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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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先輩も、攻略します

 学園に戻る頃には、授業は全て終わって、放課後になっていた。

 私は黒羽(くろは)先輩を連れて、十六室(じゅうろくしつ)の前で足を止めた。


「失礼します」


 私が扉を開けると、雪乃(ゆきの)と久遠(くおん)先輩がこちらを振り向いた。

 雪乃は椅子から立ち上がり、久遠先輩は開いていた書類を閉じた。


「真白(ましろ)、今日サボって何してたんだ?」


 私の後ろから、黒羽先輩が室内へ入る。

 初めて来た場所なのに、遠慮する気配がない。


「なんだ、そのちびっ子」

「失礼ね! 私は三年生よ! 敬語を使いなさい」

「三年生? その身長で?」

「身長は関係ないでしょう!?」

「あら、黒羽紡じゃない」

「あなたは、えっと、九条院久遠」

「知り合いなんですか?」

「成績トップの人間は大体覚えているわ。で、ここに連れてきたということは、真白と黒羽紡は付き合うということね?」

「へ?」

「攻略対象でしょう?」


 久遠先輩が私の頭を撫でてくる。

 今日は色々な話を聞きすぎて、逆らう元気がない。


「いい子ね、真白。ちゃんと連れて帰ってきて偉いわ」


 久遠先輩はそのまま、私を後ろから抱き寄せた。頭の上で、満足げな声がする。


「な、なになに!? あなたたち、そういう関係なの!?」


 黒羽先輩が、私と久遠先輩を交互に指さす。


「おい九条院、真白から離れろ! イルカの許可なく手を出したら、お手つきでマイナス五十だろうが! ルールを守れ!」


 雪乃が机を回り込んで掴みかかる。


「あら。イルカが言ったのは『手を出したら』でしょう。抱きしめることは、手を出すうちに入らないわ」

「屁理屈だ!」

「ルールの穴を突くのも実力のうちよ」

「……っ、なら、その穴は私も使う! 真白は私のだ!」


 雪乃が私の腕を抱え込む。

 久遠先輩は私を抱きしめたまま放さない。

 私は二人の間で、動けなくなってしまった。

 黒羽先輩は、口を半分開けたまま固まっている。


「二人とも落ち着いて。それより、今は大事な話があるの」


 私はなんとか二人の腕から抜け出した。


「黒羽先輩、いろんなことを知っていて。その、ループしているって記憶があるんです。イルカイル!」


 私が叫ぶと、青い光の粒子が集まり、ホログラムのイルカが出現した。


「はあ〜、何イルカ。面倒臭いのを連れてきたイルカね。こいつの前には姿を現したくなかったイルカけど」


 不貞腐れた声と共に、イルカイルが机の上に姿を現した。

 普段より輪郭がぶれている。


「な、何これ!?」

「イルカイル。私にラブエナジー集めをお願いしてきたイルカです」

「イルカ、優(ゆう)はどこに行ったの? 教えなさい」

「優? 誰のことイルカ〜? 全然分かんなイルカ〜!」

「……優って、誰だ?」


 雪乃が首をかしげる。久遠先輩も、こちらを見ていた。

 ごまかしきれないと悟ったのか、イルカイルが小さく息を吐く。


「真白の前に、このループを終わらせようとしていた前任者がいたイルカ。優っていうイルカ。でも、ある日いなくなって、その続きを真白がやってるイルカよ」


 雪乃は「前任者……」と呟いて、それ以上は追わなかった。

 雪乃にとって、ずっと好きだったのは、目の前にいる私だ。

 ……でも、本当は違う。

 雪乃が好きになったのは、きっと優の方だった。その気持ちごと、私が知らないうちに上書きしてしまっただけ。

 なのに雪乃は、何も知らないまま、まっすぐに私を見てくる。

 その迷いのなさが、今は少しだけ、胸に刺さった。

 でも、久遠先輩は違った。

 私が前に「別の世界から来た」と話したことと、今の“前任者”が、頭の中で結びついたんだろう。

 何か言いかけて——やめた。


「それと、あと十六人のラブエナジーを溜めればループが終わるって本当なの?」

「あと十二人イルカよ。真白は四人攻略したイルカ。紡もその攻略対象イルカね。まったく、前任者ったら、なんでこんな面倒なやつを残したイルカ」


「そうよね。私は優と顔見知りだったから、後回しでいいって言われてたわ。だから、私のラブエナジーは溜まってないわね。いいわ、真白。早く私にキスしなさい。ラブエナジーを溜めるのよ。そうすればあと十一人。早くこのループを終わらせましょう」


 黒羽先輩が私に顔を近づけてくる。


「で、でも私今は別の子を攻略していて……」


 涼香(すずか)の名前を出しかけて、止めた。

 私が言い直す前に、久遠先輩が手を挙げた。


「待ちなさい。真白は今、双葉涼香を攻略中なのよ」


 久遠先輩が黒羽先輩の方へ向いた。


「そこで確認だけれど、黒羽紡はループの記憶があるのでしょう?」

「あるわ」

「普通はループで記憶ごと消えるのよね。記憶が残る紡なら、ラブエナジーも引き継げたりしないのかしら?」

「記憶は残っても、ラブエナジーはリセットされるイルカ。記憶持ちでも例外じゃなイルカ」

「じゃあ、ループはいつ起きるんだ?」

「誰かの攻略が成立して、瓶が満タンになった時イルカ。その瞬間ループして、まだ途中の相手のラブエナジーは全部消えるイルカ」

「……つまり、今ここで黒羽先輩のエナジーを溜めても、先に涼香の攻略が成立したら、そのループで黒羽先輩の分は消える」

「まあ逆もそうイルカ。ただ涼香はちょっとしか溜まってないから、そっちが消える分には痛くないと思うイルカ」


 イルカイルが空中に瓶の映像を映し出す。底の方にしかピンク色の液体は溜まっていなかった。

 瓶の底で、ピンクの色がわずかに揺れる。

 涼香と絡めた小指の感触を思い出す。


「でも、涼香とせっかく仲直りして、今は連絡取れないけど、前向きに友達になってくれるって言ってくれたのに」

「別にいいじゃない。私のラブエナジーを溜めながら、その涼香? とのラブエナジーを溜めれば」


 黒羽先輩は空中の瓶を見て、そう言った。


「え?」

「優は同時に何人も口説いていたわよ」

「へ?」


 聞き間違いであってほしかった。


「そんなことできるの、イルカイル!?」

「はあ〜、余計なこと言うなイルカ! この方法はあんまり推奨されてなイルカ」

「教えなさい」


 黒羽先輩がイルカイルに向かってそう言うと、イルカイルは観念したように口を開いた。


「同じタイミングで、同じ日のうちに同時に瓶が満タンになればカウントされるイルカ」

「つまり、涼香を攻略しながら、黒羽先輩とラブエナジーを溜めても問題ないということ?」

「そういうことイルカね。ただ、同じ日に溜めないとだめイルカよ。とってもシビアイルカ」

「……やってみればいいだろ。そうすれば、早く終わる」


 雪乃は腕を組んだまま、私の方へ視線を向けた。


「やってみればって……それ、何股もするってことじゃん!?」

「でも、世界を救うためだから仕方ないわね。それに、すでに私という彼女がいながら他の女を口説きに行くのだから、すでに二股はしているわ」

「いつ真白がお前の彼女になったっ!」

「では、本当に同時に攻略できるのか、試してみましょう。そうね、ゴールデンウィークも近いし、今から双葉涼香以外の女にアタックしてみましょうか」


 久遠先輩が腕を組んで頷く。


「瓶が満タンになりそうな時に、黒羽紡とはラブエナジーを溜めればいいわ」

「私も協力するわ」

「じゃあ、黒羽紡も零式会のメンバーになりましょう」


 久遠先輩は当然のように新しい書類を取り出し、黒羽先輩の名前を書き込んだ。

 雪乃は不満そうに、黒羽先輩を睨んだ。

 黒羽先輩はその視線を受けても気にせず、長机の空いている椅子を引いた。

 私はその三人を見ながら、涼香の瓶に残った色を思い出す。

 中間テストが終わるまで、涼香とは会えない。

 なのに、その間に私は別の女の子へ会いに行くことになる。

 帰るために必要なことだと、思い込もうとした。

 こうして黒羽先輩が仲間になって、私の新たな攻略が始まることになった。

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