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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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脱がされて、朝

「なんで、お前が真白(ましろ)の隣に座っているんだ!」


 次の日の放課後、十六室(じゅうろくしつ)に入った時点で、今日の議題がまともに進まない予感はあった。

 私はソファーの中央に座らされている。右隣には黒羽(くろは)先輩、向かいにはテーブルに両手をつく雪乃(ゆきの)。


「ガルルルル!」

「犬みたいな声を出さないで」

「誰が犬だ!」

「誰のせいで威嚇してると思ってんだ、ちびっ子」

「年上よ。次にちびっ子と言ったら、パンチするわよ!」

「威嚇する犬と、手が出るちびっ子。相変わらず野蛮ね」


 久遠(くおん)先輩が紅茶のカップを置いた。

 止める気があるのか、煽りたいのか、まだ判定できない。

 黒羽先輩は私の隣から動かないし、雪乃はテーブル越しに身を乗り出したままだ。


「なんだと害獣女!」

「誰がちびっ子よ! 私は四月生まれ! あなたより年上だわ!」


 雪乃と黒羽先輩が同時に久遠先輩へ向かう。

 犬と、ちびっ子と、害獣。ここ、一応由緒正しい零式十六会《ぜろしきじゅうろくかい》なんだけどな。


「はいはい、そこまで。それで、黒羽さん。何か分かったことがあったのかしら?」


 久遠先輩が手を叩いて、場を切る。

 黒羽先輩は肩をすくめ、手元のメモを開いた。


「同時攻略の組み合わせを考えてみたの」

「やっぱ、同時攻略しなきゃダメなんだ」

「どこにいるか。いつ会えるか。誰と鉢合わせるか」

「言い方が完全に犯行計画なんですけど」

「早く全てを終わらせるためよ」


 正論を言われると、逃げられない。

 帰るために必要だと分かっている。分かっているけれど、攻略すると思うと、息が詰まる。


「まず、双葉涼香(ふたばすずか)と逢坂亜里沙(おうさかありさ)」

「涼香は分かります。逢坂亜里沙って誰ですか?」


 逢坂亜里沙は商業科の生徒で、基本的な居場所は商業科棟。

 黒羽先輩はメモの上で校舎の位置を示す。特進(とくしん)棟と商業科棟は、北と南に離れている。


「つまり、涼香と会ったあとに商業科棟へ行っても、見つかりにくい?」


 私が抗議しても、黒羽先輩のメモには一ミリも反映されないだろう。次の名前へ、指が移動する。


「次。藤代終(ふじしろつい)と四条ののみ(しじょうののみ)」

「藤代先生は知ってます。四条ののみって誰ですか?」


 プロフィール上の所属は、オカルト研究部。

 教師と生徒なら行動パターンは違う。黒羽先輩はそう言って、二つの名前の間に短い線を引いた。


「次。鍵守六実(かぎもりむつみ)、七瀬奈々(ななせなな)、矢代八雲(やしろやくも)、千代田詩織(ちよだしおり)」

「待って待って待って。誰ですか。全員知らないです。しかも四人!?」

「鍵守六実は学校に来ない」

「一人目から会えないんですけど!?」


 学校に来ないなら、学園内で誰とも鉢合わせしない。理屈は分かる。分かるけれど、攻略対象に会えないところから始まるのは、もう攻略なのか。


 七瀬奈々はアイドルで、矢代八雲は舞台女優。

 人気の二人に会えない日は、学校に来ない鍵守六実と、普通科一年生の千代田詩織へ会いに行く。

 理屈は分かる。分かるけど、それをやるのは私だ。


「次。江藤絵真(えとうえま)」

「誰ですか?」

「あなたの従姉妹のお姉さん」

「妹に続き、従姉妹まで!?」


 江藤絵真は、同じ敷地内の十六夜大学に通っている。

 近い。けれど、本科の時間割では読めない。大学生は空きコマ、休講、昼休み、帰宅時間が本科とは違う。


「だから江藤絵真は並行攻略に入れない方がいい。佐倉出海(さくらいずみ)も単独」


 出海は妹だから、他の女を家に連れてきたらその時点で終わる。

 身内、怖い。

 黒羽先輩は最後に、一ノ瀬唯花(いちのせゆいか)の名前を示した。


「唯花は知ってます。幼なじみです」


 唯花は同じクラスで、家も隣。避けると、避けたことが分かる。

 身近な人ほど危ない。そういうことだ。


 黒羽先輩はメモを閉じた。

 雪乃は開きかけた口を閉じ、腕を組んで頷いた。


「ちびっ子って頭いいんだな」


 黒羽先輩が立ち上がり、雪乃の肩を思い切り殴った。


「痛っ!」

「理にかなっているわね、この作戦」


 久遠先輩が話をまとめる。

 中間テストが終わるまでは双葉涼香は置いておいて、逢坂亜里沙と接触する。そういう方針になった。


「それで、逢坂亜里沙とはどうやって接触すれば、いいんでしょうか?」


 頭脳派が揃っているはずなのに、そこで全員の目が泳いだ。

 結局その会議では、誰も接触方法を思いつけず、お開きとなった。


 十六室を出る頃には、雪乃と久遠先輩は先に廊下へ出ていた。

 私は鞄を持ち直し、黒羽先輩の背中へ声をかける。


「黒羽先輩、優(ゆう)さんと涼香のこと、何か知ってますか?」


 黒羽先輩が立ち止まった。


「優から双葉涼香の話を聞いたことあるわ。攻略はまだしたくない。そのようなことを言っていたわね」

「……そうですか」


 私は思ったより、声が沈んでしまった。

 涼香が呼ぶ名前。涼香が笑う時の目。あれが私に向けられているのか、優さんに向けられているのか、まだ分からない。


「詳しい理由までは聞いていない。けれど、双葉涼香が覚えている優との過去は、今はあなたとの過去として認識されている」

「はい」

「涼香が見ているのは、今のあなたじゃないことを念頭に、行動した方がいいわね」


 すぐには返事ができなかった。


「……私、涼香にどう接すればいいんでしょう」

「それは、私には分からないわね」

「ですよね」


 涼香にとって、私は誰なんだろう。


***


 土曜日、私は久遠先輩の家のリビングで、ソファーの端に座っていた。

 久遠先輩は二百ポイントを使って、私を土日に独占する権利を得た。

 ポイントの使い道として正しいのかは分からないけれど、久遠先輩はとても満足そうだった。


「……ねえ、真白。もっとこっちを向いて? 今は私のことだけ考えて」

「わ、分かってます、分かってますから、久遠先輩……っ」


 久遠先輩は私の首元に顔を寄せ、頬を擦り寄せてくる。

 繋がれた手は、指と指が絡んだままだ。私が他の方向に行こうとするたび、すぐ引き戻される。

 逃げるほど嫌ではないから、余計に反応に困る。


「ふふ、真白の匂い……やっぱり、こうしてあなたに触れている時が一番落ち着くわ」

「あの、久遠先輩……」

「なぁに?」

「近いです」

「しょうがないじゃない。真白が可愛いのだから」


 私を捕まえて、逃がす気はまったくない。

 そういうところが一番困る。


「……逢坂さんのこと、まだ何も情報が進んでいないのに、こんなにのんびりイチャイチャしていていいんでしょうか」

「のんびり?」

「涼香と同時に攻略するのも不安で……」

「真白。今、その名前を出すの?」


 しまった。

 久遠先輩の声が少し低くなった。甘やかされている最中に攻略対象の名前を出すのは、相当よくない。

 私だって逆の立場なら、いい気はしない。


「ご、ごめんなさい」

「謝るところも可愛いけれど、許すかどうかは別ね」

「別なんですか」

「別よ」


 久遠先輩は繋いだ手を持ち上げ、私の手の甲に口づけた。

 その仕草が自然すぎて、文句を言うタイミングを失う。


「大丈夫よ、真白。逢坂亜里沙の攻略なら、私がもう裏の手を回してあるもの」

「え、でも……」

「それよりも、今の私のことだけ見てくれないと、拗ねちゃうわよ? ……ほら、こっち」


 久遠先輩は私の首に両腕を回し、顔を引き寄せる。

 抗議する前に、唇が重なった。

 話し合いは、ここで打ち切りだ。


「……んむ」


 すぐに離れるつもりだった。

 でも、久遠先輩は私の下唇を挟み、もう一度キスをする。離れたと思ったところで、また唇を塞がれる。


「久遠先輩、待っ……」

「待たないわ」

「せめて話を」

「今は、聞かない」


 何度も唇を重ねるうちに、久遠先輩の腕が私を抱き寄せる。

 言い返すために開いた口を、別のキスで塞がれた。言葉を発することができない。


「今は、私の真白でいて。……ね?」


 久遠先輩は返事を待たず、私のシャツのボタンに指をかける。

 一つ外れるたび、首筋、鎖骨、開いた襟元へキスをされる。私はもう、逢坂亜里沙の名前を出せなかった。


「……っ、はい。……久遠先輩」


 久遠先輩は私をソファーへ横たえ、深く唇を重ねた。

 涼香のことも、逢坂亜里沙のことも、考えようとするたびに久遠先輩の体温で上書きされた。


***


 日曜日の朝。

 目を覚ました時、私はまだ久遠先輩の腕の中にいた。

 シーツの中で体を起こそうとすると、寝ぼけた久遠先輩に引き戻される。


「おはようございます、久遠先輩」

「……もう少し」

「もう朝です」

「だから、もう少し」

「理由になってません」

「真白が隣にいるもの」


 唇を塞がれ、首筋へキスをされる。

 ようやくベッドから出られた時には、朝からヘトヘトになってしまった。


「あ、そうだ。真白には言っておかないとね」


 久遠先輩がパジャマの上着を羽織る。

 私は乱れた髪を整え、久遠先輩の後についてリビングへ向かった。


 ガラステーブルの上に、一枚の綺麗な封筒が置かれている。


「来週、パーティーに行くわよ」

「へ?」


 逢坂亜里沙の親の会社、逢坂コーポレーションが主催しているパーティー。

 そこへ行けば、彼女と接触する機会が確実にある。久遠先輩はそう言って、招待状をテーブルの上から拾う。


「真白に似合うドレスを用意しなくちゃね。楽しみだわ」


 久遠先輩は封筒を胸元に抱え、足取りを弾ませてリビングを横切った。

 攻略対象に会いに行くのに、ドレスコードがあるなんて聞いてない。

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