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女の私が女の子を抱かなきゃ帰れないって、どういうこと!? ~エロゲ世界に転生したのでヒロイン十六人を攻略します~  作者: 円井ねここ
第五章 届かない相手

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友達から、お願いします

「それで、どうだったのかしら?」

「屋上で話しました」


 放課後の十六室(じゅうろくしつ)。

 久遠(くおん)先輩はノートパソコンを開いたまま私を待っていて、雪乃(ゆきの)は窓際の椅子に座っていた。

 私は鞄をソファーの横に置き、報告した。

 特進(とくしん)クラスまで行ったこと。

 涼香(すずか)を呼び出してもらったこと。

 復縁しないかと聞いて、即答で断られたこと。


「あと、久遠先輩が送ったメッセージも見られてました」

「例のメッセージ?」

「『えっちしよ』です」


 長机の真ん中で、雪乃が盛大なため息を吐き出した。


「やっぱりお前のせいだろ!?」

「まあまあ、私も深く考えずに復縁しようって言ったから……」


 ノートパソコンに向かっていた久遠先輩が、顔を上げる。


「やっぱり強引にキスするしかないわね」

「できないですよ」

「手っ取り早くて効率的なのに」

「却下です」

「………」


 久遠先輩はあっさり引き下がった。


「はあ、どうしよう……」

「仕方ないわね。ここは友達から始めましょう」

「確かに……。とりあえず仲直りしたいって伝えてみよう!」


 私は強く頷いた。

 仲直り、と口で言うのは簡単だ。

 でも私は、何が二人の間にあったのかを何も知らない。

 それでも、明日もう一度会いに行くしかなかった。


***


 翌日の放課後、私はまた特進棟へ向かった。

 二年A組の前に立つと、昨日声をかけてくれた女子生徒が教室の中からこちらを見る。

 私は頭を下げて、もう一度涼香を呼んでもらった。

 涼香は昨日よりも眉間にシワを寄せて、教室の扉から姿を見せた。


「……また来たの? しつこい」

「ごめん! 昨日は本当に変なこと言ってごめん!」


 私は廊下で深く頭を下げる。


「……で? 今日は何?」

「いきなり復縁とかじゃなくて、まずは友達からやり直せないかなって」

「は? 友達?」

「うん、とりあえず昨日のことも含めて仲直りしたいんだ」


 涼香は呆れた顔で深くため息をつき、腕を組む。


「そもそも、そっちから振ったくせに」

「えっ」


 私が涼香を振った。

 その事実を、私はここで初めて知った。

 教室の中から、さっき呼び出してくれた女子生徒がこちらを見ている。

 ここで「覚えてない」と言うわけにはいかない。


「覚えてないわけないよね? もしかして忘れたの? 本当に最低」


 私は咄嗟に口を開いた。


「いや、あの時は深い理由が! 涼香のこと嫌いになったわけじゃなくて!」

「……っ」

「本当にごめん! 私が全部悪い! でも、涼香ともう一回仲直りして友達になりたい! だからお願いします!」


 叫んだ声は廊下の端まで届いて、教室の中の話し声が一瞬で止まった。


「ちょっと、今教室……っ!」


 涼香が顔を真っ赤にして、周囲の視線を気にしながら私の肩を叩く。


「また明日も涼香に謝りに来る! だから、涼香も考えて欲しい!」


 私はそれだけ言うと、涼香の返事も聞かずにその場を走り去った。


***


 翌日の昼休み、私は弁当箱を持って、唯花(ゆいか)と五月(さつき)のところへ向かった。

 五月は机に肘をつき、購買で買った紙パックのジュースにストローを刺している。

 唯花は幼馴染として、五月は一年からの友達として、私の知らない真白(ましろ)の過去の思い出を共有しているはず。

 涼香のことも、何か知っているかもしれない。


「五月、特進クラスの双葉さん知ってる?」

「双葉涼香? 名前なら知ってるよ。特進でいつも一位の人でしょ」

「あ、知ってるんだ」

「そりゃ知ってるって。で、その人がどうしたの?」


 五月は涼香の名前を知っている。

 でも、私と涼香のことまで知っている顔ではなかった。


「唯花は?」

「えっと、知ってるけど。真白ちゃんが一番よく知ってるんじゃないの?」


 後ろの席から、唯花がひょっこりと顔を出した。


「えー誰誰? その人がどうしたの?」


 五月が興味津々に身を乗り出してくる。


「言っていいの、真白ちゃん?」


 唯花がちらりと私を見る。


「え、うん」

「その、真白ちゃんの、前お付き合いしていた彼女、だよ」

「え、真白と双葉さんが付き合ってたの!?」


 五月はストローから口を離し、私と唯花を交互に見た。


「五月だって彼氏いるでしょ」

「どうしてそれを!? いや、別れたんだけどさ」

「別れたんだ……」


 ゲーセンで大和くんと並んでいた五月。

 彼氏とのキスを相談してきた五月。

 今の五月は、その時間を知らない。


「唯花はさ、なんで私が涼香のこと振ったか知ってる?」

「え? 真白ちゃんが振ったの? でも涼香ちゃんから真白ちゃんが振られて……あれ?」


 唯花と五月が顔を見合わせる。

 「私が振った」と「私が振られた」が、唯花の中で食い違っている。


「えっと……どっち?」

「ご、ごめん。なんかよく思い出せなくて……」


 唯花の記憶も、五月の記憶も、この世界の辻褄(つじつま)を合わせるために曖昧(あいまい)に補正されているんだ。

 これじゃあ、二人から正しい過去を聞き出すことはできない。


「そっか。ごめんね、変なこと聞いて」

「あ、でもさ!」


 五月が紙パックのジュースを置いたまま、口を開いた。


「付き合ってた時のことは知らないけど、双葉さんが特進でずっと一位って話は前から聞いてたよ」

「そ、そうだっけ?」

「うん。成績がすごくいいって、真白が前に言ってた」

「言ってたんだ、私……」

「だから、真白が振ったとか振られたとかじゃなくて、身を引いたんじゃない? 勉強の邪魔したくなくて」


 五月の言葉に、私は息を呑む。

 確かに、そういう理由なら辻褄が合う。


「ありがとう二人とも! ちょっと行ってくる!」

「どこに?」

「涼香のところ!」

「いってらっしゃい」


 私は立ち上がり、教室を飛び出した。


***


 再び特進クラスの二年A組の前。

 呼び出しに応じた涼香は、またしても不機嫌な顔で出てきた。


「……ちゃんと謝りに来た。一緒に屋上きてもらってもいい?」

「……」


 涼香は黙ったまま私を睨む。


「……少しだけなら」


 仕方ないという態度で、涼香が歩き出す。

 二人で屋上に出ると、私は涼香に向き直った。


「あの時、涼香の勉強の邪魔をしたくなかったんだ」


 五月が推測したことをそのまま伝える。


「本当に、ごめん」


 私が頭を下げても、涼香はすぐには言い返してこなかった。


「……もう、謝らなくていいから」


 涼香が視線を逸らす。


「ずっと分かってた。真白がどういう気持ちで私のそばにいるか。真白も勉強を頑張っていたのは伝わってた」

「……」

「でも、私は私の目指す場所に行きたかった。だから本当は、別のレベルの高い高校……桜蘭大附属に行くつもりだった」


 涼香の声が震える。


「でも、やっぱり、真白と離れたくなくて、十六夜学園(いざよいがくえん)の特進を選んだ。なのに、私がそうするって言う前に、真白は私のことを拒絶したんだよね」

「……」

「酷いよ。本当に、酷い」

「ごめん」

「だから、謝らないでってば……」


 涼香が目元を拭う。

 私の知らない記憶を、私と過ごした大切な記憶として話す涼香に、私は「覚えてない」と言えなかった。

 その代わりに、もう一度頭を下げる。

 でも、これはあくまでゲームの攻略。

 元の世界へ帰るためにやるべきことなのだ。


「だから、最初からやり直そう。友達として、一から」


 私は涼香の目を真っ直ぐに見据える。


「だめ、かな?」


 涼香はしばらく黙り込んでいた。


「……分かった。友達からなら……」

「ありがとう涼香!」


 私は嬉しさのあまり、涼香に飛びついて抱きしめた。


「ちょっ、友達からって言ったでしょ! 離して!」


 涼香が私の背中をポカポカと叩く。

 しかし、その力は弱く、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

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