……」


 会場であれだけ余裕のあった人が、タオルを握ったまま、しゅんと肩を落としている。


「そのままお帰しするわけにはまいりません。今日はわたくしの家の催しですから、控え室にお召し替えはいくらでもございます。どうぞお着替えになって。汚れた方は、責任を持ってクリーニングに出しますわ」


 断る理由もなかった。

 しかもこのドレス、私のものではない。

 久遠先輩から借りた潜入用の一着だから、綺麗にして返せるならその方がいい。

 逢坂さんが出してくれたのは、会場でも浮かない上品なワンピースだった。

 着替えを終えると、逢坂さんは汚れたドレスを丁寧に畳んで紙袋へ収めた。


「クリーニングが済んだら、こちらのワンピースと引き換えにお返しします。お名前と、連絡先を教えてくださる?」


 連絡先。

 今日のために欲しかった接点が、向こうから提示された。


「佐倉真白です」


 スマホで番号を交換しながら、私は少し雑談を振ってみた。


「逢坂さん、さっきまでずっと挨拶回りでしたよね。大変そうでした」

「家の催しですもの。これくらいは務めですわ」

「すごいです。お料理も、どれも美味しかったです」

「ふふ。それは良かったですわ」

「逢坂さんって、普段からこういう豪華なものばかり召し上がってるんですか?」

「まさか。家では、ごく普通の食事ですわ」

「あ、そうなんですね」


 普通の食事。久遠先輩から聞いた話を出すなら、今だ。


「じゃあ……逢坂さんって、コンビニのチキンとか、好きだったりします?」

「…………へ?」


 逢坂さんの優雅な表情が、ピタリと固まった。

 それから、タオルを胸元に抱えたまま、私から一歩離れる。


「な、なんでそれを知っていますの!?」

「なんとなく……?」

「どなたからお聞きになったの? 家の者? まさか逢坂家の情報管理に穴が……」

「そこまで騒ぐ話ですか?」

「騒ぐ話ですわ! わたくしがコンビニのチキンを……その、商品名まで覚えていることなど、限られた者しか知らないはずですもの!」

「商品名まで覚えてるんですね」

「覚えていませんわ! ただ、注文時に必要なので記憶しているだけです!」

「それを覚えてるって言うんです」

「〜〜〜っ!」


 ……なんだ、思ったより、ずっと可愛い人だ。


「この秘密を守る代わりに、私とお友達になってくれませんか?」


 口に出した瞬間に気づいた。

 秘密を盾に「友達になれ」だなんて、どう聞いても脅しだ。


「そ、そんな強引な……!」

「あ、いや、脅すつもりじゃなくて。えっと、普通に誘いたかっただけで」

「普通に……?」

「はい。コンビニのチキン、一人で食べるより、二人で食べた方がおいしいかなって」


 逢坂さんはタオルを抱えたまま、しばらく私を見た。

 それから、咳払いを一つした。


「しょうがないですわね。あなたがそこまで望むなら、友人という立場を許可して差し上げます」

「ありがとうございます。じゃあ、また連絡しますね。チキンも、そのうち一緒に」

「……っ、お好きになさい」


 会場では完璧だった令嬢が、今は耳を赤くして、そっぽを向いている。

 連絡先はもう交換している。あとは、ここから少しずつ近づけばいい。

 こうして私は、友人という立場を、正式に許可していただいた。

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