↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/136

猫より、警戒されてる

「──というわけで、涼香(すずか)と、友達からやり直せることになりました」

「それは良かったわ。でも、これからどうするかが問題ね」


 放課後の十六室(じゅうろくしつ)。久遠(くおん)先輩はノートパソコンを閉じないままこちらを見て、雪乃(ゆきの)は窓際の椅子で腕を組んでいる。

 私は二人の間にある椅子に座って、二人の反応を待った。


「まずはメッセージを送り合って交友を深めるべきだろ。返事来ないけど」

「あら、それなら既成事実を作ってしまえばいいじゃない。ちょっとスマホ貸しなさい」


 久遠先輩が手を伸ばしてくる。


「また久遠先輩、変なの打つじゃないですか! 絶対ダメです!」


 私は慌ててスマホを胸に抱え込み、後ろに下がった。


「…………ちっ」

「今、舌打ちしましたね!?」

「冗談よ。そう、いい情報があるのよね」


 絶対に、冗談じゃなかった。


「双葉涼香は、猫が好きらしいわ」

「どこ情報ですか、それ」

「彼女の友達から聞いたわ。私が聞けば大体誰でも答えてくれるわよ」


 さらっと言うけど、誰でも、ってすごくないだろうか。

 久遠先輩は特進(とくしん)クラスで学年トップで、零式会の会長。零式会が何なのか、私は正直よく分かっていない。

 でも、先輩の頼みを断れる生徒がいないあたり、よく分からないなりに、すごい場所なのかもしれない。


「確か、駅前に新しい猫カフェができたはずよ」

「じゃあそこに行けば……」


 私はスマホの画面を開き、すぐにメッセージアプリを立ち上げた。

 文面を打つ私を、雪乃が窓際からじっと見ている。

 視線に気づいて顔を上げると、目が合った。


「……何だよ」

「攻略しないと、ループが終わらないから」

「知ってる。知ってるけど……」


 雪乃は、私から目を逸らさなかった。


***


 土曜日、駅前の猫カフェには開店直後から列ができていた。

 入口のガラスには、猫の写真と注意事項が貼られている。

 私は予約画面を店員に見せ、隣に立つ涼香を見た。


「……本当に猫カフェなんて、真白(ましろ)らしくないチョイス」


 涼香は店の中を見ないようにして、入口横の観葉植物へ視線を向けている。

 文句を言っているわりに、ガラス越しに黒猫が歩くたび、涼香の目がそちらへ動いた。


「嫌なら別のところにする?」

「別に。ここまで来たんだから入る」

「うん。じゃあ入ろ」


 受付を済ませて、部屋の扉を開ける。

 店員さんに消毒を促され、靴を脱いでスリッパに履き替える。

 涼香は説明中、ずっと涼しい顔をしていた。

 けれど、内扉が開いて、キャットタワーの上から三毛猫がこちらに向かってきた瞬間、涼香の表情が変わった。


「うわぁ……っ! かわいい……っ! すごい、みんなこっちおいでー!」


 さっきまでの不機嫌はどこへ行ったのか、涼香はスリッパをきちんと揃えてから床にしゃがみ込んだ。

 涼香は慣れた手つきで、指を猫の鼻先へ出した。

 白猫が匂いを嗅ぐと、涼香は声を抑えきれずに笑った。


「あはは、涼香はやっぱり可愛いね」

「なっ、何よ急に」

「いや、さっきまでぷりぷりしてたのに、猫見た瞬間に別人になったから」

「ぷりぷりしてない」


 涼香は否定しながら、白猫のあごの下をそっと撫でる。

 私は涼香が猫と戯れている間、店員さんにドリンクを二つお願いした。

 白猫が目を細めて喉を鳴らすと、涼香の口元がまた緩んだ。


「……おいで。怖くないから」


 涼香は白猫に顔を寄せ、学校では聞いたことのない声でそう言った。

 白猫が膝の間を抜け、涼香の手元から離れていく。


「あ、行っちゃった」

「猫じゃらし使ってみる?」

「……やる」


 涼香は猫じゃらしを持ち、床の上で左右へ振った。

 振り方が一定で、羽根はただ左右に往復するだけ。

 猫が好きな、獲物みたいな急な動きがない。

 三毛猫は一度だけ見て、すぐキャットタワーの柱へ戻った。


「え? なんで来ないの」

「涼香、猫に気を遣いすぎ」

「だって、乱暴に振ったら嫌がるでしょ」


 私は涼香の隣に座り、猫じゃらしに手を添えた。

 涼香の手の甲に、私の指が重なる。


「真白」

「え?」

「急に手を重ねないで」

「あ、ごめん」


 私は咄嗟に手を離そうとした。

 その時、涼香が口を開いた。


「……離せとは言ってない」

「え?」

「猫、来た」


 三毛猫が前足で羽根を押さえた。

 涼香は声を出さずに口を開け、それから慌てて唇を閉じる。

 我慢しなくていいのに。

 店員さんが、低いテーブルにアイスティーを二つ置いてくれた。

 その音に反応して、涼香の膝へ茶トラが乗った。

 涼香は猫じゃらしを床へ置き、茶トラを驚かさないように、そっと動きを止めた。


「あ……座ってくれるんだ……」


 茶トラは返事をせず、涼香の膝の上で体を丸めた。

 涼香は困った顔をしながら、逃がす気配がまるでない。


「涼香、飲み物来たよ」


 涼香は猫に手を添えたまま、またストローへ口を寄せる。

 涼香がアイスティーを飲み終えると、私はカップをテーブルへ戻した。


「……この子、寝ちゃった。これじゃ動けないじゃない……」


 茶トラの猫が、涼香の膝で丸くなって寝息を立てている。

 涼香はその様子を見て、愛おしそうに微笑んだ。


「涼香」

「なに?」

「今の、素直に笑う涼香、好きだな」


 私が正面から目を合わせると、涼香はテーブルのアイスティーへ視線を逸らした。

 それでも、膝の上の茶トラを撫でる手は止まらない。


「ば、バカ真白……っ!」


 涼香は俯いたまま、何も言い返してこない。


「そういえば、昔もこうやって野良猫撫でてたよね」

「えっ」

「学校の裏庭にいた子。真白が毎日餌やってたじゃない」


 私は咄嗟に相槌を打つ。


「ああ、うん。そうだったね」


 本当は、そんなこと全く覚えていない。

 この世界で『私』が何をしていたのか、私は何も知らない。


「ねえ、あの時の――」


 涼香の視線が私に向き、何かを口にしかけた。


「あ、涼香、そろそろ退店時間だから行こうか」

「え……うん」


 私は半ば強引に話題を変えた。

 膝の上の茶トラを見つめる涼香から目を逸らす。

 私は涼香の中にいる私を知らない。

 その事実を突きつけられるのが、怖かった。


「……この子がまだ寝てるから。あと十分だけ、ここにいて。延長してきて」


 涼香が、膝の猫に手を置いたまま、上目遣いで私を見る。


「はいはい、了解です」


 十分後、茶トラが涼香の膝から降りた。


「よし、出よっか。涼香、後ろの方、たくさん毛がついてるよ。コロコロで取ってあげる」


 私は店の出口付近で粘着ローラーを手に取り、涼香の背中へ当てた。


「あ、ありがと……」

「……よし、これで綺麗になったよ」

「……ん」

「ごめん。じゃあ行こっか」


 店の外へ出ると、夕暮れの空が広がっていた。


「楽しかったね、涼香。よかったらまた来週にでも……」


 私が次の約束を切り出す。


「……ごめん、気持ちは嬉しいんだけどしばらく会えない」


 涼香が足を止め、静かに首を振る。


「なんで?」

「中間テスト、頑張りたいから」

「あ…………」

「だから、連絡も多分、できない」

「……じゃあ、ゴールデンウィークもずっと勉強なんだ」

「うん」


 そうだった。

 涼香は特進クラスで、学年一位をキープし続けなければならない。

 その邪魔をしないために、過去の主人公は別れを切り出したのだ。


「そうだよね。ごめん。中間テスト終わったらさ、また遊んでくれる?」

「分かった」

「約束だよ」


 私が小指を差し出すと、涼香は戸惑いながらも自分の小指を絡めてきた。

 涼香は顔を背けたまま、それでも指はほどかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。